スケッチブック
前回のあらすじ!
なでしこを好きになった宗太郎。その気持ちを幼なじみの渚に知られたら何か後ろめたくなる宗太郎。
そんなもやもやで複雑な気持ちで宗太郎はなでしこと生活をおくる。
僕はなでしこさんが言った『その為に派遣されたロボット』と聞いて聞き捨てならなかった。
「なでしこさん。その為に派遣されたロボットってどう言う事?」
「以前にも申し上げましたが、宗太郎様のお母様に依頼されて、私は派遣され、宗太郎様のお世話兼お友達と言う形で私はここにいます」
そんな事を淡々と言うなでしこさんに何か憤りを感じてしまい、「それじゃあなでしこさんが道具のような存在じゃないか?」
「端的に言いますとそうなりますね」
さらに僕は憤りを通り越して悲しくなってきた。
「なでしこさんは道具じゃないよ」と言ったと同時に涙がこぼれ落ちてきた。
「宗太郎様?」
「なでしこさんは道具じゃない」
するとなでしこさんは何か切ない表情をして、黙っていた。
なでしこさんは僕の気持ちを聞いて何を思ったのだろう?
なでしこさんは僕の気持ちを察する事が安易に出来るが、僕にはなでしこさんの心を読むことが出来ない事に何か悔しい気持ちでいた。
「とにかくなでしこさんを道具扱いする連中がいたら僕がやっつけるから」
なでしこさんは切ない表情からおもむろに笑って「宗太郎様はお優しいのですね」
何だろう?なでしこさんは僕に向ける笑顔も言葉も何か皮肉に聞こえてきた。
「それでは宗太郎様、そろそろ眠りにつきましょう」
そうだ。熱くなって忘れていたが、もう時計は真夜中回っている。
僕が布団に入ると、しばらくして純白のネクリジェに着替えたなでしこさんが、僕と同じ布団に入ってきた。
「なでしこさん」
僕はそんななでしこさんに抱きついて、その目を閉じた。
なでしこさんは道具じゃない。
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次の日、
「本当に大丈夫なんですか」
なでしこさんは普段着に着替えてランドセルを背負った僕を心配している。
「止めないでなでしこさん。今日は絶対に学校に行く」
「分かりました。でも私も途中まで一緒に登校します」
「好きにすれば良いよ」
「と言っても、途中まで同じ道ですからね」
正直学校に行くのは怖い。
久しぶりに僕が学校に登校したら、クラスの人にいびられるかもしれない。
でも僕は勝手な判断だが、なでしこさんを道具じゃない事を判明させるには僕が強くならなくてはいけない気がした。
僕はなでしこさんが好き。
もしかしたら僕の気持ちをなでしこさんは知っているかも知れない。
いや知っていると思う。僕の事をあれだけ理解しているのだから。
でもその気持ちを口で表すのは簡単で、それはしてはいけない気がする。
本当になでしこさんが好きなら、僕が強くなって、態度で示したいと僕は思っている。
色々と考えているうちに、テーブルに朝ご飯が用意されていた。
「とりあえず宗太郎様、その前にお食事をしっかりと召し上がってくださいね」
「うん」
メニューはトーストにスクランブルエッグにサラダとコンソメスープだった。
とにかく時間までまだあるので、以前は気負いすぎて詰め込むように食べて、気持ち悪くして嘔吐してしまい、学校に行く事を断念せざるを得なかった。
だから今日はゆっくりと良くかんで良く味わって食べている。
本当に相変わらず、なでしこさんの手料理はおいしいし、いつも思う事だが、おいしいものを食べると何か底知れぬパワーがみなぎってくる。
そして食事が食べ終わった直後に、呼び鈴が鳴った。
「あら、もしかしたら渚さんが迎えにいらしたのではないでしょうか?」
なでしこさんが玄関の前に行き、そしてその扉を開くとなでしこさんの予想通りの渚ちゃんだった。
「なでしこさん。おはようございます」
「あら、おはよう」
「宗ちゃんもおはよう」
玄関から僕がいる居間に向かって挨拶をする。
「うん。おはよう」
そこで僕の中にあった昨日渚ちゃんに素っ気なくされてモヤモヤな気持ちが払拭された感じがしてすっきりして安心した。
