ピクニック
前回のあらすじ
なでしこに対する宗太郎の思い。
なでしこは一人ぼっちを恐れる宗太郎に言う。
「宗太郎様が望めばいつでもいます」
と。
その言葉に宗太郎は安心する。
ピクニック当日、僕はなでしこさんと出かける事に胸を膨らませていた。それと僕は最初一緒に行くのを渋った渚ちゃんとも。
時計は午前七時を回っていた。
なでしこさんは台所でお弁当を作っている。
僕はスケッチブックとシャープペンシルを鞄に入れて、準備はできた。
だから僕はなでしこさんが台所でお弁当づくりを手伝おうと思って、台所に行く。
「なでしこさん。何か手伝うことはない?」
なでしこさんは視線を上に向け考えている仕草をして、
「じゃあ、おにぎりを握ってもらえませんか?」
「うん」
喜んで引き受ける。
手を丹念に洗って、なでしこさんにおにぎりの握り方を教わる。
簡単だと思ったら以外とうまく行かず、僕は少々苦戦した。
でもなでしこさんに丁寧に教わり、ちょっとなでしこさんのとは不格好だが、握れた。
でもなでしこさんはそんな僕のおにぎりを見て、「良くできました」と誉めてくれる。
おにぎりの具は梅干しに鮭の二種類で、見ていると食欲がそそり、今すぐにでも食べたくなる。
おかずは唐揚げに、肉団子で、野菜はトマト、果物には小さなフルーツ缶が二つだ。
きっと渚ちゃんもこのお弁当を気に入るだろうと今からわくわくしてくる。
おにぎりを詰めたタップとおかずを詰めたタップをそれぞれの蓋を締めて、重ねて藍色の布に包んで準備ができた丁度その時に、家の呼び鈴が鳴った。
「もしかしたら渚さんかもしれませんね。宗太郎様、ちょっと出てくださいませんか?ちょっと私手が放せないので」
「うん」
玄関に向かい扉を開くと、凄くおしゃれな渚ちゃんだった。
長い髪をなびかせて、頭に青いベレー帽を被り、ピンク色のカーディガンを白いワンピースの上に羽織っていて、僕は渚ちゃんの姿に見とれてしまった。
「おはよう早ちゃん。どうしたのそんなに見つめちゃって」
「・・・いや。その、えーと」
渚ちゃんがかわいいと思ったが、恥ずかしくてそれは口が裂けても言えないことだった。
そんな僕の反応を見て、なぜか嬉しそうにしていた。
もしかしたら聡い渚ちゃんは僕の心を読んだのかもしれない。
「とにかく、今なでしこさんは準備しているから、中に入って待っていてよ」
「はーい。お邪魔します」
渚ちゃんを中に招き入れた。
渚ちゃんを居間のテーブル席に座らせて、台所にはなでしこさんはおらず、丁度その時に、なでしこさんの声が「宗太郎様」と僕を呼ぶ声が聞こえてきた。
「はーい」
と言って、なでしこさんの声の発信源は寝室だと気が付いて、寝室に入ると、なでしこさんが下着姿が僕の肉眼に映った。
「あっ、宗太郎様、お弁当をこの鞄に入れておいてください」
なでしこさんは下着姿を僕にさらして羞恥を感じる様子はなく、笑顔でその鞄を差し出してきて、僕はとっさにその扉を閉めた。
なでしこさんの下着姿を見て、すごく胸がドキドキする。
「早ちゃんのエッチ」
渚ちゃんに僕がなでしこさんの下着姿を見ていた所を一部始終見られてしまったみたいだ。
渚ちゃんはその目を細めて、嫌か感じの表情でジロリと不審な目で見ていた。
「誤解だよ。渚ちゃん。これは明らかに不可抗力だろ」
「早ちゃん。嫌らしい目で見ていた」
「してないよ」
「どうだか?」
渚ちゃんに嫌悪され、せっかくのピクニックなのに辛気くさそうになりそうなので、とにかくこの辛気くさい空気を何とかしないといけないと、考えたが、言葉が見つからず、渚ちゃんの嫌悪なオーラを感じて気持ちが嫌になった。
そんな僕に対して羞恥を感じないなでしこさんを責めてしまう僕が心の中に出てくる。
僕は泣きそうになったところ、なでしこさんが部屋から出てきて、「お待たせしました」と赤いチェックの入った柄のワンピースにまとい、その長い髪をなびかせている姿に見とれてしまい、嫌な気持ちが一気に吹っ飛んだ。
