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大好きな程描きたい人

前回のあらすじ


 学校に行くと決意した宗太郎は肉体的にも精神的にも行ける状態じゃなかったので、なでしこに止められる。

 悔しくも家でお留守番になることとなった宗太郎はなでしこの事を思っていた。

 そして次第になでしこに心を奪われてしまう。

 お昼を過ぎた時に幼なじみの渚が学校を早退してお昼ご飯を作りに帰ってくる。それと同じようになでしこも帰ってくる。

 渚はなでしこに嫌悪して、脱兎の如く出ていってしまう。宗太郎となでしこはそんな渚に対して後ろめたくなる。


 渚ちゃんは怒りだして泣きながら帰ってしまった。

 その様子を目の当たりにしたなでしこさんは何か複雑そうな顔をして視線を俯かせていた。

 僕はそんななでしこさんを見ているといたたまれなくなり、罪悪感の気持ちに苛んだ。


「僕が悪いんだ。僕が渚ちゃんの気持ちも知らないで・・・」


「宗太郎様、自分を責めてはいけません」


 僕の目を真摯に見つめて僕に言う。

 僕はそんななでしこさんに何を言って良いのか分からなかった。


 台所を見ると、お鍋に火がかけっぱなしだった。


「渚ちゃんは僕の為に・・・」


「宗太郎様、気持ちは分かりますが、さっきも申し上げたとおり、自分を責めてはいけません」


 お鍋の中にはパスタがゆでられている。

 それにフライパンにベーコンと鷹の爪とスライスのガーリックが炒められていた。

 どうやら僕にペペロンチーノをお昼にご馳走しようとしてくれたんだ。


 なでしこさんが台所に立ち、お鍋で茹でられているパスタを箸ですくって茹で加減を確かめていた。


「茹で加減はアルデンテに仕上がっています。渚様がせっかく作ってくれようとしたペペロンチーノをお召し上がりになってはどうですか?宗太郎様?」


「もちろん」


 なでしこさんは渚ちゃんの作りかけのペペロンチーノを作って、僕にもてなしてくれた。


 ペペロンチーノのガーリックの食欲をそそる香りに、僕は「いただきます」と言ってフォークですくって口に入れた。


「おいしい」


 と口にした時に、渚ちゃんに対する申し訳ない気持ちがどっとわき起こってきた。


「おいしいですか?宗太郎様、今は渚さんの申し訳ない気持ちでいっぱいだと思いますが、それを食べてまたゆっくりとベットに横になってください。

 渚さんに対する後ろめたい気持ちも少し時間が経てば、整理されると思いますので」


「うん」


 なでしこさんはお母さんと同じ事を言う。

 頭の中で何かがもやもやとした時は時間を忘れて横になると、頭の中が整理されてすっきりするって。


 なでしこさんは言っていたが、あのペペロンチーノは渚ちゃんが愛情を込めて作ってくれたものだと。

 料理は愛情をかければかける程おいしくなるって本当なんだね。

 そんな渚ちゃんに僕は悪いことをした。

 でもどうして渚ちゃんは僕の為にこんな事までしてくれるんだろう?


