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真実



 楓さんは僕と渚ちゃんを誰も人気のいない所へと案内する。


 僕と渚ちゃんは楓さんの後ろ姿を見つめながらついて行く。


 急にどうしたのか渚ちゃんが立ち止まり、「どうしたの」と聞くと、何か不振そうにキョロキョロと辺りを見渡して不安を感じているようだ。


 大丈夫と僕が言おうとしたが、それは察しの良い楓さんの口の方が早く「大丈夫よ渚ちゃん。別に私の正体を知ったからって別にとって、何をしようなんてあたしは思ってないよ」


 それでも何か不安を感じている渚ちゃんの手を取って僕は「大丈夫だよ」と言って上げて渚ちゃんの抱いている不安を取り除いて上げた。


「ゴメンね。二人とも、あまり私がロボットだと言う事は公にはしてはいけないからさ、念には念を入れて置かないと」


 その発言に僕も渚ちゃんと同じように不安を感じてしまった。


「大丈夫よ。とりあえず、あなた達はあたしに聞きたい事があるんでしょ。

 絵を見せて貰ったけれども、あたしはなでしこの姉みたいな者だから、知っている限りの事は話すわ」


「知っているって、なでしこさんは生きているんですか?」


 話の筋を聞いて僕はなでしこさんが生きている事を期待してテンションが上がってしまった。


「とにかくあたしについておいで。

 後一つ言って置くけれども、なでしこがどうしたかは、あなた達にとって残酷な話になるわ。それを聞く覚悟があるなら、あたしについておいで」


 僕は息を飲み、後込みしてしまった。

 そして渚ちゃんの目を見る。

 渚ちゃんも同じように不安を感じている目をしている。


 僕は覚悟を決めて、握っている渚ちゃんの手に少し力を入れて、渚ちゃんは僕の目を見る。

 僕は渚ちゃんに目で訴える。


『行こう』


 と。


 楓さんは僕と渚ちゃんがついてくるのを背を向けて待っている様子だ。

 僕は改めて渚ちゃんの目を見て、頷いて、渚ちゃんの目からも覚悟を感じた。


 楓さんは人気のない道を進んでいく。

 そこは誰も足を踏み入れない災害の跡地である津波が襲った道だ。

 辺りを見渡すと、建物の残骸や船が散乱している。

 そんな状況を眺めているだけで、僕の覚悟が薄れて、思わず立ち止まってしまった。


「早ちゃん」


 心配そうに僕を見つめる渚ちゃん。

 渚ちゃんもこの現場にたたされて怖いんだ。


 そこで楓さんが振り返り、「二人とも、辛いよね。私もあなた達を好きでこんな場所に連れてきた訳じゃないわ。

 言って置くけれども、なでしこがどうなったか、このぐらいの事で心が疲弊しているなら、聞かない方が良いかもしれないね」


 そこにはもういつもの優しい楓さんではなかった。

 でも僕は楓さんは優しいロボットだと思う。


「聞きます」


 と僕が真摯な瞳を向けて楓さんに向けて言った。

 でも渚ちゃんはこの現場にいたたまれなくて、もう立てないと言わんばかりに、地面によつんばに伏してしまった。


「渚ちゃん。僕一人で聞いてくるよ」


 と言うと楓さんは、「聞くなら二人一緒ではないと話せないわ」


「どうして?」


「あなた達がなでしこの事をどこまで案じているのかはあの絵を見て分かったわ。

 一人でなでしこがどうなったか聞いて、ショックを受けて、誰が誰をその気持ちのフォローをするの?」


 つまり楓さんの言いたい事は、僕達のような子供が聞くのはあまりにも残酷な事だと言うことだ。