それと同時になでしこさんに対する思いが渚ちゃんに後ろめたい気持ちが芽生えて、それは払拭できない。
本当に自分が嫌になるくらいに、今日もそんな悩み事を抱えなきゃいけないのかと思うと学校に行く事におっくうになるが、僕は強くなりたいので、今日は誰が止めても行くつもりだ。
食事が終わって、外で待っている渚ちゃんの元へと僕となでしこさんと一緒に行く。
「おはよう宗ちゃん」
改めて挨拶をする渚ちゃん。
なぜかいつもより明るい。
「うん。おはよう」
そこでなでしこさんが、
「さて、行きましょうか」
なでしこさんは僕達の先を歩き、僕と渚ちゃんは後に続く。
僕は学校が怖かった。
なんて思っていると、そんな僕を察したのか渚ちゃんが僕に視線を送りにっこりと笑顔で僕を見る。
まるで渚ちゃんは僕に『宗ちゃんは私が守ってあげる』と言っているように心の声がしたような気がした。
きっとそう思っているのだろう。
僕がクラスメイトや上級生にいびられている時、いつも渚ちゃんが側にいた。
そんな悪い連中を僕から守ってくれた。
以前は渚ちゃんが居て僕は安心していたが、これからは強くなるために、なでしこさんを守る為に、強くならなくてはいけない。
これは誰にも言えない僕だけの誓いだった。
しばらく登校して、なでしこさんとの分岐点にさしかかり、
「じゃあ、宗太郎様、とにかく無理はしないでくださいね。帰ったらおやつを作って待っています。よろしければ渚さんもいらしてね」
「考えておきます」
渚ちゃんの発言に意味深に思えたが、今はそんな事を気にしている場合じゃない。
なぜかなでしこさんと別れた瞬間に不安が僕の脳裏にわき起こった。
やばい学校が怖い。
すると渚ちゃんが右手で僕の左手を優しく包み込むように握ってきた。
そんな渚ちゃんを見ると、にっこりと笑って『大丈夫だよ』と心の声が聞こえてきた。
そうだ。僕には渚ちゃんがついている・・・。
きっと渚ちゃんは学校で僕を守ってくれる。
でもそんな渚ちゃんに後ろめたい気持ちにさらされ、あまりいい気分にはならなかった。
握られた渚ちゃんの手を離そうと思ったが、それはいけない気がする。
そんな事をしたら渚ちゃんは傷ついてしまう。
僕の左手には渚ちゃんの冷たくてひんやりした細くて華奢な右手。
安心という気持ちと何か後ろめたい気持ちが僕の脳裏に駆けめぐり、何かすっきりしない。
そして二人で歩いていて近づいてくるのは僕たちが通っている学校の校舎だった。
僕が人知れず息をのむと、僕をつないだ渚ちゃんの手がきゅっと強まり、本当に渚ちゃんは僕の心を読んでいる。
本当に嬉しいけれども、すごく後ろめたい。
そして他の生徒達も、挙って登校する姿に、僕はおびえていた。
渚ちゃんに対して後ろめたいと思っていたが、僕は怖くて渚ちゃんを握る手を強めて、渚ちゃんは笑顔で僕に言う。
「大丈夫だよ」
そこで背後から嫌な声が聞こえてきた。
「楠木と南じゃないか。楠木、お前の母親が亡くなったんだってな」
無神経な言葉をかけられ僕は本当に傷ついた。
すると渚ちゃんは村山の顔面に思い切りひっかいた。
「言って良いことと悪い事があるんじゃないの?」
渚ちゃんは本気で怒っている。僕のために。
村山は威圧的な渚ちゃんの目におののき、黙って先に行ってしまった。
ちなみに村山の顔面には渚ちゃんがその鋭い延びた爪で引っかかれて三本の縦の傷が刻まれて赤くなっていた。
「ありがとう。渚ちゃん」
穏やかに微笑んで、
「大丈夫?行ける」
そんな風に弱い扱いをされて僕はしゃくに障ったが、怒ることは出来ずに、とりあえず「大丈夫」と言っておいた。
「じゃあ、行こう」
僕と渚ちゃんは手をつないだまま登校する。
周りの生徒に変な目で見られるのを僕は気にしたが、渚ちゃんは気にしていない。
何だろう。僕と手をつないでいる渚ちゃんは何か嬉しそうだった。
そして僕と渚ちゃんは校舎に入り、下駄箱から上履きに履き替え、同じクラスに行く。
僕が引きこもっている間、半年は過ぎていて、一年繰り上がっていて、クラス替えは二年に一回なので、クラスメイトは馴染みの面子だった。
「渚、おはよう」
