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117話:対峙と迷い その3

「レフィア先輩!」

「あらもう帰ってきたの? 意外と早く終わらせてきたみたいね」


 レフィア先輩の所在を探し、最初に訪れた寮で彼女と出会うことができた。本当に偶然と言うべきか奇跡的と言うべきなのか。丁度俺が寮に訪れた直後にレフィア先輩が部屋から出ようと外にいた。これから何処かに出かける予定でもあったのだろう。


「はぁ、はぁ、はぁ……。今からお出かけですか?」

「ええ、いまからちょっと近くの小売店でお酒でも買いに行こうかなって思って。よかったら一緒にくる?」


 どうする俺? 今から大事な話があるのですと言うべきか? いや、ここはひとまず先輩の用事を済ませてからの方が良い気がするな。先輩に合わせてタイミングを見計らって話そう。後回しなのは目をつむるしかないか。


「ええ、良かったら俺にもお酒を奢ってくださいよ」

「ふふっ、現金ね。いいわ。新人がもう飲みませんと言わせるまでお酒。飲ませて上げるから覚悟しなさいよ」

「うへぇ……覚悟しておきます」

「うん。その意気ね。もう少しその言葉で仕事に打ち込んでもらえると助かるのだけどねー」

「うっ、日頃の努力でなんとかします」


 いやまて酔い潰れたら話せることも話せないんじゃと思い、ここで話をつけようと思い直すことにした。なんだかレフィア先輩は上機嫌なようだし、多分俺が命令を遂行したと思っているんだろうな。この顔が怒った表情になると思うとちょっと申し訳ない気もするが……。あと怖い。でも。


「逃げるわけにはいかないよな」

「ん? なにか言った? 逃げるって何なの?」

「先輩。実はいま話したい事があるんですけど良いですか?」

「話したい事? 内容にもよるけれど出来たら先に買い物は済ませておきたいわね」

「どうしても今ここで相談したい事があるんです」

「何?」


 ひと言でも言葉を間違えれば爆発する火薬庫のような雰囲気を纏っているレフィア先輩を前にして俺は、


「今日。俺は殺しをしませんでした」

「……なんて? もう一度いって」


 既に後戻りは出来ない。するつもりもないし決意した事だ。


「俺は先輩の言うとおりに人を殺すことはしませんでした」

「…………それで?」


 もうレフィア先輩の言動に殺しのスイッチが入っているのが感じられる。既に臨戦態勢の状態だ。だが俺はそれでも彼女の受け答えに対して応じず、その場で堂々とした、内心ビビってはいるけれど、顔色ひとつ変えずにレフィア先輩の目を真っ直ぐに見つめる。


「この二日間ずっと悩んで考えてきました。最初は先輩の言うとおりにしよと思ったんです」

「だったらなんで私の言うことを聞かなかったのかしら?」

「俺の身勝手な理屈を言わせてください。俺は銃を撃っても人を殺したりはしない。例えそれが悪人だったとしても命を奪う権利は放棄するつもりです。この仕事で権利が保証されていても俺は。自分の正義を信じて貫き通したいと思い。先輩の命令から背きました」

