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115話:対峙と迷い その1

昨日更新したパートですが。表記に誤りがあり加筆修正作業をさせていただきました。あらためて読み返していただけるとありがたいです。ごめんなさい。

 ついに今日が来てしまった。昨日に用意した拳銃は腰元のウェストポーチに閉まってある。今日はいつも着ている制服を身につけてきた。相手の出方を考えて今日はこの服装だ。見られて何されるかなんて分っている。覚悟は昨日のうちに決めた。だが。


「結局……あいつらには嘘をついてここに来てしまったな……」


 モンスター達には街で1日仕事があるとだけ伝えて外に出てきた。その時サンデーがホワイエットの事はどうするんだよと問い質してきたので、ホワイエットの事で行くんだと答えると。


「私もご主人と一緒に同行したい」


 と真剣な面持ちで話してきたので。彼女を巻き込みたくないと思い、


「ごめんな。今日1人だけにさせてくれないか。これは俺のやるべき事なんだ」


 と話すと彼女は。


「そう……なんだ……。うん……分った……」


 いつもなら食い下がってくる筈の彼女が、何を思ってなのか諦めた表情を浮かべて身を翻して俺のもとから離れて行き、そのまま広場がある厩舎の外へと出て行ってしまった。

 その時俺は後悔の感情と共に、心の中で本当にすまないと小さな声で呟いた。でもその言葉は彼女には届かなかった。


「今日が俺の命日になるのか」


 異世界生活を初めて間もないのにもう俺の人生は死ぬのか。そう思うとあっけないという感情が前に出てきている。何の為に俺は異世界転生したんだ。理由も分らずこのまま死に行くだなんて……。


「俺、どこで道を外しちまったんだよ……」


 朝日の差し込む人で賑わうボルカノの街の中。イリエ探偵事務所に続く道に向かって、大勢の通行人を掻き分けながら歩き、誰に訊かれても意味の分らない独り言を話しつづけ。ただ淡々と前へ前へと死に行くために進んでいく。きっと通りすがりに俺を見た人は死んだ魚のような顔をしていると見ているに違いない。俺の心はもう濁りきっているから何聞いてもそう思うことしかできない。良いんだよ。もう俺なんて禄に仕事で人を殺せない人間なんだから。


――ならいっそ、ここで先輩に証明を見せつければ良いんだ。俺でも組織の為に人を殺せると。


「大丈夫だ俺。これまで何度も銃を撃ってきただろ? 」


 殺しの方法をしっかりと教わらないまま今日までネメシスに身を置いてきた。確かに人に向かって銃を撃ったことは何度もある。その度に相手の事を思って戦闘不能になる程度の重症で事を済ませてきた。だが今日は違う。上司であるレフィア先輩からの命令で本当に相手の命を奪わないといけない。


「ははっ、手の震えが収まらないやははっ……」


 怖い。どうなるんだろう自分。もしこれが殺人事件で捜査でもされてみろよ。俺はこの世界で殺人犯とレッテルを貼られて生きることになるんだ。ホワイエットの為に良かれと思って覚悟したのに……こんな事になるなんて……やらなかったらよかったんだと最初は思ったけれど。


「ついた……」


 俺はホワイエットを救う一心で、自分を犠牲にして正しい選択を見誤ったんだと思う事にしたんだ。今から俺はその責任を取るために与えられた命令をこなさないといけないんだ……。


「誰もいないな」


 辺りを見回して人がいないことを確認。直ぐさまウェストポーチの中にある銃をズボンの腰元に差し込んで携帯し直す。昨日おまけで貰ったリボルバーの冷たく堅い感触が伝わってくる。ハンマーを降ろし、狙いを定めて引き金を引くだけの簡単な操作だ。何の造作も無い。いつも使っていたライフルと何ら大差の無い動作だ。


「ふぅ……いくか」


 路地裏にあるテナント式の建物。その2階でターゲットが待っている。

 

