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モデル

前回のあらすじ。


 宗太郎、なでしこ、渚の3人はバスでピクニックに出かけて、自然の景色や風景を楽しみながら3人で写生して、持参したお弁当を食べたりと、ほのぼのとする時間を過ごす。



 お昼が終わって僕達は引き続き写生に取りかかった。

 なでしこさんも渚ちゃんも集中して写生に没頭している。

 のどかな自然の清々しい空気と、木漏れ日から漏れる陽気な日差し、川のせせらぎと小鳥のさえずる音が創作意欲をかき立てられる。


 一枚の写生が描き終わり、なでしこさんと渚ちゃんがベンチに座って写生している姿を僕はちらりと見る。

 その姿は本当に絵になって可憐だ。


 僕も描きたい物を描いて、とにかくシャープペンシルを走らせる。

 密かに絵描きになりたいと思っていた事を、なでしこさんと渚ちゃんなら打ち明けてもいいような気がした。

 僕は前は夢を打ち明けたら泡沫のように消えてしまう事をひどく恐れたが、今はそうは感じられない。


 それはともかくこうしてのどかな自然に囲まれて写生をしていると時間を忘れさせてくれる。


「でーきたー」


 渚ちゃんが描き終わったみたいで、その絵を僕に見せに来た。


「宗ちゃん先生、評価をお願いします」


 戯れを言う渚ちゃん。


「先生なんて大げさな」


 と言って僕は渚ちゃんのスケッチブックを受け取り、僕が描いたスケッチブックを差し出して見せ合いっこした。


 渚ちゃんの絵を見てみると、技術的にはまだまだ足りないけれども、ちゃんと強調するところは強弱を入れ描いているその絵は僕の心に印象を受けた。

 この絵を見てみると、渚ちゃんは本当に描きたい物を描いていることが分かる。

 確かに技術的にはまだまだだけれども、もっと練習すれば、もっと描く事を好きになればもっと上達すると思う。

 僕も負けていられないかも。


「渚ちゃん、良く描けているよ」


 渚ちゃんにスケッチブックを返して差し出すと、僕のスケッチブックを見て、うっとりとしている。

 その姿を見て、僕の絵を見て感銘を受けていると、僕は愉悦な気分になる。

 どうだい渚ちゃん。

 渚ちゃんの絵もなかなかだけど、僕には及ばないだろう。


 そこで渚ちゃんは僕のスケッチブックを見つめながら、「なでしこさん」と呼び「はい」と言って「早ちゃん先生の絵をごらんになってみてよ」

 なでしこさんは僕のスケッチブックに目を通す。


「本当に素敵ですね。自然の中で私と渚さんのスケッチしている姿が凄く可憐で印象深いですね。本当に宗太郎様の絵って、手腕な芸術家が描いたようにすばらしいです」


「へ?」


 賞賛の言葉は嬉しいが、なでしこさんは言った。『私と渚さんのスケッチしている姿が』うんたらかんたらって・・・ここで僕は羞恥の気持ちに苛まれ、僕はもしかしてまた気が付かぬ内に見られて恥ずかしい物を描いてしまったのかと思って、渚ちゃんがなでしこさんに見せるスケッチブックを見ると、それはなでしこさんの言う通り、自然に囲まれながら渚ちゃんとなでしこさんがきっちりと描かれている。


「ええーちょっと」


 渚ちゃんからスケッチブックを取り返そうとすると、引っ込めて、返そうとしなかった。


「早ちゃん先生、また私達をスケッチしていたのですか?」


 にやにやと嬉しそうだ。


「返してよ渚ちゃん」


「なでしこさんパス」


「はい」


「なでしこさん。返してくれますよね」


「ふーむ、別に減るものじゃないから私と渚ちゃんが満足の行くまで見せていただいてもよろしいかと思います。今後の私達の宗太郎様先生の絵を見て大変勉強になると思いますから」


 どうやらなでしこさんも返すつもりはない見たいだ。


「なでしこさーん」


 と追いかけたが、なでしこさんは凄く早く、逃げて、でも狭い公園なのですぐに追いつめることが出来て、


「さあ、なでしこさん。返してください」


 そこで渚ちゃんが僕の背後から「なでしこさん。パス」


「はい」と言って渚ちゃんに投げ、ナイスキャッチで受け取り逃げる。


 僕はもう泣きそうだった。


 どうして僕は二人のことを無意識的に描いてしまったのか?


