見えない心
前回のあらすじ。
ピクニックから帰ってなでしこは仕事を続ける。
そんななでしこを見て自分にも何か出来ないかと思った宗太郎はピクニックで疲れた体を酷使しようとして?
なぜ、僕は叫んでいるのだろう?
そんな僕になでしこさんは心配して、駆けつけてくれる。
「どうしたのですか?宗太郎様」
「僕も頑張らなきゃ。僕も頑張らなきゃ」
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気が付けばめちゃくちゃになった部屋のベットの上で、なでしこさんに抱きしめられていた。
「そうですか。私が頑張っているのに、宗太郎様自身も頑張らないといけないと思ったのですね」
涙が止めどなくあふれ出てくる。
また僕はなでしこさんに心配をかけて迷惑をかけてしまった。
自分のふがいなさを責める事しか、今の僕には出来なかった。
でも自分を責めれば責めるほど、なでしこさんはその心配は募ってしまい、なでしこさんに余計な負担をかけてしまう。
「宗太郎様、お願いですから、無理はしないでください」
そのなでしこさんの優しい言葉が痛かった。
僕はいらない人間だ。僕は情けない人間だ。
そんな事を言ったら、なでしこさんに心配されて、また優しい言葉に僕は傷ついてしまう。
自分のふがいなさに涙が止まらなかった。
なでしこさんは僕を優しく包み込むようにただ抱きしめていた。
僕はその止めどなくあふれ出る涙を懸命に拭って、なでしこさんの表情を見た。
涙でぼやけていたが、何か悲しそうな顔をしているのが一目で分かった。
だからつい言ってしまった。
「そんな顔をしないで」
涙でしゃがれた声でなでしこさんに訴える。
なでしこさんはきょとんとして、その目を閉じて「宗太郎様、今日の所はもう寝ましょう。疲れているんですよ宗太郎様は」
「でも、なでしこさんも疲れているんでしょ」
「私は普通の人間とは違うアンドロイドです。ちょっとやそっとじゃ、へこたれませんよ」
「でもなでしこさんが仕事しているとき、死んでしまったお母さんと重なってしまったんだ。
疲れているのに『大丈夫』って無理している顔だった」
するとなでしこさんは一瞬驚いた顔をして、そして後ろを向いた。
「・・・なでしこさん?」
「宗太郎様の気持ちはよく分かりました。
でも宗太郎様、私は・・・なでしこは人間の為にお世話する為・・・もしくは愛玩用のロボットなのです」
「違う」
大声でなでしこさんの言葉を強く否定すると、なでしこさんは僕の方を向いて「違いありません」と威圧的に返し、その瞳には涙を少しだけにじませた感じだった。
しばしの僕となでしこさんの沈黙。
なでしこさんはその目を閉じて「申し訳ありません。とにかく宗太郎様、今日の所はお休みになってください」と僕から離れて、部屋を出て、多分仕事部屋に戻ったのだと思う。
『違いありません』と感情的になったなでしこさんを見て、ショックを受けたが、僕はなぜか安心してしまった。
何かなでしこさんの深い心の中をかいま見れた感じがして。
テレビ、パソコン、コピー機、エアコン、車、飛行機、それらは人間が作ったもので、人間が命令を下さなければ動くことの出来ない物だ。
なでしこさんもそんな人間の利便の為に作られたアンドロイドだとなでしこさんは言っていたも同然。
でもなでしこさんは違うと僕は思う。
確かになでしこさんはそんな人間の利便の為に作られたかも知れない。
それによって僕をお世話して生計を立てて働いて貰っている。
「それだけじゃないよ。なでしこさんは・・・」
そう部屋で人知れず呟き、僕の心はすっきりと晴れて、なでしこさんの言う通り、無理してはいけないと素直に受け取り、その目を閉じて眠る事にした。
****** ******
『宗太郎様が望めば、私はいつまでも側にいますよ』
目覚めた時、凄く心地よい夢が見れた。
どんな夢かは詳しくは覚えていないが、とても心が温かくなる夢。
ベットから体を起こすと、なでしこさんの姿はなく、台所の方から家事の音が響き、僕はとっさにベットから出て、台所にいるなでしこさんの元へと行った。
「おはよう。なでしこさん」
「・・・あ、はい。おはようございます」
挨拶にぎこちないのは昨日僕に対して感情的になってしまった事にわだかまっているようだ。
そんな、なでしこさんを見ていると、ちょっと心が萎えてくる。