「…………」


そのまま階段を上り事務所前に立ってドアノブに手をかけて中へと入っていった。


「なるほどね。それで――」


 日差しが差し込む窓辺に座り、茶革のブックカバーを掛けた文庫本を両手にイリエは読書をしていた。誰かと話をしている最中だったのか。だがそこには誰も話し相手はいなく。それを見て俺は彼が単に本の内容に対して思わず反射的に反応しているんだと思った。そして。


「おはようございますイリエさん」

「……ああ、お前か。えらく早い到着だな。どうだ。あれから何か進展はあったのか? それとも今日早く来た所をみると……相当切羽詰まった状況なのか……?」

「…………」


 黙っておこう。ここで下手に喋れば変に怪しまれてしまう。切羽詰まっているのは事実だ。だがお前と俺の中で思っている事は違う。


「黙ってないでなにか言えよ。取って食うわけじゃないんだ」

「ホワイエットの情報は集まったのか?」

「なんだよさっきまでの沈黙はよ。色々と無駄に洞察力を働かさせやがって……。まあ、とりあえずそこのソファでも座って話そうぜ」

「ああ」


 イリエの誘いに応じて以前と同じようにソファー腰掛ける。


「よし、じゃあさっそくだ。金は持ってきたか?」

「ああ、ここにある」


 まずは金銭の受け渡しから始めるらしい。なるほど。こちらの方でちゃんと対価を用意しているのか確認を取るつもりか。そう思いながら腰元が不自然ならならいよう慎重に身体を動かし、ウェストポーチの中から札束の入った封筒を手に取り机の前に置いた。イリエは手を伸ばして封筒を掴み取って中身の確認を始めると。


「うん。ちゃんと数は揃えているな。とりあえず。ひとまずは机の上に置かせてもらおう。このまま貰うのは俺のやり方じゃない。相手が納得して初めて商談成立になる思っているんだ。ダメならもう一度やらせてもらうか。その場で契約解消になるかのどちらかだな。あんたはどっちなんだろうか」

「聞かせてくれ。ホワイエットは今どこにいるのか。あんたの知り得た情報を俺に教えてくれ」

「単刀直入に言って。これはかなりヤバイ案件だったと振り返らさせて貰う。なんせ俺でも足を掴むのは難しかったからな。何度もめ事に発展したか。思い出しただけで嫌になってくる」


 自分の経験した事を思い出して苦い表情を浮かべている。それを淡々とした表情のまま受け取り。


「それでどうなんです?」

「正直。拉致の可能性が濃厚だ。俺の情報網であたった限りでは。白髪の少女が何処かのギャング組織の野郎共が誰かに依頼を受けて連れ去って。そのまま取引先のギャング組織に高値で転売したそうだ。それも足を掴まれないように何回も同じ繰り返しで転売を繰り返して回しまくってやがる。完全にロンダリングによる人身売買の手法をそのまんまだ。それが昨日までの話だ」


 ホワイエットが行方不明になったのはそれが原因だったのか……。でもどうしてあいつが狙われたんだ……?


「どうしてホワイエットが人身売買ロンダリングに巻き込まれたのですか?」

「それは分らん。転売を依頼してきたギャング組織の名前が偽名だったからそれ以上の事は追えなかったんだ。まさに出口のない無限のループが続いている感じがしたな。抜け道の先には大本の組織がいる筈なのに、その糸口がつかめずにいる。念の為にもう一度元請けの組織の名前を暴こうと思って裏を取ったんだけどよ。その名前しか知らないの一点張りばかりで成果を出すことが出来なかった……。すまん」

「えっ」


 イリエがその場で謝ってきた。つまり……。ホワイエットにはもう会えないのか……?


「俺はずっと探偵家業で飯食ってきたんだが。今回はお手上げだ。金を用意してくれた手前だったが。これ以上は力になれそうにないんだ……」

「じゃあ、もう。このまま契約終了という事ですか……?」

「ああ、そういうことになる」


 その瞬間。俺の頭の中にある白い糸がプッツンという音と共に切れた感覚がした。もう、いいよなこれで。殺しの動機は明確だ。ホワイエットを救えて希望を託したのにこの扱いだなんて……!! それでもお前はなんで平然とした表情をして話していられるんだよぉおおおおお!!!!