 これで僕は二人に嫌らしいレッテルを貼られてしまう。


 必死にスケッチブックを取り返そうとしたが、二人はそんな僕が嫌がるのを面白がるように、スケッチブックを返してくれなかった。


 僕は追いかけるのを疲れてしまい、その場でうずくまって泣いてしまった。


「ひどいよ」


「そんなに泣く事はないじゃないですか宗太郎様」


「そうよ。こんな素敵な絵を誰にも見せないなんてもったいないよ」


「宗太郎様、私たちもちょっとお戯れが過ぎました」


 と言ってなでしこさんは僕にスケッチブックを返してくれた。


 改めて涙でぼやけたスケッチブックを見ると、僕はどうして無意識のうちになでしこさんと渚ちゃんが自然の中をスケッチしている姿を描いてしまったのか?そんな自分が嫌になる。


「早ちゃん」


 と渚ちゃんがうずくまった僕の目をのぞき込むように見つめて、


「私達を描いてくれてありがと」


 表情をほころばせ僕に面と向かって言う。


「僕の事スケベな男の子だと思ったでしょ」


 視線をさまよわせ苦笑いをする渚ちゃん。


「思ったんだ。僕の事、スケベな男の子だと思ったんだ」


「じゃあ、どうして私となでしこさんを描いたりしたの?」


「分からないけれど、自然と手を動かしてたら、勝手に・・・」


 そこでなでしこさんが、


「まあ私達の事を描いてくれたのは本当に嬉しいのですが、これからはちゃんと私達に断って描いてみてはどうでしょう?

 宗太郎様が私達を描いてくれたのは嬉しいのですが、時と場合によっては、不快に思う人もいますからね。

それと宗太郎様も恥ずかしい思いはしたくないでしょうし」


「ごめんなさい。ごめんなさい」


 そうだ。これは本当に僕が悪い。

 確かになでしこさんの言う通りだ。

 二人に僕がスケベ扱いされても文句が言えない。


「でも私達も反省します。これからは宗太郎様が嫌がる事は決してしません」


 となでしこさんは穏やかに微笑みながら僕を見つめ、渚ちゃんの方を見ると、そっぽを向いて約束を守ってくれそうもない。


「渚ちゃん。反省しているならこっちを見てよ」


 すると渚ちゃんはふてくされた感じで「だって元を言えば早ちゃんが私達を勝手に描いたんだから、早ちゃんも悪いんだし」


「まあまあ渚さん。渚さんも宗太郎様に描いてもらえて嬉しかったんでしょ」


「まあ、それは・・・」


 嬉しそうに照れている。


「とにかく宗太郎様、これからはちゃんとモデルを頼みたいときはちゃんと断ってからにしてくださいね。そうすればお互いに蟠りやトラブルにはなりませんから」


「はい」


 と僕は神妙に頷く。


 これで収まった。


 すると渚ちゃんが「早ちゃん。じゃあ、早ちゃんのその絵見せて」と改めて言われて僕は困惑するが、渚ちゃんの表情にいっさいのやましさは感じられなかったので、僕は見せた。


