114話:戸惑いと葛藤
カミルさんに対して機嫌を損ねさせるような言動をあまり上手くはできないけど、その都度取り繕いながら商談を進めていき。
「そっか。初めて拳銃を使うのかー。なるほどなるほど。じゃあいきなり大口径の弾丸が撃てるやつは避けて置くべきだな。可能な限り殺傷力があって、初めてのあんたでも単純に扱える拳銃となるとこれか、これだな」
「いろいろな形の銃があるんですね……」
左から黒色に木製グリップのリボルバー、王族警備の関係者が使っている黒色にプラスチックのグリップのスライド式半自動拳銃、拳銃弾をつかう極限まで切り詰めたボルトアクションライフルがカウンターの上に並べられている。左と真ん中は分るな。リボルバーは構造がシンプルでいつも使っている銃と似たところがあって、カミルさんが選んだ理由が分る。改造すれば大口径に変換できると説明を受けた。左は色物だな。
「真ん中はまぁ、一般的に癖のない平均的な操作ができる銃だな。ちょっと練習すれば直ぐでも扱えるとおもうぜ」
「ハンドガンでしたっけ?」
「ハンドガンっていう言葉はしらんが。こいつの名前は『ヘンリエッタ92』だ」
「ヘンリエッタ92ですか」
「ああ、王族の護衛要員が銃を隠し持ちたい時に好んで使っているぜ。まぁ、普通の仕事をしている奴らには分らんはなしだな。銃を扱う仕事限定でいうならもっとも売れてる既製品の1つだぜ。安価な金属部品だけを使っているからコストパフォーマンスが高い。あんたにもオススメできるぜ。弾丸もライフルに比べたら安いからいいぞ」
そんなにパンパカパンと撃つことはしないと思うけど、普段使いでいけるのはいいな。ネメシスの仕事でも使えそうかな……。あくまで身を守るときだけに使用は留めておきたいけど。
「この右のヤツは私の趣味が混じった逸品だ。工房お手製のボルトアクションピストルライフルだぜ」
「拳銃かライフルなのかどっちなんですかそれは」
「いいだろ~。こういうロマンのある銃を狩につかうっていうのもアリだと思ってつくったんだぜ!」
一定の需要を見越して職人のカミルさんが考えて作ったんだろ。
「使う弾薬はなんです? 見た感じ箱形のプラマガジンは拳銃弾用の弾倉ですよね?」
「そうだね。威力の高すぎるやつだと扱いにくいと思ったからな」
「普通に使ったら独特の反動で不慣れなことになりそう」
「拳銃より良い方だぜ。だってこいつはオプションでグリップとかスコープをつけられるんだからな。命中率はこっちがいいし。飛距離も200メートルは余裕だ。拳銃なんてせいぜい50メートルが限界なんだぜ?」
「射程距離のアドバンテージはやってたらよく分かります」
「そうさ。分ってるならつべこべいわずこれを買ってくれよ」
「いっ、いきなり押し売りですかっ!?」
あっ、これはこの銃を買わされる流れに持って行かれそうだ。それはいけない。だって持ち運びとかに気を遣うし。持っている事がバレるじゃないか。でも、マニアックなところがいいな……。ちょっと欲しいかも。それに人を殺す銃だぞ……。カミルさんが丹精こめて思い入れを詰め込んだ銃なんかにそんなことをやらせるわけには…………。
「なぁ、いいだろ~。期待の新人く~ん。あんたが活躍してくれればこうやって銃が売れるんだよ~。ここは店のためだと思って買っちゃってよ~」
「うっ、受け取れませんって……!?」
何も買うと言っていないのにニコニコと笑顔でカミルさんがその銃を両手にもって突き出してきている。さらに。
「なぁ、ここは交渉だ。こいつを買ってくれたらセイバーの代金を割り引きしてやるぜ」
「えぇっ!? それってダメなんじゃっ!?」
経理的ななにかで問題になるんじゃ!? よくテレビでやっていた脱税とか、不正会計とかで大変な事になるやつじゃないのっ!?
