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再開、そして約束。



 夜の闇の中、僕は僕自身が作り出した謎を解きに歩を進める。


「どこに行くの早ちゃん」


 背後から渚ちゃんの心配そうな声が僕の耳に届く。


「ちょっと夜風に当たりたいと思って」


 すると渚ちゃんは僕の腕をしっかりと掴んだ。


「渚ちゃん」


「私は早ちゃんがいなくなったら多分寂しくて死んじゃうと思う」


「ゴメン。僕は行かなくてはいけないんだ」


「じゃあ私も連れていってよ」


「でもこれは僕の問題だから・・・」


「早ちゃんの問題は私の問題でもあるよ。仮に宗ちゃんがいなくなったら私本当に寂しくて死んじゃう」


「渚ちゃんはもう僕とは関わらない方が良いよ。これから僕が目指すところは命を失いかねない」


「隣県の原子力発電所に行くんでしょ。だったら私も行く」


 真摯な瞳を突きつけ渚ちゃんの覚悟を見た。


「分かった。もう何も言わない。行こう。なでしこさんの元へ」


 そして僕の右手には渚ちゃんの左手、二人で仮設住宅の施設内の門を出ようとした時に、門の壁に寄りかかっている楓さんの姿があった。


 聡い楓さんは僕達がどうするか?まるで最初から分かっていたみたいだ。


「楓さん。止めたって無駄です。僕達はなでしこさんの元へと行きます」


 すると楓さんはその目を細めて「あんた達バカじゃないの?隣県だからと言って歩いていける距離だと思っているの?それにまだ道路は舗装されていないから車もろくに通る事も出来ないよ」


「でも僕達の希望はなでしこさんです。僕、いや僕達は命に代えても、なでしこさんを迎えに行きます」


「なでしこが高濃度の放射能にさらされて、姿形もなくなるかもしれないのに?」


 一瞬楓さんの言葉にたじろいたが、「それでも僕達は行きます」


 楓さんを振り切って行こうとしたが「待ちなさい」


「止めたって無駄です」


「こんな時間にあなたのような子供がうろついていたら、被災であった物乞いに何されるか分からないよ」


 僕と渚ちゃんは息を飲む。


「なでしこは私の妹だ。これは命令に反する事だけど、私もお供させてもらうよ」


「それは心強いですが、楓さんは勝手なことをして社に何か処分を受けてしまうんじゃないですか?」


「いっちょ前に私の心配をしてくれるんだね。本当に宗太郎君と渚ちゃんは面白い子達だね」


「面白いって何がですか?」


「あたしは今まで色々な人間を見てきたけれども、誰かの為に命を懸けるって口では簡単に言う奴は山ほどいたけれども、あんた達はどうやら本物のようだ。私の妹であるなでしこを命を懸けて、助けようとしている」


