互いに守って守られる存在
前回のあらすじ。
夕刻、宗太郎はちょっと物思いにふけりたくなって、海に行くとそこには渚もいた。
そこで宗太郎は渚の真心を聞く。
そんな時、誰も予期しない大地震が起こり、宗太郎は津波が来ることを予測して、渚の手を引き、高台へと走る。
ここは沿岸だ。
この大きな地震があれば必ず津波が来る。
その前に、僕たちは一刻も早くあの高台である灯台に行かなければ。
渚ちゃんの手を取り、灯台へと向かう。
「早ちゃん。あれ」
渚ちゃんが指さす方向に目を向けると、町が燃えている。
これは本当にまずい状況だし、なでしこさんが心配だ。
それよりも津波から逃れるために、灯台に行かないと。
「津波が来るぞ。海から離れろ」
と男の人の甲高い声が聞こえた。
「早ちゃん。海から離れた方が」
「離れても、町は燃えている。まさに八方ふさがりだよ。だから灯台に行かないと」
「お母さんとお父さんが」
「話は後だ。今は一刻は争うときだよ」
だがもう時は遅く、津波の魔の手は、もう目の前まで迫っていて、僕と渚ちゃん、それと町を襲おうとしている。
「宗ちゃん」
もはやどうする事もなくなった事を知り、僕に抱きつく渚ちゃん。
もう終わったと思って、僕も渚ちゃんを抱きしめ目をつむるしかなかった。
「なでしこさん」
と、これが僕の人生で最後の言葉なのかもしれない。
すると何だろう?すさまじく早い何かに僕と渚ちゃんはかっさられた。
何だ?と思って恐る恐るその目をゆっくりと開いた。
「なでしこさん」
そうなでしこさんはそのロボットであるすさまじい身体能力を生かして、僕と渚ちゃんを抱えていた。
「早太郎様、渚さん。目をしっかりと閉じて動かないでください」
僕と渚ちゃんは言われた通り、その目を閉じてじっとしていた。
「行きますよ」
そう言って、なでしこさんはロボットである身体能力を活かして跳躍した。
相当すごい飛躍的なジャンプだと思う。
まるで空を飛んでいるような気さえしてくる。
そして着地して止まった感覚だったが、それでも目をつむっていた。
「もう大丈夫ですよ」
となでしこさんは僕と渚ちゃんをゆっくりと地面におろした。
そしておもむろに目を開けると、灯台の頂上だった。
それに町は燃えていて、津波に飲み込まれている。
まるで地獄絵図を見ているようで、僕は恐ろしくて、なでしこさんに抱きついてしまった。
「ひどい。何これ?お父さんとお母さんは無事なの?」
なでしこさんに強く訴える渚ちゃん。
なでしこさんもその質問にどう答えたら良いか分からないかのように黙っていた。
そして渚ちゃんを胸に抱き寄せた。
僕と渚ちゃんはあまりにも恐ろしい現実を目の当たりにして、なでしこさんに泣きついた。
「しばらくここに入れば安全でしょう」
「いったい何がおこっているって言うの?」
渚ちゃんが涙ながらに訴える。
「明らかにこの地方を襲った大地震でしょう」
「お母さん。お父さん。みゆきちゃん」
そう渚ちゃんは燃えて津波に飲まれている町に向かって泣き叫んだ。
その叫びは渚ちゃんの祈りを込めた物であり、僕も同じように祈るように叫んだ。
「みゆきちゃん。みんな無事で居てくれ。いじめっこの村山君もみんな」
灯台から見下ろした所は激しくウネリをあげた津波の残滓、それに町を襲う炎は激しさを増し、いくつか炎のような竜巻が襲う。
「何あの炎のような竜巻」
「火災旋風です。密集したビルの中で起こり得る現象です」
淡々となでしこさんは言う。
渚ちゃんがなでしこさんの服を掴んで「何とか出来ないの?私と宗ちゃんを助けたように、みんなを助ける事は出来ないの」
だがなでしこさんは渚ちゃんの言葉にゆっくりと左右に首を振るしかなかった。
なでしこさんが悪いんじゃない。
お母さんからいつしか聞いたことがある。
どんな事でも人間が自然の力に立ちうつ事は出来ないと。
じゃあどうすれば、良いのと聞いたら、自分の命を最優先にして逃げるしかないって。
だから僕は間違った事をしていないし、なでしこさんも渚ちゃんも。
本当に悪夢のような出来事だ。
夢であって欲しいと願ったが、どうやらこれは紛れもない現実で起きていることだ。
僕も渚ちゃんもなでしこさんもどうすることも出来ない。
ただ命を守るために安全な所に避難してじっとしているしかない。
でも僕たちが行き着いた安全な所はあまりにも残酷な所だ。
なでしこさんが言っていた火災旋風に飲まれた町を傍観して、じっとしていなければならないのだから。
この様子だと死者出るのは確実だろう。
なでしこさんは火災旋風に包まれた町を傍観していたが、僕と渚ちゃんはもはや見ているだけで、心が滅入りそうなので、町とは反対方向の海の沖の方に体を向けてうずくまるしかなかった。
僕も渚ちゃんも涙が止まらなかった。
どうしていきなりこんな事になってしまったのか?