 渚ちゃんは僕が描いた絵を凄く表情を綻ばせて、嬉しそうに見ていた。

 その渚ちゃんの姿は可憐で、また先ほどの無意識的に描く気持ちに自分で気が付いた。

 渚ちゃんのその僕の絵を表情を綻ばせて見る似顔絵を描きたい。

 なでしこさんの言う通り、渚ちゃんに断ろうとしたが、何かすさまじく恥ずかしくて言えなかった。

 でも描きたい。

 なでしこさんの顔に目を向けると、にっこりと笑って、僕の心を看破しているような感じだった。

 なでしこさんの心の声が聞こえるような気がした。


『描きたいならちゃんと断りなさい』


 と。

 だから僕は思いきって渚ちゃんに言う。


「渚ちゃん」


「ん?」


「渚ちゃん。・・・その・・・えーと・・・あの」


「なあに早ちゃん?」


 渚ちゃんの目を見ると、穏やかな表情で僕の返答を待っている。

 だから思い切って僕は、


「渚ちゃんの絵を描いて良いかな?」


 すると渚ちゃんはおもむろに目を大きく見開き、唇を綻ばせ、「喜んで」と了承してくれた。


「じゃあ、今度は渚さんをモデルに私も参加させていただいてもよろしいでしょうか?」


「ぜひぜひ」


 僕となでしこさんは、渚ちゃんをモデルに絵を描くことになった。

 渚ちゃんをベンチに座らせて、渚ちゃんは適当にポーズを取り、両手で頬杖をついて、僕達の方を見ている。


 そんな渚ちゃんは本当に可憐な感じで、描く意欲がわき起こる。

 今度はちゃんと断っているので、やましい気持ちになる事はない。

 そんな渚ちゃんを僕は本当にかわいく可憐に描き止める事にペンが止まらなかった。


 二十分くらいが経過して、「出来た」と言うと同時になでしこさんも「出来ました」


 すると渚ちゃんは「モデルって大変だね」と疲労困憊な体だった。


 渚ちゃんを描いた自分の絵を見てみると、自画自賛で、良く描けているようで僕は満足だった。


 渚ちゃんは立ち上がり、早速なでしこさんと僕が渚ちゃんを描いたそれぞれの絵を見る。


 なでしこさんの描いた絵を見てみると、しっかりと渚ちゃんの姿形をとらえて、それにペンの強弱がしっかりしていて、なでしこさんも上手に描けている。

 なでしこさんも上達している。

 僕は密かにロボットだから、人間の持つ感性がないと心配だったが、そんな事はないと安心した。


「どちらも甲乙つけがたいね」


 と渚ちゃんは言う。


 そこでなでしこさんは「私が言うのも何ですが、やはり絵はそれぞれの個性が描写されているので、どちらが良いとかそういうのはなしにしましょう」


「じゃあ、今度はなでしこさんをモデルにしようよ早ちゃん」


「良いね」


 自然の中でのデッサンは本当に楽しいものだ。

 絵は熟練した人が描けばそれは凄い絵になるが、僕達はなでしこさんの言うとおり、そういうのはなしにして描くと本当に絵を描く事が心から好きになった。

 こうしてなでしこさんにこんな素敵な場所に連れて行って貰って、僕と渚ちゃんは心から感謝した。

 明日は学校だ。

 そう考えるとおっくうになるが、なでしこさんと渚ちゃんの為にも、そして僕自身の為に乗り切ろうと思う。

 そう思うと、明日また僕をいびる人間もいるが、そんな意地悪な人に負けないと心の底から未知の力がわき起こった感じだ。


 僕は帰りのバスの中で二人に言った。


「また三人でスケッチしに行こうね」


 って。


 すると二人は笑顔で僕に期待通りの言葉を返してくれた。



 ******   ****** 



 渚ちゃんとも『また明日』と言って別れて、僕となでしこさんはうちに帰り、早速なでしこさんは今日スケッチした僕達それぞれの絵を一枚ずつ、寝室となでしこさんの仕事部屋に張った。


 夕飯はなでしこさんもお疲れモードなので、作ってくれるとは言っていたが、コンビニでおにぎりと野菜ジュースを買って済ませた。


 僕が食事をしている間、なでしこさんは仕事部屋で僕達の生計を立てるために翻訳の仕事をしていた。


 食事を食べ終わった僕は、なでしこさんの仕事部屋にこっそりと入ったが気づかれて、僕に振り返り屈託のない笑顔で対応してくれる。


「宗太郎様、どうかなさいましたか?」


「・・・いや・・・その・・・」


 何を言えば良いのか言葉に迷ってしまう。


「ん?」


「今日は色々とありがとう。それになでしこさんは今日はとても疲れたでしょ。・・・・だから・・・あまり無理しないでね」


「ありがとうございます。私の事を心配してくださって。ええ、私は大丈夫ですよ。後一仕事終えたら、休みます」


 僕は部屋を出て複雑な気持ちだった。

 なでしこさんは屈託のない笑顔で言った。


『大丈夫』


 と。


 それは僕の唯一の肉親だったお母さんの言葉と重なった。

 僕のお母さんもそうだった。

 屈託のない笑顔でいつも『大丈夫よ。何も心配しなくて良いのよ』って。

 あの頃、お母さんは朝から晩まで働いて大変なんじゃないかって。

 そんなお母さんに僕は何をしてあげられただろう?

 それにお母さんは・・・・。

 やめよう。僕が悲しむと、なでしこさんが心配して、なでしこさんに負担をかけてしまう。

 なでしこさんはロボットだから疲れなんてないなんて考えるのは僕は大きな間違いだと思っている。

 なでしこさんが無理をしすぎて体を壊してしまう事を思うと、僕の心の底から、黒い嫌な物がわき起こるように、その正体は不安だった。


 確かに今日はなでしこさんと渚ちゃんと僕ではしゃいで楽しんで疲れているが、僕も出来る事をやらなきゃ行けないと思う。


 僕の出来る事。せめてなでしこさんが仕事が終わるまで、何か懸命に頑張りたい。


 そう、この身を削って・・・・。


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