「誤解して貰いたくないんですけれども、僕たちだって死ぬのは怖い。なでしこさんは僕達の家族だもん。

 命は大切だよ。

 でも僕は・・・」


 そうだ。僕は恐ろしく怖いんだ。

 僕も渚ちゃんも死ぬ事は何よりも怖いことだ。

 妙な汗までかいて涙まで流していた。

 そんな僕に近くにいる渚ちゃんがハンカチを差し出して、僕は受け取って涙と汗を拭った。


「あんた達は本物だ。

 付いてきなさい」


 僕と渚ちゃんはとにかく今は楓さんの協力が必要だと思ってついて行った。

 ついて行った先には大きなオートバイだった。

 楓さんはそれに跨がり、


「ヘルメットは用意出来なかったけれども、これでなでしこのところへ一っ飛び」


 楓さんは後部座席を指さして、乗れと合図を送る。


 僕と渚ちゃんは合図された通り、楓さんの後ろに並んで跨がった。

 僕は楓さんの腰に腕を回してしっかりと捕まり、渚ちゃんは僕の腰にしっかりと捕まり絶対に離さないと言わんばかりに強くしがみついた。


「しっかり捕まっているんだよ」


 楓さんがエンジンをかけてバイクは激しい騒音をかき立て、「行くよ」と楓さんの合図にバイクは発進された。


 猛スピードで走行する楓さんが運転するオートバイ。

 恐ろしく怖いはずなのに、僕はこの楓さんにしっかりと捕まり、その楓さんの温もりを感じて、怖い気持ちはまんざらなかった。

 本当になでしこのお姉さんだと改めて実感した事だった。

 仮設住宅に何らかの依頼があって、楓さんやなでしこさんを開発した社がロボットの事は秘密裏にして楓さんを派遣したのだろう。

 でも仮設住宅には楓さんを必要とする子供達も大勢いたはずだ。

 楓さんも妹のなでしこさんの事が恐ろしく心配だったのだろう。

 猛スピードで走行しているバイクからゆっくりと僕は目を開けた。

 爽快なほど、進むバイク、建物の残骸やらを軽快によけて進んでいく。

 物事が着実に進んでいるような気がした。


 そして僕が抱いていた謎は、そんな物事が進んでいる実感と共に顕著になってきた。

 それは簡単明快でただなでしこさんを助けに行きたい。

 ただそう言うことだった。

 でもなでしこさんは困難な立場に立たされている。

 原子力発電所の放射能が漏れている原因を突き止め、阻止する事。

 政府がどれだけ手を尽くしてもダメな事なのに、何か僕たちなら出来そうな気がした。根拠はないけれども。


 バイクは走行して隣県に入ったと道路の青い掲示板を見て分かった。


 そして、ここから原子力発電所が見えてきた。


「あれが放射能漏れしている原子力発電所」


「そうみたいね」


 その時外線放送が流れてきた。


「そこのオートバイ、それ以上進むのは危険です。直ちに引き返しなさい」


 と。どうやらどこかにモニターが原子力発電所に近づこうとするものを発見し次第外線で呼びかけるように監視しているみたいだ。


 楓さんはいったんバイクを止めて、「ここは言う通りにした方が良いようね」ポケットから携帯のようなものを取り出して見ている。

 僕がそれに注目すると「これは大気の放射能を測定する装置よ」横から見てその数値を見ても僕には理解が出来なかった。


「これってまずいんですか?」


「まだ、大丈夫だけど、多少放射能濃度は関知されている。だからいったん引き返して、なでしこを探しに行かないとね」


「なでしこさんを探しに行く?」


「ええ、きっとまだなでしこは原子力発電所には行ってはいないと思うから、あの子が今どこかで待機していると思う。まずあの子が待機している場所を探しに行きましょう。

 きっと政府も社もなでしこを秘密裏に作戦を実行させると思うから」


 楓さんの話を聞いて僕は空を飛べるような程の高揚感にさらされ、思わず渚ちゃんと抱き合った。


「あんた達、喜ぶのは早いよ。たとえなでしこに会えたとしても、なでしこが困難な立場に置かれているのは免れない事実」


「でも。なでしこさんに会えるんでしょ」


「なでしこさんまだ行っていないんですよね」


 僕と渚ちゃんが交互に言って再び抱き合い、楓さんはやれやれと言った感じだ。


 待っていてなでしこさん。

 僕は渚ちゃんには内緒でなでしこに会ったら一緒に逃げようと言うつもりだ。


「君たち」二人の警察官が僕たちの前に駆け足で近寄ってきた。


 僕たちの前に楓さんが立ちふさがる。


「こんな所で何をしているんだ。すぐに引き返しなさい」


 長身の警察官がちょっと威圧的な口調で言ってきた。


「私達は政府に用があるの」


 楓さんが毅然とした口調で言う。

 すると小太りの警官が、


「政府に用があるって、君たちにあっても政府は君たちを構っている程、暇じゃない。第一状況をニュースやテレビを見て分かっていないのかね?」


「分かっています。政府になでしこと言う女性を秘密裏に原子力発電所の放射能が漏れている原因を突き止めようとしているみたいですけれども」


 すると二人の警官はせせら笑って、長身の男が「君達、気は確かかね?政府があらゆる手を尽くしているのに、そんな女性一人に漏れ出した放射能を突き止めるなんて・・・」


