優しい...?
前回のあらすじ
夏休み初日から遊び尽くす三人。
遊び疲れても、その後に仕事をするなでしこ。
そんななでしこを見て宗太郎は自分も頑張ろうと出来る所から始める。
なでしこさんの負担にならないように僕は僕で頑張らなくてはいけないと思う。
まず、パンをトーストにセットして焼く。
そしてスクランブルエッグを作りたい。
スクランブルエッグの作り方は?
なでしこさんが作っている姿を思い出して見る。
卵を割ってかき混ぜ、そしてフライパンで焼く。
まず卵を冷蔵庫から取り出して、ボールを用意する。
僕は卵を割ったことがない。
なでしこさんは片手で卵を割っていた。
実際やってみたが、卵に衝撃を与えて、力を加えすぎて、ぐちゃぐちゃになってしまった。
「ああ」
人知れずに呻き、挫けそうだったが、もう一度なでしこさんの卵を片手で割る見よう見まねでやってみたが、卵に衝撃を与えてひびを入れ、割ろうとしたが、また衝撃を与えすぎて、卵はぐちゃぐちゃになってしまった。
「なんだよもう」
「早太郎様」
「なでしこさん」
なでしこさんは冷蔵庫から卵を二つ取り出して、一つ僕に差し出して、受け取った。
「良いですか。宗太郎様、卵はこうやって割るんですよ」
コツンとテーブルに卵を当てて、片手ではなく両手で綺麗に割って、中身をボールに入れた。
「なでしこさんは片手でやっていたよね」
「まあ私は多少、お料理の手ほどきはありますので。とりあえず、まず卵を割るには先ほど私がやった事をまねしてみてください」
言われた通り、まねしてやって見て、コツンと卵をテーブルに当てて、ひびを入れ、うまくいきそうだと思って、卵を二つに割ろうとしたが、卵がつぶれてぐしゃぐしゃになってしまった。
「あああ。出来ないよ」
「最初から何でも出来る人なんていませんよ。それはロボットも同じです。私も開発されてから、研修所で何度か練習して出来るようになったのですから」
「そうなの?」
何か焦げ臭いにおいがして、パンをトースターに入れっぱなしだった事を僕は忘れていて、慌てて、トースターに駆け寄ろうとしたが、つまづいて、転んでしまった。
「大丈夫ですか?宗太郎様」
心配するなでしこさん。
なでしこさんに負担をかけないようにと心に決めていたのに、これでは余計に負担をかけてしまっている。
転んだ事は大した事はなかったが、なでしこさんの力にはなれずに、結局料理はなでしこさんに用意して貰う事になった。
僕は罰が悪くて情けなくて、なでしこさんの顔もまともに見れない程、落ち込んでしまった。
メニューは僕が作ろうとしていたスクランブルエッグにトーストだ。それとレタスとカットしたトマトだった。
落ち込んだ僕は食べる気にもなれなかったが、とにかくスクランブルエッグを口にして、それはもういつも通りのおいしさで、食欲をそそる味だった。
でも落ち込んだ気持ちはそう簡単には立ち直る事はなかった。
そんな落ち込んだ気持ちで食事をしている僕をなでしこさんはニコニコと嬉しそうな笑顔で僕を見つめていた。
「なでしこさん。そんな風に見つめられると食べにくくなるんだけれども」
「あっ、申し訳ありません。宗太郎様の気持ちが嬉しくて」
そう朗らかに笑って、うっとりと両手を胸に当てている。
どうやらなでしこさんの僕の気持ちを察したようだ。
でもその気持ちを知られると何かこっぱずかしくなる。
「宗太郎様、今日は私がお料理をお教えしましょうか?」
「良いの?」と食いつき是が非ともと思った。でも「なでしこさん昨日からお仕事で疲れているでしょ。今日は一日休んでいた方が・・・」
「何を言っているのですか?私の役目は宗太郎様のお友達でもあるのです。だから今日のお昼は二人、いや渚さんも来られますと思いますので、三人で作りましょう。宗太郎様は何が食べたいですか?」
「うーん・・・それは渚ちゃんの意見も聞いて決めるよ」
「じゃあ渚さんがいらしたら、一緒にスーパーまでお買い物に行きましょう」
「とにかくなでしこさん。昨日は徹夜だったんでしょ。せめてそれまでゆっくり休んでいてよ」
するとうっとりとした笑顔で「宗太郎様はお優しいのですね」
僕の心臓が跳ね上がりそうな感じがした。
なでしこさんは僕の言う通り、食堂のテーブルの席に寄りかかり目をつむって仮眠をとってもらっている。
そんななでしこさんを見ていると、僕は安心してしまう。
眠っているなでしこさんの口元を見て、僕は今さっき言われた事を思い出して、何か切ない気持ちになる。
それは『優しい』と言う言葉だ。
何かそう言われて、何か心に嫌な物が突き刺さっている感じに思えてくる。
別になでしこさんは僕にやましい気持ちを込めて言った訳じゃない。むしろ僕を誉めているのだと。
それよりもなでしこさんは本当に健やかな寝顔で仮眠を取っている。
そんななでしこさんを見ると、なでしこさんに優しくして、良かった気がするけれども、優しいと言われると何か嫌だ。
家の呼び鈴が鳴り、その音と共に、なでしこさんはすぐに反応して、その閉じた目をすぐに開き「渚さんが入らしたみたいですね」と立ち上がったところ、「僕が出るから、なでしこさんは休んでいて」となでしこさんを制して、僕は玄関に行き扉を開くとそこには藍色のワンピースにまとった渚ちゃんが立っていた。
「おはよう早ちゃん。約束通り来たよ」
渚ちゃんは何かもじもじと僕の顔をのぞき込むように見ている。
どうしてそんなにそわそわしているのか?