「なんだ急に立ち上がって……あん?」

「納得いかねぇよ! お前は俺の希望を踏みにじってなに平然としていやがるんだよっ!!!! ブッコロシテヤル!!!!!!!」


 迷いは自然と立ち消えていた。すかさず腰元に隠していたリボルバーを右手で引き抜き構えて、銃口を目の前のクソ野郎に向けて狙いを定めた。

 バクバクバクバクバクバク高鳴る心臓の鼓動、コロセコロセコロセウテウテウテヒキガネヲヒケと先走る焦燥とした感情に息が詰まる思いがこみ上げてきている。


「…………そんな銃で俺を脅してどうなるっていうんだよ? 俺を殺してあんたの大事なモンスターが戻るわけないだろ? なぁ、モンスター使いのサトナカ カリトよぉ」

「なっ――!?」


 イリエはどうしてそのことを知っているんだっ!? どうしてコイツは余裕綽綽よゆうしゃくしゃくとしていられるんだっ!?

 手の震えが収まらない。何故俺はハンマーを起こして引き金を引けないんだ……!! 


「なんて……どうして……どうしてなんだよぉおおおおお!!!!」


 自分でも分らない現象を目の前にして頭の中がグチャグチャとして気持ち悪い。そしてイリエがさらに。


「それにお前。いったい何者だ? ホワイエットを調べる前にあんたを調べさせて貰ったが」


 といって、


「真っ黒じゃないか。名無しのサトナカ カリト。偽名だろ? 本当の名前はなんだ? 住所を調べても線消しされてて所在不明ときた。で、出生届や生れ故郷もわからない。仕事はハンターをしているらしいが。やけに羽振りが良いと訊いている。ハンターランクにあった収入じゃないとな。そうなると――」


 と告げて、


「お前。裏社会の人間だろ。それも普通じゃないダークな組織の人間だろ?」 

「……くそ!」


 イリエが鋭い目つきの物言いで俺を追及してくる。銃を向けられているのにリラックスとした様子で何も動じる様子もない。俺が撃てないと思ってそうやっているのかよ……!!!! ならと思って引き金に当てている指を動かそうとしたのだが。


「ふん、その顔となりで一発だ。あんた隠すのが下手くそすぎだろ。もうちょっとマシな服装をしろ。でないと今のあんたではホワイエットちゃんは救えねえ」

「うるさい! それでも俺はあいつを守らないといけないんだ!!」

「異常なまでのモンスターの少女に対する執着心……。お前の原動力はなんだ……?」

「俺は――俺はモンスターが大好きなんだよ!!」


 震える身体で力を振り絞り、イリエに分らせるために声を張り上げる。


「そうか……。ならなおさら銃を下ろせ。事情を聞かせてくれよ。安心しろ。反撃はしない。それに今の俺は丸腰だ。銃なんていう鉄の塊。俺はそんな危ない物を持ったりするのが嫌いなんだよ。暴力で物事を解決するようなやり方は身を破滅に導くって、おやっさんから教えられているからな」

「……はぁ……」


 その話を効いた瞬間。ほっとした安心感を感じたのと同時に力がガクッと抜け落ちてリボルバーを床に落としてしまった。そして俺は、


「ダメだ……撃てない……銃で人を殺したくない……!! こんな事で俺の異世界生活が終わって欲しくないんだ……!! いやだよ!! 俺はまだあいつらと楽しい日常生活がまともに送れていないのに。なんであんたを殺さないといけないんだよ!! いやだよ……。俺の信じる正義はこんなんじゃないんだ……!! うぅっ……!! リリィ……ごめん……俺のせいで君の居場所を壊してしまったよ……」

「お前……」


 感情のあまりにその場で嗚咽の後に号泣した。

明日も予定通り更新いたします。よろしくお願いします。

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