「あなた達じゃ、話になりそうもないね」


 すると小太りの警察官が「話になるならないの問題じゃない。話なら、署に一緒に来て貰うよ」


 僕達は二人の警官に補導される事を覚悟した。

 この警官について行けば、なでしこさんにある程度距離が縮められるかもしれない。

 すると楓さんは俊敏な動きで、二人の警官の腹部を思い切り突きつけ二人は気絶してしまった。


 突然の事で僕と渚ちゃんはうろたえた。


「ちょっと楓さん。こんな事をして大丈夫なんですか?」


「あなた達は大丈夫でしょうね」


 楓さんからの発言からすると、自分を犠牲にしてまでなでしこさんの所に行こうと考えているみたいだ。

 楓さんは倒れた警官から拳銃と無線と鍵を奪った。


 無線から連絡が入る。


「小松巡査いったい何があった」


 楓さんは無線に応答した。


「こちら小松巡査、防犯カメラで目撃した怪しい女性と子供を補導しました」


 と楓さんは小太りの警官の小松の声色をそっくりそのまま真似て応答した。

 楓さんにそんな機能が付いていたなんて。


「ところで楓さん防犯カメラで僕達の様子を誰かが伺っていたんじゃないですか?」


 心配な点を述べた。


「ごめん。そこまで頭が回らなかったわ。

 でもこの様子だと、防犯カメラで監視していたのはこの二人だけだったみたいだね。

 私達の事はまだ誰も気づいた者はいないみたいだからね」


 何だろう?なでしこさんを感じる。


「どうしたの宗太郎君」


「おかしい事を言うかもしれないけれども、なでしこさんを近くに感じるんです」


 楓さんは僕の発言に何を思ったのか、その目をおもむろに閉じて黙ってしまった。


「楓さん。僕はおかしな事を言っちゃいましたか?」


「確かにおかしな事だけれども、その事に気を回すだけの価値はありそうだね」


「私も感じる。なでしこさん。この近くにいる」


 渚ちゃんも僕と同じように感じたみたいだ。


「じゃあ、渚ちゃんと宗太郎君、手をつないでなでしこを強く思ってみて」


 楓さんが意味不明な事を言っていて、とりあえず僕と渚ちゃんは手をつないでなでしこさんを強く思うように脳裏に巡らせた。


 すると何だろう。なでしこさんの正確な位置がはっきりと確認できた。

 それは渚ちゃんも同じように感じている事だ。


「楓さん。なでしこさんはこちらに近づいてきています」


「でも。なでしこさん。ちょっと怒っている様子だね」


「なるほど、もうあたしの役目は終わったし、この連中を打ちのめしたのは取り越し苦労だった訳だね」


 楓さんは何か覚悟を決めたような表情をして、その目を閉じた。

 楓さんのその仕草は何か諦めている様子に思えて気が気でなく僕は言う。


「楓さんどうして?」


「どうしてって?」


「何か楓さん、自分の事をすべて諦めたような顔をしている」


「そんな事はないよ」


「楓さん。もしこの事が社にばれたら、楓さんはただじゃすまないんじゃないんですか?」


「宗太郎君、君は本当に鋭いね。君の将来が楽しみだよ」


「じゃあ、本当に楽しみにしてよ。諦めないでよ。僕はもう・・・」


 気が付けば堪えきれず涙があふれ出ていた。

 そこで渚ちゃんが、泣きながら、「そうだよ。諦めないでよ。私は楓さんにいなくなって欲しくない」


 僕と渚ちゃんは楓さんがいなくなって欲しくないあまりにその涙を流していた。


「泣く子は誰だ?」


 泣いている時に足を持ち上げられて、楓さんは片方の手で僕を抱き寄せて、もう片方の手で渚ちゃんの抱き寄せた。


 その時の楓さんの笑顔は仮設住宅で子供達と戯れていた優しい笑顔だった。

 僕はその笑顔を目の当たりにして泣くのを忘れて、自然と笑えるようになった。


「宗太郎様、渚さん」


 背後からなでしこさんの声が聞こえて、僕と渚ちゃんは楓さんに下ろしてもらい、背後を振り向いた。


 そこに立っていたのは紛れもないなでしこさんの姿だった。

 長い髪を引っ詰めにして、これから原子力発電所に入って放射能が漏れている原因を突き止める作業に移ろうとしているのか?白い防寒具に身を包んでいる。


 そんななでしこさんを見ていると、無性に涙がこぼれ落ちてきた。

 やっと会えた。

 僕と渚ちゃんはこの日をどれだけ待ち望んでいたか?

 でもなでしこさんいつもの笑顔はなく、ちょっと表情に怒りを感じて、近寄りがたい雰囲気に満ちている。


 でも僕も渚ちゃんもなでしこさんのこうして会えて、本当に良かった。


 とにかく僕はなでしこさんに言う。


「なでしこさん。帰ろう」


 近寄りがたい、それに話す雰囲気じゃないなでしこさんに詰め寄る。


「宗太郎様、渚さん、それに楓お姉様、いったい何をしにいらしたのですか?」


「話は聞いたよ。これから原子力発電所に行き、放射能漏れを阻止しに行くんでしょ」


「ええ」


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