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105話:出会いとか日常とかよくない出来事とか その5

 劇場に戻ると、ロビーの前では既に開演待ち待機客の人だかりでごった返していた。


「凄い人だかりですね。それになんか女性の客が多いような」

「あれ、忘れたの? 今日は女の日で割引デー。それに演目がアリューシャンの海よ」

「女性割引の日なのは分りますが。その演目に関する情報はあいにく持ち合わせてないんですけど」

「じゃあ、当ててみて正解だったら私からちょっとしたご褒美をあげちゃうね」

「ご褒美……?」


 なんだろう? ニコニコと楽しそうに俺と話をするリリィ先輩の笑顔が可愛くていい。


「ちなみにご褒美の内容は教えてもらえたりできます?」

「それはーひ・み・つです! その方が楽しいでしょ?」


 リリィ先輩が言うと複数の意味に聞こえるから底が知れないな。イタズラっぽい感じにはぐらかされたけど。まぁ、待ち時間の暇つぶしにはいいか。


「せっかくの立ち話もなんですし。よかったら売店で買い物でもします?」

「ふふ、それは後でのお楽しみにとっておこうよ。ほら、もうすぐ大扉が開くよ」


 売店で飲み物を買う時間は無か。まぁ、仕方ないか。上演時間も約2時間くらいみたいだし大丈夫だろう。


「ええ、そうですね。行きましょう先輩」

「うん、行こ」

『場内のお客様にお知らせいたします。王立劇団ボルカノがお送りいたします。演目。アリューシャンの海が間もなく上演時間となります。お待ちのお客様は入り口におりますもぎり係の者にチケットの提示をしていただいた後に。奥におりますガイド員に半券の提示をしてください。繰り返し――』


 大扉が開いたと同時にロビーで待機していた女性のスタッフが、お洒落なデザインをしたメガホンを片手にアナウンスを2回繰り返ししてきた。


「売店で飲み物は買えなさそうですね……」


 やっぱどうしても飲み物が欲しいな。ちょっと熱気がこもっているし喉が渇きそうだな。だが、一番奥に見えている売店スペースには長蛇の列ができていて、今から並ぼうとしてもダメそうか……。もしかしてさっきリリィ先輩が後でと言ったのはこういうことを見越しての事だったのかな?


「でしょー。だから後でのお楽しみっていうわけだよ」

「あぁ、そういうことだったんですね。まったくそっちに注意向けてなかったです自分」

「ダメだよカリト君。君が私を待たせても。女の子を待たせたらメッだからね?」


 あざとい。でも可愛いからムッとしないその指を立てる仕草とイタズラっ子を叱るような表情。思わず反射的に握り締めていた彼女のもう片方の手をギュッと強く握り返すと。


「ふふ、言葉より先に態度に出てくるんだね君は。そういう所好きかも」

「う、うぅ……。恥ずかしいからからかわないでくださいよ」

「いいのいいの。今は私と楽しくデートしているんだから。普段は周りの事を気にして気を遣わないといけないけど。今だけはいつもの君の姿を見てみたいかなって!」

「お、おう……です。と、とりあえずもぎりにチケットを渡しましょう!?」


 なんだろう。彼女のペースに飲まれそうだ。俺がリードしたいんだけど。そういった感じの間柄になりがならも、そのままもぎりのスタッフの男性に二人で近寄って手渡し、奥にいる特等席専門のガイド役の女性に見せて案内を受けて、個室の中にある専用の席に座った。さすが特等席と言っただけあり、入場料に見合った高級感のある空間とインテリアが用意されている。


「宜しければお二人様用のソファーをご用意いたしますがいかがですか?」

「いいの? じゃあそれでお願いね!」

「かしこましました」


 中で待機していた女性スタッフが俺達の事をカップルと判断したのだろう。リリィ先輩の笑顔で言葉を返し、スタッフは営業スマイルで軽く会釈を返して部屋を出て行った。


「お金を出しただけのかいはありましたね」

「うん。凄くいい席だから。それにこいう席に来る人達はお金持ちだったり、お貴族様だったりと権力者の人が多いからね。あと私達もだけど」


 そう言いながらリリィ先輩は少しそわそわと落ち着かない様子で笑顔を取り繕っている。なんだろう?


「あのねカリト君……。その……ちょっとさっきまで一緒にくっついていたからなのかな……」

「え、ええ」

「何だか君が側に居ないと落ち着かないっていうのかな……」


 えっ、普通に隣にいて側にいるって言うんじゃないの? 曖昧な会話をするリリィ先輩を見ながらそう考えていると。彼女がその場でバッと急に立ち上がり。


「やっぱ君を肌で感じていないと無理かも!?」

「えぇっ!?」


 そういってバッと俺の前に立ち。そのままガバッと覆い被さってきてギュッと抱擁してきた。さらに。


「膝の上に乗ってもいい……?」

「…………」


 抱擁の後に、俺の目の前にリリィ先輩の顔が現れて、そう上目遣いになりながら願ってきた。少しくらい照明に見えてくる彼女の姿を前にドキドキとして。


「いい……ですよ……」

「はーい」


 と花を咲かせるような笑顔を浮かべて、そのまま俺に背中を預けてのしっと座ってきた。のだけど……。


「あの……先輩」

「なぁにカリト君?」

「凄くロマンチックで嬉しいんだけど……。俺、先輩より背が低くて顔が肩甲骨に当って地味に痛いです……」

「んんっ!?」

病み上がりだったので今日は遅めの時間に投稿しました。明日は0時くらいに投稿します。


次回の更新予定日は9月19日です。よろしくお願いします。

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