「渚ちゃん。トイレならここだけど・・・」
渚ちゃんの気持ちを看破したと思ったが、それは大きく違っていて、僕は渚ちゃんの怒りを買い、その猫のように延びきった爪で頬を思い切り引っかかれた。
渚ちゃんの怒りが治まった頃、渚ちゃんは昨日母親に買ってきてもらったワンピースが似合っているかどうか似合っているかどうか?目で訴えていたのだ。
その事にも気がつかず、僕はトイレなんて言って渚ちゃんの逆鱗に触れてしまった。
渚ちゃんはご立腹で、頬を膨らませて食堂の席に座っている。
「渚ちゃん。僕が悪かったよ。だから機嫌直してよ」
確かに渚ちゃんの気持ちも考えないで、つい言ってしまった僕が悪いことは分かる。
でもこのように自然と勝手に口と体が動くように謝って許しをこおうとする自分も何か嫌な感じがする。
「渚ちゃん。そのワンピースすごく似合っているよ」
と言ってみたが、もはやタイミングが合ってなくて、憤っている渚ちゃんの胸には届いておらず、余計に渚ちゃんの怒りをかき立てる感じだ。
なでしこさんは僕と渚ちゃんのやりとりを見て、クスクスと笑っていた。
「もう。なでしこさんひどいよ」
「ひどいのは早ちゃんよ」
キッとナイフのような視線を僕に送り、思わず僕は「ひっ」とうろたえてしまった。
するとなでしこさんが渚ちゃんの座っている背後に回って、「ほら、渚さん」と言ってその渚ちゃんの長い髪をそっとすくい上げ、渚ちゃんの髪を三つ編みにしている。
「なでしこさん?」
「動かないでください」
なでしこさんと渚ちゃんは何か女の子同士の、会話をしているようで、その間に僕が入り込む余地がないような気がして、席を外した。
部屋に戻り、大きなため息を僕は漏らしてしまった。
ついとは言え、どうしてあんな事を言ってしまったのか、僕は苛み、嫌な気分だった。
渚ちゃんを怒らせて最悪な一日になりそうだと落胆した時に、急に渚ちゃんが僕の部屋に入ってきて、嬉しそうに僕を見つめた。
「早ちゃん」
なでしこさんにあんでもらったのだろうか、その三つ編みを僕に見せつけている。
僕はチャンスだと思った。
そのチャンスを口にする。
「渚ちゃん。その三つ編み似合っているね」
「本当に?そんな事ないよ」
嬉しそうに強く謙遜している渚ちゃんの態度が手に取るように分かる。
先ほどまでご立腹だった渚ちゃんに対して、女って以外とナイーブで単純なんだと心で安堵の吐息を漏らした。
でも本当に三つ編み姿の渚ちゃんはかわいかった。
それにその藍色のワンピースも相乗効果で渚ちゃんの可憐さに見とれそうだった。
そこでなでしこさんが部屋に入ってきて、
「どうですか?渚さんの三つ編み姿は?」
「うん。本当に似合っている」
「見とれましたか?」
僕は何て言ったら良いのか黙っていると、渚ちゃんがなでしこさんに嬉しそうにハイタッチを交わしていた。
その姿を見て、女の子って本当にナイーブだけど、単純で、その気持ちは男の僕にちょっと理解できない部分でも合った。
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今朝なでしこさんが言ったように、今日は三人でお昼ご飯のお料理を作ることになり、その買い出しで近くの大型スーパーまで足を運ぶ。
スーパーの中に入ると、久しぶりで改めて中を見渡すとすごく大きい。
「せっかくスーパーまで来たんだから、服とか見てみたいし」
「渚ちゃん。買い出しに来たんでしょ」
「別に良いじゃない。なでしこさん今日は私、少しお小遣いもらったから、洋服一緒に見て回ろうよ」
「はいはい」
