119話:色違いのコンビ―結成その2―
「ここがお前のいうモンスター牧場っていうやつか……」
彼はこう思っているだろう。古びた厩舎と草原が広がる牧草地の光景が広がっていると。そうだ。ここが俺と彼女達の住処であり大事な居場所だ。俺は彼に声を掛けて中へと案内した。すると。
「……結構な感じで生き物の臭いがするな」
「当たり前だ。人間とは違ってあいつらはモンスターだ。臭いだって違うんだよ」
「そ、それにしてもだよ。なんでこんな都会育ちの俺なんかにこんな場所を選んだんだよ。変な勘ぐりを入れたくなっちまうじゃないか」
「素直に善意で受け止めてくれ。これでも努力はしているつもりだ」
単に経済的な面に直面して上手くいっていないのが現状なのは言わなかった。こいつにはそこまで関わって欲しくないからだ。ふと。
「あっおかえりーご主人。って……誰だそのオスは……? なんだか変な臭いがする……」
変な臭い? どういう事だ? 俺が帰ってきたのを感じてサンデーが顔を覗かせにきたと思えば、最初の一声がイリエに対するそれだ。
「あぁ、こいつはイリエっていうんだ。最近知り合ったいいやつだ」
「本当に……? なんか私の本能が怪しいと言っているぞ」
「えっ……」
モンスターの本当というのは時には恐ろしいもので。狩をするときには注意しなければならないリスクのある要素だ。したがってサンデーがいっている事はマジだと思う。ただ、警戒心からそう言っているだけかもしれないけど。それにサンデーとはちょっと仲が悪くなっているしな……。
「なぁ、こいつ本当にモンスターなのか? 俺をからかうためにこんな場所に連れてきたのかよ?」
怪訝な表情を浮かべるイリエ。いやいやそうじゃないと否定したいところだが説明の順序があると思い直して話す事にした。
「俺の能力のひとつにモンスターを人間の姿に変身させることが出来る力があってな。それで彼女はこの姿をしているんだ。そっちの方が外に連れて行っても周りがパニックになることはないしな」
すると。
「ふむ……信じがたい話だが……。嘘を言っている素振りや言動はないところを見る限り本当らしいな……」
「無理に理解しなくてもいい。俺にもまだこの力には謎が多くて全般を知っているわけじゃない。それに使える力もほんの一部だしな」
「ちなみにそれは誰から教えられたものなのか? そう言われてお前は理解しているのか? 出ないと俺の中では不自然に思えてくるんだが」
グリムのことを話すべきか? だがそれだと彼女に迷惑を掛けることになると思い。
「ああ、まあ仕事の関係で学者とつながりがあってだな。モンスターテイマーの話を聞いて相談したらそう答えられてね」
「つまりその学者とは関係があって。それで教えて貰っている最中か」
「ああ、まあそうなるな」
ちなみに名前は?とか聞かれたら不味かったかな。と思ったのもつかの間。サンデーが。
「なあご主人。私腹減ったよー。はやくご飯作ってよー。待ってたんだよー」
彼女が空腹を訴えてきた。俺も同じだしそうするか。俺はイリエに。
「という訳だしよかったら一緒に飯食わないか?」
「話はあとか。わかった。じゃあご相伴させてもらうか。なにか手伝えることはあるか?」
「そうだな……。じゃあ調理の手伝いを頼みたいんだが。いけるか?」
「当たり前だ。自炊できない男に女は着いてこないからな」
あっちょっと今の自分に思い当たる節があるから否定できないところがあるな。リリィに満足してもらえるような料理が出来るように頑張らないといけないな。
「じゃあこっちに来てくれ。サンデー。サビを呼んで一緒にバーベキューの準備をするぞ」
「本当っ!? わかったわご主人! サビのやつ絵描きに夢中になっているけど呼んでくる!!」
あっ、それって不味い感じじゃ……あぁ、呼び止める前にサンデーがサビの元へと行ってしまった。んで、
「わぁあああああん!! ご主人! サビのヤツが激おこで私を殴ったぁ!!」
「まったく……お前ってヤツは……。あいつが絵描きをしているときは邪魔するなって言っただろう。興奮しすぎだ」
「大丈夫かよ……」
まぁ、これくらいは日常茶飯事なわけだしな。特にイリエが苦笑いするような事じゃないとは思うんだけど。変なのかそんなに……?
