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110話:ホワイエットの捜索 その2

「ここが探偵事務所的なところかな?」


 麺屋のおばちゃんが教えてくれた地図をもとに訪れると。そこは閑静な商業区街の小さな路地裏にあるテナント式の建物だった。外観を見る限りでは全部で4階建ての構造をしている様に見える。ここの2階に事務所があるようだ。1階は茶店のようで隠れた名店の雰囲気が店から漂っているなと率直に思った。


「……行ってみてどうなるかだな」


 俺の想像ではハードボイルドを気取ったダンディーなおっさんがやってそうなイメージだ。とりあえず2階に通じる階段に足を運び、そのまま『イリエ探偵社』の掛札が吊り下げられている扉の前に立ち、


「ノックだよな?」


 と思いながらモノは試しで3回ほどコンコンと合図を送ってみた。すると。


『ノックするなら最初から扉を開けて入れよ礼儀知らず』

「えっ」


 扉越しから聞こえてくる若い男性の声に思わず疑問符を浮かべてしまった。常識知らずだって? 俺が? ノックするのって普通だろ?


「失礼します……」


 まぁ、言われたらなそれでいいわけだしと思って扉を開けて中を覗いてみると。そこに広がっている光景に思わず。


「うぁ、普通」

「うっせぇ、冷やかしに来たのか?」


 緑の壁紙に2LKの間取り。所々に革製品の家具があったりして、まるでそこは古いアメリカかイギリスの室内空間を想起させるような光景だった。真新しさというのがないのがオーソドックスで良いという人もいるけれど。俺の趣味じゃないかな。


「初対面で冷やかしにきたとか言われましても……」

「じゃあなんだ?」


 黒と白の縞模様のベストに青のカッターシャツ、紺のストレッチジーンズ、革製のブーツを綺麗に着こなした重厚感のあるイスに座る、推定年齢20から30代の茶髪の端正な顔をした男性。彼は書類と羽根ペンを両手にしている。


「少し頼み事があるんです」

「なんだ依頼か。悪いが今日は空きがないんだ。他を当ってくれ。俺は予約のしない礼儀知らずの奴なんかに仕事を頼まれても断る主義なんでね」


 本音はそれかよ。要予約のみっていうわけか。だがそこで引き下がる訳にはいかねぇよ。


「悪いが強引にでも頼みたいんだ。緊急事態なんだよ」

「…………」


 男はだんまりを貫いて手にしている紙を机に置き、羽根ペンを走らせることをしている。無視かと思って思わずカチンとなり。


「俺の大事な娘が行方不明になったんだ!! 頼むっ!! あんたに娘の捜索を手伝って欲しいんだよ!!」

「人手不足なら人材屋に頼むんだな。俺が営んでいるのは探偵屋だ。わかるだろ? そういう為にあるんじゃないくらい」

「くっ……!」


 言葉巧みに煽って俺を怒らせてくれるなこいつ……!!


「あんた。歳は? 娘の捜索は嘘だろ?」

「……17だと思う。記憶があまりなくて……。娘の捜索と言ったのは半分嘘で半分合っているんだ」

「…………」


 男は羽根ペンを走らせていた手を止めて顔を上げ、


「俺をその気にさせるような依頼だったら聞いてやっても良いが。それでも覚悟はあるんだよな?」

「……ああ。あるさ」


 そうだ。もうとっくに腹に決めた事なんだよ。ホワイエットを失う恐怖より、自分の惨めさなんてどうでもいい事なんだよ。


「じゃあ聞かせろ。立ち話もなんだしそこの部屋の真ん中にあるソファーに座れよ」

「ああ」


 言われたとおりに入り口から離れて中央にあるソファーに近づいて腰をかけると。男も席から立ち上がり、対面にあるもう1つのソファーに腰掛けて足を組み、そして腕を組んで。


「改めて自己紹介しよう。俺はここの探偵屋をやっているイリエだ。で、あんたは?」

「サトナカ カリトだ。カリトで良い」

「カリトか。語呂の良い名前だ」

「おう」

「でっ、話は?」

「えと――」


 俺は今まで起きた事を全て話してみた。ただし幾つかの情報は伏せてにはなるが。


「ふむ。あんたが保護している女の子のホワイエットちゃんが。あんたの帰りが遅いから心配になってこのボルカノの街を彷徨い続けているというわけで良いんだな?」

「彷徨い続けているっていうのは変だけど。そうだよな」


 ボルカノを彷徨うホワイエットの事を思い浮かべて思わず胸が張り裂けそうになり、


「ホワイエット……俺がもっとあいつの事を……」

「そう気を病むんじゃない。あんたが病んでしまったら上手くいくこともいかない。俺があんたの事を分ったように言ってしまうが。心を鬼にして冷静になって物事を観察しろ」

「なれたらこんな思いをせずにいて、今頃はホワイエットと一緒に牧場で楽しい夜を過ごしていたんだよ……!」

「そうなれるように努力するしかないな。大体の事情は分った。とりあえず出来るだけの情報収集はしてやる。2日くらいは掛かるがいいか?」

「直ぐには無理なんですね……」

「当たり前だろ。こっちは段取りというものがあるんだからな」

「すみません。じゃあそれで構いませんのでお願いします」


 こうして探偵のイリエに情報収集の依頼をする事になった。2日後の結果が短くて遠いような気がするな……。

明日も予定通り更新いたします。よろしくお願いします。

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