「あぁ、それは気にするな。これ、私が自分で素材を取りに行って加工して型を作って製造した値段はない趣味で作った銃だ。お金さえ払ってくれればそれをセイバーの代金に計上すればいいんだし」
それってどうなのって思うけど……合法なのかな?
「税金とかは大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫さ。税理屋の先生と相談すればまん丸解決するしいいぜ。あくまでこれは個人で作った趣味の銃だからな?」
「は、はぁ……」
カミルさんって言動は男勝りなイメージがあるなって思っていたけど、こういう時はしっかり知的な商人なんだなって初めて知った。
「そう思うと国の税制度ってガバガバなんだ」
「とかいって脱税はするなよな~。やったらルベリア凍土で強制労働させられるからな~」
なにそのまんまシベリア強制労働施設みたいなところ。
「っていうのは冗談として」
「俺からは冗談に思えない話なんですがそれは」
「んなこと考えすぎたら商売あがったりだぜ? そういうのは政治屋のやる範疇だっつぅの。ほら、話それたけどどうだ。買うか買わないのか?」
「……えぇ」
セイバーの代金を割り引きしてくれるっていうのは魅力的な話しだしな……。すると。
「あぁ、もうじゃあたたき売りだ! ここにある拳銃のうち1つだけおまけでくれてやる! それで手打ちだ。どうだ!」
「うぉっ!? それは……!」
カミルさんの趣味で作った銃を買う→セイバーの代金が割引になる→目的の銃がおまけでついてくる→買うor買わないってなったら。
「いくら出せば良いんだっ!?」
「へへっ」
あこれ勝ったなという顔をして嬉しそうにカミルさんは。
「1000ダラーだ。後払いは不可だぜ。今すぐお前の財布からポンと出しやがれ! ひひっ」
セイバーの代金が1000ダラー割引になる。こんなの買うしかないだろっ!? ローンが少しでも早く完済できるなら良い話だって!
「ちょっと今すぐ銀行に行ってお金下ろしてきます!!!!」
「あいよ~。道中強盗にあわないように気をつけるんだな~」
よし! いっちょひとっ走りいくか! そう思ったらあとはダッシュで店を後にして銀行に向かっていくことにした。
「まいどあり~。帰ってくるのまってるぜ~。買うとか言って逃げんなよ~」
「そこまで信用のない人じゃないですってっ!?」
「さぁ、あんたがそう思ってても私からみたらどうなんだろうね~」
えっ、そこ深掘りして聞きたくなるじゃないか。
「まぁ、気長に夜まで待ってるさ」
そう言ってカミルさんは近くの湯飲みに手をつけてお茶を啜り始めた。
「う~ん、今日のお茶は格別に美味しいわ~」
という言葉と仕草を目にして。
「まじで営業もできる職人っていうやつか」
なんとなくカミルさんが母と似ている感じがするなと思ってしまった。元車の営業ウーマンだったらしいし。その話しよく聞かしてくれていたから思い浮かべてしまったな。
「じゃあ、1時間後にきますね」
「あいよ~。あぁ、カリト」
「ん、なんです?」
えっいまカミルさん。俺の事をカリトと呼んでくれたよな?
「近くの駄菓子屋で美味しそうなポテトセンべーをついでにかってきてー。お代はあたし持ちで出すから~」
「はぁぃ?」
まったりとした表情になり、カウンターの上でだらけているカミルさんからパシリを頼まれてしまった。何急な感じでフレンドリーを通り越して舎弟な感じ……。
「ほら、5セントー玉だ。うけとれよっと」
「えっ」
思わず反射的に投げられたお金を片手で受け取ってしまった。
「んじゃ頼むね~」
「あぁ、えぇ……」
なんかもうどうでも良いような気がしてきたな。うん。とりあえず銀行いったら小売店でポテトセンべー買いにいこ。
明日も予定通り更新いたします。よろしくお願いします。今日はニコ生で配信しながらの更新作業でした。個人的に土日は休日なのでだいたいそんな感じにやっております。興味があればおこしください。明日も午後か夜にやっております。
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