誰も攻める者が心の中に見あたらずに、叫びたい気持ちでもあったが、もはや叫ぶ気力さえも使い果たしてしまった。
沖の方角を見て、いつもは穏やかな海だが、僕達の意表を突いて、その牙をむける恐ろしいものでもある。
町は僕たちの生活を豊かにしてくれるが、大地が激しく揺らぐ大地震が起こることにより、地獄へと化す。
そして僕と渚ちゃんは互いに手を繋いで、恐怖心を互いに抑えた。
僕と渚ちゃんはそうやって気持ちを落ち着かせて、こうしてなでしこさんが側にいることにより、安心する気持ちへと変化する。
するとなでしこさんが僕と渚ちゃんに魚肉のソーセージを一本ずつ差し出した。
「二人ともお腹すいたでしょ」
なでしこさんにそう言われて僕と渚ちゃんは恐怖で空腹な気持ちを忘れていた。
「「ありがとう」」
と僕と渚ちゃんは言って、ソーセージを受け取り、口にして食べた。
すごくおいしい。
「宗太郎様」
なでしこさんが僕の前に立ちふさがり、いったい何が起こったのか?なでしこさんの腕が・・・なくなっていた。
「なでしこさん」
悲痛な声を漏らして、なでしこさんの元へと行く。
「大丈夫ですよ。宗太郎様」
なでしこさんは苦しそうに、それでも心配させまいとしているのか?穏やかな笑顔を保っている。
「無理しないでよ。なでしこさん。辛いなら泣いてよ、そんな風に・・・優しくしないで」
「なでしこさん。宗ちゃん」
なでしこさんの切断した手から、パチパチと小さな青い電流が見える。
するとなでしこさんは切断された腕から肩に掛けて、切断した。
「何をしているのなでしこさん」
「一応こうなった時の為に肩から外せるようになっているのです」
切断したって言うか、外したと言った方が適切なのだろう。
外した腕の付け根を見てみると、外した箇所が見て取れる。
「どうやら町から爆発物がこちらに飛んできているようです。ここも安全とは言えなくなりましたね。
お二人とも、私の後ろに居てください。
そして決して離れないでください」
「でもなでしこさん」
「良いから黙って言う事を聞いてください」
感情的に僕たちに訴えかけるなでしこさん。
もはやなでしこさんにも余裕がないように見える。
それほどせっぱ詰まった状態に僕達は瀕している。
でもここはもうなでしこさんを信じるしかない。
僕はなでしこさんの言われたとおり、渚ちゃんを庇うように抱きしめてなでしこさんの背後に回った。
辺りを見ると、爆発した破片が目にも留まらぬすさまじいスピードで飛んでくるのが分かる。
僕達を前にその片手で構える。
そして正面からすさまじいスピードで飛んでくるのが見て取れた。
なでしこさんは片手で飛んでくる破片を片手でなぎ払った。
そのなぎ払う音が耳につんざき、痛々しさを感じる。
だが自然は容赦しないように次から次へと爆発物の破片がまるで僕たちをめがけて飛んでくる。
それをなでしこさんは命がけで僕たちを守るために、飛んでくる破片を片手でなぎ払っている。
なでしこさんの片手を見ると、痛々しくも、ボロボロで皮膚がはけて、中身が見えている状態だ。
僕と渚ちゃんがどうすることも出来ない。
もう僕はなでしこさんを信じるしかない。
今僕に出来ることはなでしこさんを信じて、目を逸らさずに命がけで僕たちを守ろうとするなでしこさんを見つめる以外なかった。
自然の猛威は相変わらずに容赦はない。
もうなでしこさんも限界だ。
そして次の瞬間、爆発物をなでしこさんがその片手でなぎ払ったと同時に、その腕が吹っ飛んでしまった。
僕はもういたたまれずに「なでしこさん」と言って抱きしめた。
「宗太郎様、私の後ろに・・・」