僕がちょっと無理をしすぎて、なでしこさんに迷惑をかけてしまい、それでなでしこさんは僕に対して感情的になり、なでしこさんはその事に蟠っている様子だ。
元は僕が悪いのに、なでしこさんがそんな風に蟠る必要などないと逆に僕が蟠ってしまった。
テーブルのイスに座ってなでしこさんが台所で朝食を作っている後ろ姿を見て、なでしこさんが不憫に見えてきてしまった。
「なでしこさん」
「はい」
「昨日はごめんなさい」
するとなでしこさんは振り返り、いつもの穏やかな笑顔とは違って、心に蟠りを感じた。
「私の方こそ申し訳ありません。つい感情的になってしまって・・・」
「いや僕は嬉しかったよ」
「えっ?」
「なでしこさんもそういう所があって、僕は安心した」
「そうですか」
と、なでしこさんはいつもなら穏やかな笑顔で対応してくれるのに、素っ気ない感じだった事に、僕は心に穴があいたように切ない気持ちになった。
そんななでしこさんの後ろ姿を見つめて、「なでしこさん。もしかして疲れているんじゃないの?」と心配した。
「私は大丈夫です」
「・・・」
昨日の事があってか、何か今日のなでしこさん、凄く冷たい感じがする。
僕が昨日あんな風に大声を上げて心配かけてしまった事を怒っているのだろうか?
それとも僕の事が嫌いになってしまったのだろうか?
僕の頭の仲に色々と憶測が巡り、あまり良い気分にはなれなかった。
朝食ができあがっても、いつものように穏やかな笑顔はなく、何か素っ気ない。
なでしこさんが作ってくれたおいしいはずのスクランブルエッグを食べたが、その事が気になりすぎて、どんな味がしたか分からないって言うか、正直おいしいとは思えなかった。
そして渚ちゃんが僕を迎えに来た。
早速なでしこさんが玄関の前に行き、明るい笑顔で「おはようございます渚さん」と挨拶をする。
「おはようなでしこさん」
そんな二人のやりとりを見て、どうして僕の前ではその穏やかな笑顔をくれないのか?何か嫌な気持ちになる。
いつものように今日も三人で途中まで登校する。
なでしこさんは渚ちゃんと楽しそうに話していて、僕はなぜかその会話に入る余地がなかった。
二人の会話を聞いてみると、昨日のピクニック楽しかったとか、僕の絵がうまかったとか、お弁当とてもおいしかったとか色々と話題を繰り広げている。
僕はそんな二人の会話を見て、寂しい気持ちでいた。
渚ちゃんが僕に振り返り、「早ちゃんも楽しかったでしょ」
「うん」
僕が二人の会話に入ろうとすると、なでしこさんはぎこちない笑顔を見せ、僕は正直泣きそうだった。
なでしこさんとの学校の分かれ道にさしかかり、なでしこさんはようやく穏やかな笑顔で「では宗太郎様に渚さん。お気をつけて」
「なでしこさんもお気をつけて」
渚ちゃんが言うとなでしこさんは「はい」と穏やかな笑顔で対応したが、一瞬その笑顔が曇るかのように、視線をうつむかせた事を僕は見逃さなかった。
なでしこさんの後ろ姿に軽く手を振って見送る渚ちゃん。
「早ちゃん。今日はなでしこさんと何か合ったの?」
渚ちゃんは気が付いて入るみたいだ。僕となでしこの間に今日は何か妙な隔たりがある事に。
でも心配かけたくないし、心配かけると何か面倒な事になりそうなので、「別に何でもないよ」と笑顔を取り繕って言った。
「嘘」
そういって渚ちゃんは僕の目をのぞき込むように、その仕草は僕の心をのぞき込んでいるかのようで、何か心苦しかった。
「な、何でもないって」
渚ちゃんを振りきって、先を急ごうとすると、僕の横を並んで、付いてくる。
「なでしこさんと何か合ったんでしょ。白状しなさいよ」
強引に首を突っ込んでくる渚ちゃんが正直うざい。
「だから何でもないよ」
と走って行ったが、渚ちゃんも走って追いかけてくる。
「待ちなさいよ」
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体育館裏の誰も人気のない所まで行き、何とか渚ちゃんを巻くことが出来た。
かなり走ったので息切れをしている。
以前の僕だったら、へばっていたが、こうしてなでしこさんの世話になり学校にも通えるようになって体力が次第に戻ってきたみたいだ。
僕はチャイムがなるまでここで待っていようと思う。
石段に座って、一人になってしまった。
その事に気が付くと、なでしこさんの僕に対する素っ気ない対応が脳裏に巡って僕は苛む。
僕は石段に座ってうずくまりながら、涙が止まらなかった。
僕が昨日大声を出して、なでしこさんを困らせたから?
