126話:サビと一緒に街の探索 その5
「…………」
「頑張ってるな……」
「…………」
俺の声が聞こえていない所をみると、サビは完全な集中状態で作業をしているようだ。彼女のもつ鉛筆の手がすらすらとのっており、意欲的に似顔絵を描くことを楽しんでそうだ。美人な顔に映る表情は真剣そのものだから、席の近くを横切っていく多くの人達の視線が彼女に釘付けになっていて注目の的だ。横顔美人って思っているのかな?
でもそれを厭わずに近付く輩もいるわけで。
「へへっそこのかーのじょ。何描いているんだい?」
「ああ? てめぇ、俺の妹に何かようかよ?」
チャラい感じをした男のハンターが酒の勢いで俺達に絡んできた。あぁ、バカだこいつと思い。俺は彼女の楽しみの時間を邪魔をさせない為に仕事に入ることにした。おかしな事しだしたら許さねぇからな……。
「おっ、やるのかー? てめぇなんか怖くねぇっての」
「せーいっぱい煽っているつもりだろうけどよ。俺の耳に入ってくるのは三下の言葉にしか聞こえないぜ?」
「んだとこの野郎! おい表に出ろよ。ブッころすっ!」
あーやっぱりそうなるのかよ。こっちはサビの絵を描く姿を楽しんでいたのに……。とりあえず付き合うしかないのか? と思っていると。
「おい、そこのハンター。私の連れに何ふざけた事をいっているのだ」
「あぁん……ってあんたは……黒銀の……」
「あっ、ミステルさんお久しぶりです!」
「――ふぇっ!?」
「うん久しぶりだなカリトくん。いままで何処で何をしていたんだい?」
「あーっちょっとギルドからの長期指名依頼のクエストを受けていたんでですよ。それでこの街から離れていたものでして」
あのチャラ男。ミステルさんを見るなり一目散でとんずらしていったな。ふっいい気味だな。
「そうか。なら仕方ないな。くれぐれも遠方に行く時は超巨大モンスターの進行ルートを把握して遠征に挑むんだぞ」
「超巨大モンスターとは……?」
「その名前の通りのモンスターだ。いろんな物が規格外。強さも堅牢さも桁違いと言い直すべきかな。そんなモンスターに君が遭遇するのだけはあって欲しくない」
「ちなみにその話をするということは」
既に目撃情報があるというんだろうきっと。でなかったそんな話は振ってこないはずだ。
「ええ、隣国からの報告でこの国に向かって。100年に1度の災厄。歩く破壊要塞。要塞巨龍・バオレイジュロンが向かっていると情報が入ってきているの。ギルドもその事で持ちっきりなのかしら。私達のクランを筆頭に他の大手クランを招集して大規模師団を編成しようと計画の準備が進んでいるわ」
RPGによく出てくる単語がここで聞けるだなんて。異世界に来て久しぶりにその言葉を聞いて高揚感を感じたぞ。さらにミステルさんは。
「もし将来的にクランを編成するならレイドというものを見学するのもいい後学になると思う。君が困らないのなら緋の与一の団員として一時的に入団してみないか?」
「えっ、ええっ!? お、俺がミステルさんのクランに入団ですかっ!?」
「あくまで一時的な加入だから勘違いしないでくれよ!? 兄を説得するのに一苦労だったんだから。出来れば私の労を無駄骨にしない返事を期待しているよ」
お断りはご遠慮願いたいという意図を感じるミステルさんからの言葉に、重い腰を上げる形になるかもしれないと考えを巡らせてながら。
「ちょっと個人的なトラブルがあって。それを解決してからになってもいいですか?」
「トラブル? どういったものだ?」
ちょっとミステルさんにホワイエットの事を話すべきか迷ってしまったが。それなりの付き合いもあるわけなので彼女に事情を説明する事にした。
「……なんと酷い。わかった。それを解決してからでも構わないわ。密猟組織についての話しは大体把握はしているが。まさか知り合いのモンスターが……」
「まだ情報不足なんですけど。密猟組織が完全に絡んでいるかは定かじゃないです。ただホワイエットが拉致にあったのは事実ですし……うーん。いまこうしてサビに重要参考人の似顔絵を描いて貰っている最中なんですよ」
「ふむ。見た感じ奇抜な男だね。これなら直ぐにでも見つかるとおもうのだけど。もしよかったら私にも一枚くれないか? クランのメンバーにも掛け合ってみるわ。なにか有益な情報があれば手紙なりで伝えるわね」
「手紙ですか?」
「うむ。明後日からクランで遠征クエストがあるんだ。それの関係でしばらくは会えそうにないからだよ」
それまではミステルさんとのつながりはないのか……。寂しい気もするな。事が落ち着いたらリリィも連れて狩に行きたい。ミステルさんにはインストラクターを兼任してもらいたいなと思っていると。隣で集中していたサビが。
「出来ましたわお兄様。こちらになりますわ」
絵の完成を告げてきた。
明日も予定通り更新いたします。よろしくお願いします。
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