「もう良いよ」
「何がよろしいのですか?諦めてはいけません」
そう言っているが、もうなでしこさんは覚束ない足取りをしている。
「今度は僕がなでしこさんを守る」
無謀な事だと分かっていた。
端から見たら、ただのバカのする事だと思う。
そして両手を失ったなでしこさんの前に僕は仁王立ちをした。
「宗太郎様危ないです。下がってください」
悲痛な声を上げて僕に訴える。
そして爆発物が僕をめがけて来るのが分かる。
その瞬間、何が起こっているのか、すべてがスローモーションのようにゆっくりとなった。
僕は死ぬんだろうな。
でも正直僕は死にたくない。
もっと生きて、渚ちゃんやなでしこさんともっと楽しい事を満喫したかった。
楽しいはずの夏休みにこんな事になるなんて誰も予想していなかっただろう。
こんな事にならなければ、明日はまた三人でプールにでも行って、なでしこさんのまぶしい水着姿を拝めただろうな。
またきっと渚ちゃんはそんな僕をスケベ大王と軽蔑するんだろうな。
でもそれで良い。
でもどうしてこんな事が起こってしまったのだろう?
僕達は毎日を幸せに暮らしていただけなのに、本当に何なんだよ。
町がなでしこさん曰く火災旋風が炎の竜巻が襲っている。
きっと僕たちのクラスメイトの人たちも、このような理不尽な災害にあって悔しい思いをしているだろう。
渚ちゃんだってお父さんやお母さんに友達の吉永さんの無事を思っている。
その安否は定かではない。
でも目の前の町が炎の竜巻に包まれさらに津波に飲み込まれて、もはや絶望するしかないのかもしれない。
こんな時誰もが、この言葉を口にするかもしれない。
奇跡。
よくニュースなんかで海の向こうのどこかの国でこのような災害が合ったと報じられていた。
でも、僕は他人事のように気に止める事もなかった。
でも実際こうして味わって、他人事のように思っていた僕が恥ずかしく思ってしまう。
どこかの国かは分からないが、海の向こうのどこかの国で大災害が起きて、数えられないほどの死者と行方不明者がいたと報じられていた。
きっとその国の人達も、今の僕のような恐怖と絶望に陥っていたのだろう。
目の前で大切な人が苦しんでいる姿を見て、慟哭した人も数知れない。
きっと、その人達も、今の僕のように願っていたんだよ。
奇跡
を。
でもどこの国がどうなろうともどうでも良い。
僕は大切な物を守りたい。
僕が守ろうとしている物は、僕の命と同等の物と言っても過言じゃない。
だってなでしこさんと渚ちゃんがいなかったら、僕は生きていなかったのだから。
いや僕の命よりも大切な物だ。
だってなでしこさんと渚ちゃんがいなかったら、夢も明日も幸せも何もかもなかったんだから。
人はそれぞれ大切と思われる人が居なければ、生きていけない。
人は一人では生きていけない。
人は一人では立ち上がれない。
僕の大切な人と言ったら、僕が命を懸けて守ろうとする渚ちゃんとなでしこさんだよ。
この人達の代わりは世界のどこに行ったっていない。
誰だってそれぞれ価値観は違えど、幸せになりたいと思っている。
自らの命を絶ち死にたいだなんて思う連中も居るけれども、実際こうして死ぬ窮地に立たされたら、生きる事を切望するだろう。
誰も気づかぬ場所で咲いている花は、誰かに踏まれても、その命を自ら絶とうとはしない。また太陽に向かって咲こうと賢明に生きる。
切り倒された切り株からどうしてまた新たな木がどうして生まれてくるのか?
それは生きたいから。
僕はなでしこさんと渚ちゃんを守る為に死ぬんじゃない。
守って守られて生きる。