なでしこさんの役に立ちたいのに。
なでしこさんは自分はロボットだからって、それを否定する僕に冷たい対応をする。
僕はなでしこさんが好きなのに、なでしこさんは僕の事が嫌いになってしまったの?
なでしこさんが分からない。
「早ちゃん」
渚ちゃんの声が聞こえた。
顔を上げると、石段に座ってうずくまっている僕を笑顔で見下ろしていた。
僕は涙を見られたくないので、とっさに体を丸めて顔を隠した。
「何?渚ちゃん。何でもないから」
すると渚ちゃんは僕の隣に座って肩を寄せ合って、くっついてきた。
それは強引に首を突っ込む感じではなく、ただ僕の側にいて、ただ黙っていた。
何だろう。渚ちゃんがただ、こうして側に感じられるだけで、気持ちが楽になっていく。
心の痛みが緩和されていく。
まるで渚ちゃんは僕の悲しみの心を読んでくれているように感じて、自然と涙があふれてきて、でも僕は渚ちゃんの前では素直に泣いて良いと思えた。
だから僕は涙は見せられないが、うずくまって、ただ渚ちゃんを近くに感じて泣いていた。
かなり時間が経ってもう授業が始まっているかも知れない。
それにチャイムの音も聞こえなかった。
でも僕は甘ったれているかも知れないが、今は涙を思い切り流して、渚ちゃんを近くに感じていたいと思っていた。
「落ち着いた早ちゃん」
丸まった僕の背中を優しくさすって、僕を安心させるかのような優しい口調で渚ちゃんは言う。
「私も強引に事情を迫ったりしてごめんね。
私ね、早ちゃんが元気ないと、私も何か辛い」
渚ちゃんの気持ちを目の当たりにして、僕は涙を流している事を忘れて、渚ちゃんのその顔を見た。
穏やかに微笑み、僕の痛んだ心を癒してくれるような、そんな輝かしい笑顔だった。
だから僕はそんな渚ちゃんになら、事情を話しても良いと思えて、事情を説明した。
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事情を説明して、渚ちゃんは笑顔で僕の悩みを聞いてくれたが、内容を聞いて、渚ちゃんは切なそうな顔をした事にしゃべって僕は後悔した気持ちでも合ったし、悩みを打ち明けて、すっきりして話して良かったという気持ちでちょっびりと気持ちがあたふたとしていた。
「そっか、昨日そんな事が合ったのかあ」
と校舎と体育館の間に垣間見える青い空を見つめて渚ちゃんが言う。
「なでしこさん。僕の事を嫌いになっちゃったのかな?」
僕がそういうと渚ちゃんは一瞬切なそうな視線を斜めに向けて、それから僕を安心させるように朗らかな笑顔で対応する。
「そんな事ないと思うよ」
「どうして」
「分からないけれども、なでしこさんを見て分かったんだけれども、なでしこさんはロボットだけれども、そんな人じゃない。
それで分からないけれども・・・」
渚ちゃんが言葉に迷う。
僕の気持ちが曇る。
「とにかく早ちゃんを嫌いになった訳じゃないと私は思うよ。
うまく言えないけれども、なでしこさんにも生まれてきて十年ぐらいが経過したって聞いたけれども、それで色々な事を見て、何か深い訳があるんだと私は思うよ」
「その深い意味って?」
「わからない。とにかく早ちゃんを嫌いになる事は決してない」
と渚ちゃんは断言して、僕は信じる気持ちは揺れているが、渚ちゃんは僕を懸命に元気づけようとしているから、僕は空元気でも立ち上がり、
「ありがとう。渚ちゃん。とりあえず、教室に行こう」
そして渚ちゃんは朗らかに笑って「うん」と言った。
教室に戻った時に、待っていたのは篠崎先生のお説教だった。
二人で怒られて、二人で罰を受けて、二人で廊下に立たされて、へこむような事はなく、廊下にたたされて僕と渚ちゃんは、語り合って明るい話題で盛り上がり、僕の曇っていた心は次第に晴れていった。