 その話を聞いて、楓さんは僕達がショックを受けると思っている。

 それで話を聞いてショックを受けて、僕と渚ちゃんはお互いにフォローしなければ心が壊れてしまうと楓さんは思っているのだ。


 だったら聞かない方が良いかもしれない。

 僕は葛藤する。

 聞く聞かないの二択だ。

 でも楓さんの話をまとめてみると、なでしこさんが確かに残酷な目にあっているかもしれないが、死んだ訳じゃないような気がしてきた。


 だから僕は地面に伏している渚ちゃんを無理矢理立たせるように、手を引っ張った。


「行こう渚ちゃん。なでしこさんはひどい目にあっているかもしれないけれども、死んでしまった訳じゃない」


「早ちゃん」


 渚ちゃんの目には涙がこぼれている。

 でも渚ちゃんはそれを袖で拭って、最大限の力を振り絞るように立ち上がった。


 そして僕と渚ちゃんは楓さんの後に続いた。


 辺りは災害の爪痕である建物や船の残骸が散乱している。

 でも車が通れるように舗装されており、その舗装された道を歩いている。


 空は茜色に染まり、宙にコウモリが不気味にも飛んでいる。


 そして楓さんは誰も人気のいないことを確認して、立ち止まり、振り返り言った。


「単刀直入に言うけれども、なでしこは生きているわ」


「本当ですか?」


 嬉しさのあまり甲高い声が自然とこぼれ落ちた。

 そして渚ちゃんとつい抱き合ってしまった。


「喜んでいるところ悪いんだけど、まだ話は終わっていないのよ」


「でもなでしこさんは生きているんでしょ」


「ええ、生きているわ・・・生きているけれども、あの子・・・」

 なでしこさんに何があったのか?楓さんはなでしこさんが置かれた現状でも想像したのか、表情を歪ませ、そして「人間ほどのエゴな生き物は存在しないわ」と怒りを露わにした。


 僕たちの間に沈黙が走る。

 楓さんが妹のように慕っていたなでしこさんに何があったのか?楓さんにとってなでしこさんはかけがえのない存在であったことが態度で分かる。


 僕はそんな怒りに翻弄された楓さんに何て言ったらいいのか分からないが、とにかく最大限の勇気を振り絞るように息を飲み、僕は聞く。


「楓さん。なでしこさんに何があったんですか?」


「あの子には以前の派遣先の男性の借金を背負うことになった事は知っているかしら」


「初めて聞きました」


「その男性はなでしこを伴侶として迎えた所で土壇場になって、なでしこを捨てた。そしてさらに多額の借金を請け負うことになってしまった」


 楓さんの話を聞いて僕の心はひどく痛んだ。

 そう言えばなでしこさんは僕たちを助けてくれたあの灯台で語ってくれたけれども、まさか借金まで背負わされていたなんて・・・。


「それで絶望の淵に立たされたなでしこは処分される事を望むほど、追いつめられた、でも、処分された所でお金を返せる訳じゃないと言うことで、私たちを開発した社はなでしこを体を酷使させられる程、使われたわ。

 あたしは何とかしたいと思った。

 でも私も開発された身であり、それは社に背く事であり、出来なかった。

 あの子を助ける事は出来なかった。

 私達ロボットは豚や鶏などと同じ家畜としてしか社は思っていなかった。

 いや人間誰でもそう。

 この震災によって被害にあった人間も、今は私を必要としているけれども、私の正体を知り、その立場を知れば、必要なくなったら、手のひらを返すように捨てるに決まっているわ」


