4. 自己紹介(2)
正直いって、朱璃は莉己の微笑みに当てられていた。美しい上に色気があるなんて卑怯だ。
「……」
思わずカーと体が熱くなるのが分かった。女としては、神様の不公平加減に不満も言いたくはなったが、レベルが高すぎて羨ましいとは思えず、目の保養とばかりに見つめていた。
3人は 真っ赤になる朱璃のウブな反応が可愛くて微笑ましく感じてると同時に、いつか少年が世の中の不条理に出くわすことを気の毒に思わずにはいられなかった。
「ウブな少年を苛めるなよ。夢に出てきたら可哀想だ」
泉李が腕を伸ばし、朱璃の頭を撫でる。
「聞きずてなりませんね」
笑顔が怖い。泉李はニコニコ笑って平気そうだが、左隣からの体感温度が下がっていくのに耐えきれず、桃弥があわてて自己紹介を始めた。
「俺は秦桃弥だ。と・う・や。よろしくな」
右手を強く握り、握手をしてくれた青年に、朱璃はふたたび微笑んだ。
おおー末っ子キャラだ。懐っこい。
桃弥は右手にすっぽり入る小さな手を感じつつ、自分を見つめる漆黒の大きな瞳に父性をくすぐられていた。
「なんで桜雅がこいつを置いて来れなかったか分かる気がする。……あれ? お前弓矢出来るのか?」
一瞬周りの空気が変わった。しかしそれには気が付かず、朱璃は何を言われたか分からず目をパチクリさせた。
小指の付け根の硬くなっているところを桃李が触れてきたため、合点がいった。
「あ、それは弓道で」
それは通じないかと思いなおし、矢を引く動作をやってみせた。
「やっぱりな。小さいのに偉いな」
いつのまにか泉李や莉己にまで手を見られており、慌てて手を引っ込めた。弓道が出来るといってしまって警戒されただろうか。
それにあまり見られて、女だと気がつかれるのも困る。朱璃は自分が男に間違えられている気がしていた。それならありがたい。彼等は悪い人ではない。否 むしろ、とても良い人達だと思うが、まだ信用しすぎてはいけないと自分に言い聞かせていた。それでも怪しさ全開の自分に良くしてくれる人に失礼な態度だと引っ込めた手を固くて握った。
どうしてこんなことになっている?なぜここに居るか、これからどうなるのか、居なくなった自分の事を心配してはいないか……。
考えないようにしているのに次々と頭に浮かんでくる色々な事。喉の奥が痛く奥歯を食いしばった。
「しゅり」
何度目かの桜雅の呼びかけにハッと顔をあげた朱璃の目に、心配そうな顔をした桜雅が映った。
「あ……。申し訳ありません。大丈夫です」
「なんか、ごめんな……。飯食うかっ? 酒、酒にするか?」
「未成年に酒を勧めるな。ガキには甘い物がいいに決まってるだろ。干し芋食うか?」
「ダサ、干し芋ってダサ」
「ダサとか言うな。大好きなくせに」
「……!? あ、あの…」
整った顔が目の前に突然現れた。
「あれは気にしなくていいですよ。はい」
莉己に赤い果実?を持たされ、食べるように促された。
カリッ
甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がる。
やっぱりリンゴ。知っているお馴染みの味だった。
カリッ
喉の奥に染み込んで、飲み込みづらかったが懸命に流しこんだ。
頭を撫でられると涙は余計止まらなくなり、程よい塩っぱさが加わったリンゴは甘さを増していく。
「大丈夫だ。心配するな」
分かるはずがないのに、桜雅がそう言っているように朱璃には聞こえた。
読んでくださってありがとうございます。
イケメンさん
まだまだ出します。
作者は乙女ゲーム大好きですが、朱璃はその存在は知りません。そういう子なんです。