「他に言い残すことはあるのかしら?」


 その瞬間。レフィア先輩の並ならぬ手さばきで俺に銃口が向けられる。引き金はまだのようだ。俺にはまだチャンスがあると確信し。


「今日。殺しの相手と契約を結んできました。誓約書です。相手がこちらのことで知り得た情報は外部には絶対に漏らさないと言って書類をもらってきました」


 イリエとの話の流れで無意識に受け取っていたその書類をレフィア先輩に見せつけた。すると。


「イリエ……」

「…………」


 そう探偵の名前を読み上げるレフィア先輩に少し戸惑いの感情が見え隠れしているのを感じた。


「そうなの……ね……」


 レフィア先輩はその場で思い悩む表情で下唇を噛みしめ、俺に向けている銃を地面に向けて元に戻し。


「それで詳しくきこうじゃないの。あなたの正義で得たチャンスよ。私にも分るように説明をしなさい」


 ここにくるまでに起きた事を全て話した。すると。


「……なるほどね。それで殺すのは惜しいと言いたいわけ? 相手は情報を取り扱う業界人よ。こちらの組織の素性が知れたらどうなるか分ってのことよね?」

「勉強不足だったのは自覚しているつもりです。それでもあのイリエを信じてみるしかないと思ったんです。それに。ホワイエットを見つけ出す唯一の鍵を持つ男なんです。殺せばそれを自ら手放してしまう。そんな事は出来ない。いまこうしている間にもどこかでホワイエットはギャング連中共にたらい回しにされている。組織の秘密のために目の前で大切なモンスターを失うくらいなら。俺は後者を選びます」

「組織より個人の事情を優先すると言いたいのね。それを聞いて私がはいそうですかと簡単に頷くわけないでしょ。殺しは、私から見れば効率の良い事後処理だと思って勧めたつもりだったのだけど。何か間違っている?」


 どういうつもりでそんな問いかけをしてくるのかが分らない。意図の読めないレフィア先輩の話にどう返せばいい。


「……殺す事は誰でも簡単にできることです」

「ええ、だから新人の貴方にでも出来ることをさせようと思って命令したのだけど」

「そんなの個人の事情って思いません?」

「なんですって?」

「それって組織全体が決めた上での命令ですか? 違いますよね? レフィア先輩が話を聞いて独断で判断した上での命令ですよね? 俺たちのリーダーはルーノ職長とアルシェさんです」

「じゃあ職長とアルシェさんなら言うことを聞いて殺しをやれるというわけ? 私の命令は聞かないと言いたいの?」

「いえ、それでも俺は自分の望む正義を貫きます」

「あまりにも青臭いきれい事よ!」

「それでも! 俺は自分の事を信じて言っているんですよ! でなきゃ俺はこの組織にいるつもりはないんです!」


 まぁ、最初はアルシェさんに身の上話を聞かされたから入った所もあったけど。廃墟都市での出来事を見てからは考えが変わったな。


「俺はモンスター達が安心して暮らせる未来を作りたいんです。組織に入ったのもその理想が実現できると思ってのことです。知ってますよね魔薬がいまこの街で。いえ、既に世界中に蔓延しつつある事を。プッタネスカが遺した負の遺産のことを。この街には俺の大事なモンスター達が暮らしているんです。それを守るなら俺は自分を犠牲にしてでも彼女達を守りたい。魔薬の根絶を一番に俺はそう願っているんだ。俺がこんな所でつまずくわけにはいかないんだ!!!!」

「それで結論は?」

「レフィア先輩を納得させるような事をしてみせます。これが俺の失敗に対する落とし前とさせてもらいます」


 俺から目線をそらし苛立ちを募らせながら考え事をするレフィア先輩。じっと堪えて彼女の返答を待つと。


「じゃあ、これなら聞ける? 殺しはしなくていい。ただし、そのイリエという男を責任を持って監視しなさい。あと、今回のホワイエットちゃんの事件。私は降りるわ。それで良いなら今回のミスと命令違反はもみ消して上げるわ」

「あ……ありがとうございますレフィア先輩!!!!」


 こうしてレフィア先輩から許しを得ることができた。しかし。


「ただし条件がある。もしそのイリエが何かおかしな事をした時は。分っているわよね……?」

「……はい」


 何かあれば俺事殺すつもりなのだろう。だったらその約束された未来を変えてやる……!


「話はそれだけかしら? ほら、もうこの話は終わりよ。さっさとビール買いに行くわよ。あんた荷物持ちだから」

「うぇ……分りましたぁ……」


 

明日も予定通り更新いたします。

もしこの作品を『面白い』と思って頂けたり、『続きが気になる』と思って頂けたならぜひ広告下にある『☆☆☆☆☆』の所を押して頂きますようお願い申し上げます。今後の作品制作の励みになります。

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