「そんな事はないよ。僕はなでしこさんをロボットだと知っても、僕も渚ちゃんもなでしこさんを必要としている」


「今はそう思っているけれども、なでしこに関心がなくなったら、あなた達人間は廃棄物のように捨てる。

 人間は勝手な生き物だからね」


「いや僕達は、なでしこさんが必要だ。

 僕と渚ちゃんがこうして生きられるのはなでしこさんが生きている事を信じて来れたから懸命に生きて来れた。

 確かに僕達人間は自分勝手かもしれないけれども、僕はなでしこさんが必要だ。

 なでしこさんが人間でもロボットでも、そんなの関係ない。

 でももしなでしこさんが僕達を必要としていないなら、それで良い。

 でもなでしこさんがこの世界のどこかで元気にしている事を僕は願っている。

 だから・・・」


「分かったわ。宗太郎君を見て、そして話をこうして聞いて分かったわ。あなたがなでしこに対する思いは本物だって。

 でも現実はそんなに甘くない」


「それは震災にあってよく分かっています」


「なでしこは、その多額の借金を返す為に、社に修理を受けて、原子力発電所に派遣されたわ」


「それって震災で放射能が漏れて、あの原子力発電所ですか?」


「ええ、その放射能が漏れた原因を突き止める為に、それを阻止しにあの原子力発電所がある都市に行った」


 僕の心は凍り付いた。

 ラジオのニュースで聞いたが震災で原子力発電所が爆破して、放射能が大気に充満して、現地にいる住民は避難して、その地区の仮設住宅で避難していると言う。

 はっきり言って僕達には関係ない事だと、あまり僕は気にとめていなかったが、震災にあったのは僕達も同様だ。

 その大気に汚染された放射能を浴びると、人間は死に至ると以前、どこかの国の原子力発電所が事故で爆破した事を勉強して知った。

 それで人間には近づけないからロボットであるなでしこさんを派遣して、その除去を行わせるなんて。

 本当に楓さんの言うとおり人間は自分勝手だ。

 まるで、なでしこさんは事故を起こしてしまった原子力発電所に捨て駒として送り込まれたようなものだ。

 震災で事故を起こした原子力発電所の近くには高濃度の放射能が漏れていて、人間はそれにさらされたら、一分も持たずにその命を散らすとニュースでは語っていた。


 確かになでしこさんは生きている事に僕と渚ちゃんは安堵の吐息を漏らしていた。

 でもそれはつかの間で、残酷な現実は容赦なく僕たちにその刃を向ける。

 なでしこさんがそんな危険な所に派遣されるなんて、しかもたった一人で。

 政府は原子力発電所の放射能がどこでどのように漏れているのか?それを探るためにあらゆる手を施している。

 でも政府も僕達にはどうする事が出来ないのが現実だ。

 仮に僕達が現地に向かっても、命を粗末にしている行為にしか思えないほどのバカな行為と見なされる。


 話を聞いて、その残酷な真実を楓さんに突きつけられて、僕は目の前が真っ暗になり、倒れそうな僕を隣で同じ話を聞いていた渚ちゃんに支えられた。


 本当に楓さんの言う通り、二人してその残酷な真実を聞いていなければ、僕の心は壊れていただろう。


 いつも僕達子供達と戯れる優しい楓さんとは思えないほど、意外な顔を僕たちは目の当たりにした。

 その楓さんの笑顔の裏の顔は、それはまさになでしこさんのように深海よりも深いものだと僕は思った。

 つまり僕が言いたいのは楓さんは誰よりも、優しい人だ。

 楓さんは人間は嫌いだとはっきりと言ったけれども、子供達と戯れているときの楓さんは本当に幸せそうに笑っていた。

 僕はそれを社の命令だから仕方なく、そう演じざるを得ないのかと思ったがそうは思えなかった。

 どこの会社に開発されたか分からないけれども、ロボットの楓さんもなでしこさんも人間と同じように複雑な心を持っている。もしかしたらそれは人間よりも、複雑で深いものかもしれない。


 そして僕は楓さんの深い心の一部を目の当たりにしたのだ。

 もしかしたら、楓さんのそんな深い心なんて見せたくなかったのかもしれない。

 その深い心には妹を思うなでしこさんが絡んでいたから、僕達は目の当たりにしてしまったのかもしれない。

 楓さんにとってなでしこさんはかけがえのない存在だったんだ。

 そしてその深い心は感情的になった気持ちから、露わになり、子供である僕と渚ちゃんに容赦なくさらし、残酷な真実を突きつけられた。

 もしかしたら楓さんは僕たちを試しているのか?

 試されているような感じがするけれども、何をどうしてどう試したのだろう。

 それは僕の思い違いなのか、もしくは深読みか?

 分からないが何かあるような気がする。

 でも分からない。

 いや言葉にまとめようとしてはいけないのかもしれない。

 あれから、渚ちゃんともあまり話さず、僕は夜、今日の楓さんの笑顔の裏のその素顔を見たことを辛いけれども思い返していた。


 何か謎がある事に気がついた。


 いや気がついたとは適切じゃないかもしれない。


 僕が勝手に謎を作り出したと言った方が適切かもしれない。


 確かになでしこさんに突きつけられた残酷な現実から救い出す方法はない。


 でも僕が勝手に作り出した、謎を説く事に何かあるような気がした。


 この謎はきっと僕にしか見えないだろう。それになでしこさんも絡んでいる。


 そして僕はその謎に迫るために、渚ちゃんが眠っているのを確認して外に出た。


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