渚ちゃんはなでしこさんの腕をとって、ちょっと強引に二階の洋服売場まで、エスカレーターで上り、僕も渋々つき合う羽目になってしまった。
二階の洋服売場に到着して、渚ちゃんが目に付いたのは水着だった。
「ちょっと渚ちゃん。洋服を見るんじゃないの?」
僕は水着売場までは近づけず、ちょっと遠くから声をかける。
だが、渚ちゃんの耳には届いていないって言うか、シカトしているのか分からないが、水着を物色している。
ため息をこぼすとなでしこさんが「まあ、よろしいではありませんか。私達で夏休みを思い切り満喫しましょうよ」
「そうだね」
渚ちゃんを遠くから見ているが、真剣に水着を見ている。
もしかしたら昨日のプールの時になでしこさんの水着姿に気を取られて、怒っていたけれども、その事でなでしこさんに対抗して、僕の気を引こうと考えているのか?
そんな事を渚ちゃんに言ったら、きっと怒るだろうけれども、僕は渚ちゃんの気持ちを知っている。
僕の事が好きだと言う事を。
昨日のプールの時のことを思い出して、なでしこさんの水着姿は本当にまぶしかった。
いけないいけない。そんな事を考えるとまた顔に出て、渚ちゃんにスケベ大王と言われてしまうからな。
とにかく水着売場の近くにいると、なでしこさんの水着姿が頭によぎり、恍惚とした気分になってしまいがちなので、考えないように水着売場から距離を置こうと思う。
そう水着売場から離れようとしたら、渚ちゃんが「宗ちゃん」と僕の背後に向かって呼んだ。
振り向くと、渚ちゃんは二つの水着を僕に見せつけて、「どちらが似合うと思う?」頬を真っ赤に染めて僕に問いつめるように言う。
「えっと」
困るな。とりあえず二つの水着を見ると、右手に持っているのは真っ白なワンピースタイプの水着で左手に持っているのは赤いビキニだ。
「僕に聞かれても・・・」
「むぅ」
ご立腹な顔をする渚ちゃん。
何か面倒くさい事になってきた。
僕はこの状況を何とかしてほしいと思って、隣にいるなでしこさんに助け船を求めるかのように、見つめる。
するとなでしこさんは「渚さん」窘めるような口調で言った事に、ほっとした。
でもなでしこさんは「試着も出来ますから、まずは着てみてはいかがですか?」
さらに面倒くさい事になってきた。
だから僕は言う。
「今日はお昼のお買い物に来たんでしょ」
この場から早く逃れたいと思っての僕の思いきった発言だった。
「むぅ」「ん?」
ご立腹な目で僕を見る渚ちゃんと、『まあよろしいじゃありませんか』と言うようななでしこさんの穏やかな目が僕の視線の奥の心に突き刺さるように痛い。
またため息がこぼれ落ちそうだったが、ここで僕がため息をこぼしたら、渋々な僕を見透かされて、また何かされそうだから、最大限気を使い、こぼれそうなため息を僕はこらえた。
試着室まで行って、渚ちゃんが試着室に入り、「じゃあ、早ちゃん。まずこの白いワンピから着るね」
「うん。わかった」
何で僕に断るんだろう。
さらに渚ちゃんは、
「覗いちゃ嫌だからね」
『覗かないよ。誰がそんなつまらない物を覗かなきゃいけないんだよ』と罵りたい程、僕は気が滅入っていてご立腹だったが、最大限に気を使って笑顔を取り繕い首を縦に振った。
試着室のカーテンを閉めて、渚ちゃんの視界が僕に映らなくなった事になでしこさんの前では堂々と、ため息をもらすことが出来た。
なでしこさんは僕の意をくむように、渚ちゃんに聞こえないように小さな声で「ため息をもらしますと幸せが逃げていきますよ」と言われたが、僕はまたため息をもらしてしまった。
「本当に宗太郎様は優しいんですね」
なでしこさんの何気ないその言葉は僕の心にとげが刺さったかのように痛かった。
優しい・・・。