挨拶をして来たのはクラス委員の吉永さんだった。
吉永さんは渚ちゃんと一番仲がいい女子だ。
僕もそんな吉永さんと渚ちゃんを経由して仲が良く、良く休み時間に一緒に遊んだりもしていた。
「・・・それと楠木君も久しぶりだね」
「うん」
吉永さんの視線は僕と渚ちゃんの繋いでいる手に視線が行って、何か忠告か何かを言いたそうな顔をしているが、何か言いにくそうに苦笑いをしている。
「じゃあ、よっちゃん。またお昼休みにでも一緒に給食食べよう」
「うん」
渚ちゃんは僕の手をしっかりと握っている。
さすがにクラスメイトの視線が痛い程の注目が集まっていて、そろそろ手を離そうと言おうとしたが、言えなかった。
そして渚ちゃんの机の前までついて行き、ようやく手を離してくれて、ランドセルをおいた。
「宗ちゃんの席はここだから」
渚ちゃんの隣だった。
「うん」
どうやら僕が休学している間、渚ちゃんは隣の席を僕にキープしていてくれたみたいだ。
そういえばずっとそうだった。
席替えの時も、いつも渚ちゃんの隣だった。
とりあえずランドセルをおいて、鞄から教科書を取り出して、机の引き出しにしまおうとした時に、そういえば僕は四年生で、もう三年生じゃないんだ。
この教科書は使えないと知った時、隣にいる渚ちゃんの穏やかな視線に気がついた。
「大丈夫だよ。宗ちゃん。教科書の心配はないから、それにわからないところがあったら私が教えてあげるから」
「ありがとう」
渚ちゃんには何か至れり尽くせりで何か申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ランドセルをロッカーにしまおうとした時に、ランドセルを閉め忘れて、突然ランドセルから、雪崩のように僕が持ってきた三年生の教科書が地面に散乱してしまった。
「もう。宗ちゃんったら」
やれやれと言った感じで、散乱した教科書を拾ってくれた。
「ごめん」
とにかく拾わないと。
渚ちゃんの手が止まっている。何か僕が落とした教科書を開いて見ている。
「渚ちゃん?」
何を見ているのか気になって渚ちゃんの方を見ると、昨日僕が渚ちゃんとなでしこさんを描いたスケッチブックを見ていた。
「渚ちゃん渚ちゃん」
慌てて僕はスケッチブックを取り返そうとしたが、よけられて、
「良いじゃない別に減るものじゃないし」
スケッチブックを見ている渚ちゃんは心なしかすごく嬉しそうにしている。
「返してよ」
僕は泣きそうだった。
「泣くことないじゃない」
「じゃあ返してよ」
「ダメ」と小声で呟き、頬を真っ赤に染めて、僕の目を反らす。
「渚ちゃーん」
ノートを取り返そうとしたが渚ちゃんは面白おかしそうに、逃げようとしたところ、担任の篠崎先生が教室に入ってきた。
「おーう。みんな席に着け」
「ほら、宗ちゃん。席について」
はぐらかされてしまった。
篠崎先生は僕を目にして、
「おう。楠木、久しぶりだな。大丈夫なのか?」
嬉しそうに声をかけてくれた。
「はい」
と返事をする。
「じゃあ、久しぶりに楠木が来て、とりあえず、号令を」
号令はクラス委員長の仕事であり、吉永さんが号令をかけて、挨拶がすんだ。
ホームルームが始まる前に、篠崎先生は教室の扉の前に行き、僕を廊下へと手招きした。
きっと久しぶりに来たので色々と何かつもる話があるのだと思って、篠崎先生の手招きの方へと歩み寄り、廊下に行った。
「久しぶりだな、楠木」
満面の笑顔で僕の頭をなでながら嬉しそうに言う。
「何か色々と大変な事があったみたいだが、とにかくお前がこうして学校に来て俺は嬉しいぞ」
篠崎先生は僕が学校に登校して本当に嬉しそうだった。
本当にそれは皮肉には感じられない、篠崎先生の裏表のない実直な気持ちだった。
とにかく篠崎先生は僕とゆっくりと後で話をしたいので、休み時間に二人で話し合う事になった。
まあ篠崎先生は良い先生だよな。
勉強の教え方は今一だが、生徒一人一人におもんぱかる熱い先生だ。
僕がいじめに遭い、渚ちゃんでも手がつけられない時、何度か助けられた事がある。
そんな篠崎先生に会えて僕は学校に来て改めて良かったと思えた。