 ベットに横になり、渚ちゃんに対する後ろめたい気持ちでいっぱいだった。


 学校でもそうだった。


「楠木」


 僕に言い寄ってくる僕をいじめる人たち。


 そこに割り込んできて「宗ちゃん。行こう」と言って僕の手を取って、助けてくれた渚ちゃん。


「何だよ。楠木お前は、南がいないと何も出来ないのか?」


 僕に狡猾口調で僕の心を追いつめるように言う。


「気にしなくて良いんだよ宗ちゃん」


 その渚ちゃんの言葉に僕は救われていた。


 渚ちゃんの側に入れば僕は安心だと思ったが、でも僕をいじめる国木田の言う言葉が僕をむしばみ、眠れない日もあった。

 僕は渚ちゃんが入れば痛い目に遭わなくて済む。

 でも僕は男の子だ。

 渚ちゃんに相談したら、「そんな事を気にしなくて良いんだよ」って優しくしてくれる。

 そして僕の悩みは払拭されて、僕は渚ちゃんが側に居てくれればそれでいいんだと思った。


 そんな優しくしてくれる渚ちゃんに僕は悪いことをしてしまった。


 とにかく明日渚ちゃんに謝ろう。



 ******   ******   




 次の日、朝起きたら、昨日と同じようになでしこさんは台所で朝ご飯の準備をしてくれている。

 僕はベットから降りて、なでしこさんの所に行き、「おはよう。なでしこさん」と自然と笑顔が出来て言えた。


「おはようございます。宗太郎様」


 なでしこさんは輝かしいひだまりのように温かい笑顔で僕を迎えてくれる。


「そろそろ朝食が出来ますので、イスに座ってお待ちください」


 言われた通り、イスに座って台所で作業しているなでしこさんの後ろ姿を見つめながら、渚ちゃんに謝らなきゃって言う気持ちでいっぱいだった。


 だから今日こそ、僕は学校に行こうと思う。

 なでしこさんに止められても、僕は行って渚ちゃんに謝ろうと思う。

 きっと渚ちゃん今日は来てくれないだろう。

 昨日はそんな渚ちゃんを傷つけてしまったんだから。

 渚ちゃんにはいつも守って貰って、それに悲しい時に、僕の側に寄り添ってくれた。

 その事も含めて渚ちゃんにはお礼も含めて謝りたい。


 色々と考えていると「出来上がりましたよ。宗太郎様」

 テーブルに並べた品は冷やしうどんだった。

「しっかりと召し上がってください」


「なでしこさん」


 なでしこさんの目を真摯に見つめて、僕は言う。


「今日こそ学校に行くよ」


「ええ、分かりました」


 反対されるのかと思ったがすんなりと了承してくれた。

 昨日はあんな調子でなでしこさんにも渚ちゃんにも心配をかけてしまった。

 とにかく僕はなでしこさんに差し出された冷やしうどんを食べた。

 すごくおいしい。

 昨日の晩ご飯のメニューであったハンバーグもおいしかった。

 本当になでしこさんは何でも出来るんだな。

 なでしこさんは僕が食べている姿を向かいの席で穏やかな表情で頬杖をついて見つめてくる。

 今もそんな感じだ。


「おいしいですか?宗太郎様」


「おいしいよ」


 するとなでしこさんは昨日の晩も同じだったが、僕がおいしいと言うと本当に幸せそうに笑ってくれる。

 そんな笑顔を目の当たりにすると、僕の心臓が激しく高鳴る。

 そう。以前も言ったが、なでしこさんが喜ぶと僕も嬉しいんだ。

 そんななでしこさんの喜ぶ顔が見ていたい。

 そんななでしこさんに僕は何かをして上げたい。

 そしてまた喜ぶ顔が見たい。

 どうすれば喜んでくれるのか?