「ああ、まあいつもの事だから気にしないでくれ」
「お……おう……そうか」
何でそんな変人を見るような目をして見てくるんだと言い返したかったが、初見の彼の事を思って言うのはやめておいた。最初俺もそうだった頃があったし。
「じゃあ、調理場に案内するから着いてきてくれ。ほらサンデー。ポテトを剥くの頼んだぞ」
「……うぅ、うんわかった……。泣くの我慢するよご主人」
「あとで美味しいもん食べて元気出せ」
「うん!」
気持ちの切り替えの速さにちょっと驚くイリエを見ながら笑みを浮かべて調理場へと向かった。そして。
「こ……これはいったいなんの料理なんだ……いやこれがバーベキューっていうのは分るが。初めて見るぞ……。どう見てもただ火カゴの上に載せた網の上に食材を焼くだけの料理って」
初めてのバーベキューに率直な感想を述べてくる彼に対して、
「ああまあ何も考えずに思えばそう見えてくるだろう。だがなこの料理はシンプルに見えて実に奥の深い料理なんだぜ?」
「ほう、とういうと?」
「初心者のイリエに説明するのもあれだけど。簡単に言えばタイミングと焼き方でこの料理は初めて美味しさが見いだせるわけなのさ」
ちょっと学者様ぽいしゃべり方で彼に説明すると。
「うむ……。よくよく観察すると確かにな……。言われてみれば初めて気づくことが多いぜ……。てか旨そうだ」
「うん。その美味しいが大事なんだぞ」
網に乗せられていく野菜や肉を、丁寧な手つきでトングを使い、焼く作業をしてくれているサンデーが俺の代わりに話を引き継いでくれた。おい、なにこっそり俺達に見えないように生肉をつまみ食いしてるんだよと心の中で思った。あとでちょっとお説教かな。ふと。
「くんくん……あぁ、なるほどですの。ご主人様以外の異様な臭いが立ちこめているなって思ってみて覗いてみたら見慣れないオスがいたわけですね」
「おっサビか。お前なぁ、サンデーに呼ばれたからって殴るのは良くないぞ」
「ふん。それはサンデーが私のアートな時間を邪魔したからですわよ。あと少しで最高傑作ができると筆先を緻密に動かして意識を統一していたのに。この子。ガバッと背後から突然大きな声をかけてきて。そのおかげで私びっくりしてそのまま画材道具を倒してしまってそのまま作品が……ぅう……」
落ち込む彼女の姿を察するにうん。
「サンデー。お前あとでお説教な」
「えぇえええええええ!?」
「当たり前だろまったくよ……」
もう少しサンデーは相手のやっている事を見て気を遣ってやれる子になって欲しいなと思った。すると。
「……可愛いお嬢さんだぜ」
「あ?」
ん? イリエの様子が変だな。なんだ、サビの事を見つめて……。
「おーいイリエ。聞こえるか?」
「あ……ああ、すまんボーッとしてたな」
「おう。ほら焼けたぞ食べてみろ」
「普通にこのままか?」
「いや、この調味料をつけて食べるんだ」
「塩と、これって胡椒じゃないか! 高級品だぞ!?」
「ん? ああ、それは不良品だ。なあに、普通に加工すれば見た目は変わらんし風味も少し良品より劣るけど手頃に扱える品だぜ」
「これは何処で……?」
「ああ、採取クエストでちょっと融通して貰ったんだよ」
「あぁ、お前本職はハンターだったな。だからこんなに豪華な食事が並ぶ訳か」
豪華と評価して貰えてちょっと嬉しい気分になるな。
「ほらこの一番いい肉を最初にくってみろよ」
「じゃあ頂こうか……うむ……こっ、これは上手いな!」
初めてのバーベキューの味に感動と共に喜ぶイリエを見て思わずほっこりする自分。これがやりたかったんだ。イリエと仲良くしたいなら食事が一番だと思って。誰だって飯食って嬉しくないって思うヤツなんていないわけだし。それに食事をとることは万国共通なわけだ。この一時だけは心を通わせられる良い機会だと思って誘ったわけだ。
「じゃあもっと楽しみながら食おうぜ。サビもほら皿と箸つかって食べな」
「見慣れないオスと一緒に食事するのは……ちょっと……」
「ああ、そうか。じゃああっちの席で一緒に食べるか?」
「あたしもご主人と一緒に食べたい!」
サンデーもかよ。となると……。
「いいぜ。こうなるとは予測していたしな。心配するな。探偵やっているとこういうことは慣れたもんだしな」
「それだとお前だけ寂しい思いするじゃないか……」
これじゃあ考えた作戦が意味を無くしてしまうじゃないか……。するとイリエが。
「サトナカ。お前はもっと大切な娘達とコミュニケーションをとりな。なんかお前らを見ているとそんな風に感じるんだ。俺の事をどうにか良い関係に持ち込もうという気持ちは身に余るほどにありがたいが。目先の事よりも目の前の人達を大切にしな」
「…………」
そう言いながらフォークを使って皿の上にある肉や野菜を食べるイリエを見て思わず、沈んだ気持ちになりながらコクリと頷くだけしかできなかった。なんだろうな本当に……。
明日も予定通り更新いたします。よろしくお願いします。
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