 分からない。

 その前に僕は渚ちゃんに誠意を込めて謝らなきゃいけない。

 だから今日はなでしこさんに反対されても、僕は学校に行く。行って・・・いつものお礼も含めて謝りたい。


 朝食が食べ終わって、「ごちそう様」と手を合わせて言う。


「お粗末様でした」


 なでしこさんがお皿を片づけようとした所、「僕が片づけるよ」


「大丈夫ですよ。宗太郎様はあまり無理はなさらない方がいいです」


「無理なんてしていないよ」


 ついなでしこさんに突っぱねてしまった。


 やばいどうして僕はそんな怒気のこもった口調で言ってしまったのだろう。


 なでしこさんの表情を見ると、何事もなかったかのように穏やかな笑顔を保っている。


「ごめんなさい」


「別に謝る事ではないと思いますが、宗太郎様は何か無理をする傾向があるので、私はそれが心配なのです」


 僕は泣きそうになった。

 ここで気がついたが、なでしこさんに心配かける事に僕はそれが嫌だったんだ。

 だから僕ははっきりと言った。

「なでしこさん、心配しなくて良いよ」


「じゃあ宗太郎様、無理はしないって約束してくれますか?」


 真摯な瞳を私に向けて、その意を僕に向ける。


「はい」


 するとなでしこさんはにっこりと笑って「無理は体に毒です」


 それはお母さんにも言われたことがある。


 無理は体に毒。


 僕が無理をするとなでしこさんも渚ちゃんも心配してしまうんだな。


 だから僕は学校を行くのをストップさせ、


「じゃあなでしこさん」


「はい」


「学校には行かないけれども、せめて渚ちゃんに謝る事は出来ないかな」


 僕がそう言った瞬間に呼び鈴が鳴り出した。


「どうやらその相手は来てくれたみたいですよ」


 にっこりと微笑みながら「はーい」と玄関に向かっていく。


 なでしこの思った通り渚ちゃんだった。


「なでしこさん。昨日はごめんなさい」


 なでしこに頭を下げている渚ちゃんを見て、何かいたたまれなくなって、渚ちゃんの元へと行く。


「どうして渚ちゃんが謝るの?」


「宗ちゃん?」


 きょとんとする渚ちゃん。


「悪いのは僕の方だよ、渚ちゃんの気持ちも知らないで、それに渚ちゃんにはいつも迷惑ばかりかけて・・・」


 僕と渚ちゃんはお互いに目を合わせる事が出来ずにその視線が俯いてしまった。

 ついなでしこさんの方を見るとなでしこさんはそんな僕と渚ちゃんの様子を穏やかに見守っている感じだった。


 そしてなでしこさんは言う。


「お互い、気持ちを言い合ったので、すっきりしたのではないでしょうか?」


 なでしこの言う通り、多少の後ろめたい気持ちは残っていたが、本当にすっきりして、心にもやもやと嫌な気持ちがなくなっていた。


 渚ちゃんを見ると、同じようにすっきりとした表情で蟠りが消えた感じだ。


 とにかく渚ちゃんに伝えたい事は伝えた。


 気持ちがすっきりして気持ちが良い。


 この調子なら学校に行けるんじゃないかと思って、ランドセルを背負って、行こうとしたら、なでしこさんと渚ちゃんに止められた。



 ******   ******  




 ベットの上で僕は紙と鉛筆でなでしこさんの笑顔をイメージして描いた。


 でもうまく行かない。


 今日はなでしこさんは早く帰るみたいなので、そうしたらなでしこさんは僕をリハビリの為にお散歩に連れて行ってくれるって言っていた。


 すごく楽しみだった。


 これってもしかしてデート何じゃないかと思った。


 そんな事を胸に僕はベットの上で、なでしこさんの絵を描いていた。


 こう見えても、僕は絵が得意で、市から金賞を受賞したことがある程だ。


 でもそれを妬むクラスメイトに僕は・・・。


 それで渚ちゃんが守ってくれた。


 何だろう。なでしこさんを思うと渚ちゃんに何か後ろめたい気持ちになる。


 本当にどうしてだろう?


 もしかしたら渚ちゃん僕の事が・・・。


 いやあり得ない。


 でも渚ちゃんを思い浮かべると何かホッとする。


 なでしこさんを思い浮かべて、こうしてなでしこさんの絵を書いていると、すごく幸せな気持ちになる。

 僕はもっと幸せになりたい。

 だからこうして僕はなでしこさんの絵を何枚も何枚も描き続けた。



 ******   ****** 



 なでしこさんの夢を見てしまった。

 とても幸せな気持ちで僕が目覚めると、ベットの傍らになでしこさんがいて、僕が描いたなでしこさんの肖像画を見てうっとりとしていた。


 僕は慌てて「なでしこさん。なでしこさん」となでしこさんから僕が描いた肖像画を奪って、床に散らばっているなでしこさんを描いた肖像画を慌てて拾い集めた。


「私を描いてくれたんですか?」


 穏やかな表情で僕を見て、僕はなぜかこの上なく恥ずかしくなり、顔から火が出そうな程熱くなっていた。


「宗太郎様は絵がお上手だと聞いていましたが、本当に上手ですね。

 よろしかったら、その絵を一枚私にくださいませんか?」


 首をちょこんと傾けて、穏やかな微笑みで僕を見て、今度は心臓が破裂しそうだった。

 それでなでしこさんの言われた通り、なでしこさんを書いた肖像画を一枚ではなく、描いた紙全部差し出した。


 なでしこさんは幸せそうに一枚一枚それをじっくりと丁寧に見て、うっとりとした表情をしていた。


 そのなでしこさんのうっとりとした表情は美しく、僕の心を奪われた感じだった。


 そしてもっとなでしこさんを描きたい。

 もっと美しく清らかななでしこさんを描きたいと心の底からわき起こった。


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