「なでしこさん。綺麗」
渚ちゃんも先ほどまで僕に向けていた不審な表情から一転して、なでしこさんの可憐な姿に見とれていた。
****** ******
準備も整い、僕達は、外に出て、なでしこさんに続いた。
「なでしこさん。ところでどこに行くの?」
僕が聞くと「内緒です」と人差し指を口元に当てるなでしこさんの仕草に心が奪われそうになる。
そんな気持ちになると、僕の隣にいる渚ちゃんが何か得たいの知れない妙なオーラを発しているような気がして、ちょっと気分が悪い。
何だろう?僕の心が渚ちゃんに読まれているような気がする。
僕もそんな渚ちゃんの険悪なオーラから察するに僕も渚ちゃんの心の声が聞こえてくる気がする。
渚ちゃんの心の声を言葉に言い表すのは困難だが、心の声は聞くのではなく感じる事だと、今ここで勉強になった事だ。
その渚ちゃんの今の心の声はあまり良いものじゃないと感じている。
そう思うと僕は渚ちゃんと一緒に行きたくないと思ってしまう。
でもそう思ったら、渚ちゃんかわいそうだし、その僕の露骨に嫌がる心の声を聞いたら悲しむだろう。
バス停にたどり着き、なでしこさんは渚ちゃんの分のバス代を払うと言っていたが、渚ちゃんはそれは悪いと思って自分で払うと言った。
バスはあまり乗客がおらず、余裕で三人僕たちは座れた。
僕は一人の席で、渚ちゃんとなでしこさんは二人シートに座っている。
ため息がこぼれそうになった。
僕はなでしこさんの隣に座りたかったが、仕方ないか。
仮に僕がなでしこさんの隣に座ったら、また渚ちゃんから妙なオーラを発してくるだろう。
それになでしこさんと渚ちゃんは仲むつまじい姉妹のように語り合っていた。
「渚さんのそのカーディガンとワンピース、とてもかわいらしいですよ」
「本当ですか?そんな事ないですよ」
誉められて凄く嬉しそうに謙遜しているのが丸わかりだった。
渚ちゃん誉められるとすぐに嬉しく舞い上がってしまうところがわかりやすい。
「渚さん、今もとてもかわいらしいですけれども、後数年立ったら、もっと素敵な女性になると私は思うんですけどね」
「そんな事ないですよ」
うわーさっきより嬉しそうに声を張り上げて、嬉しそうに謙遜している。
でも本当に今日の渚ちゃんお洒落でかわいいのは確かだと僕は密かに思っていた。
「そう思いませんか?宗太郎様」
「そうだね。渚ちゃんのお洒落した姿を一目見たとき、僕見とれちゃったよ」
僕は舞い上がって言ってしまったことに僕は後悔する。
渚ちゃんは顔を真っ赤にして凄く嬉しそうに照れて、「もう。早ちゃんたら」僕の頭をグーでかなり強めで叩いてきた。
「痛いよ。渚ちゃん」
「でもなでしこさんの可憐さには私適わないな」
渚ちゃんがしゅんとした表情で弱く呟く。
「まあ、私は・・・」
複雑そうな表情で黙り込むなでしこさん。
その表情は何か深刻な悩みが垣間見えた気がした。
なでしこさんは自分がロボットだと言う事に何かコンプレックスを感じているのか分からないが、とにかくなでしこさん自身に何かあると感じた。
「ねえ、早ちゃん。なでしこさんに比べたら、私なんて月とすっぽんだよね」
渚ちゃんもなでしこさんに何か深刻な悩みを感じ取ったらしく、とっさに渚ちゃんはなでしこさんの機嫌を損ねないように気を使っている感じだった。
僕は渚ちゃんのなでしこさんに対する気遣いに、「そうだね」と勢いに乗って、僕はそこで地雷を踏んでしまった。
****** ******
女の子って訳が分からない。
渚ちゃんはなでしこさんをとっさに機嫌を損ねないように『なでしこさんと比べたら、私なんて月とすっぽんだよね』って。
良く言葉を吟味するべきだったが、そんな余裕がなかったので、僕がそれを認めた瞬間に、渚ちゃんはその手を丸めて、僕の顔面に放った。
でもそのおかげでなでしこさんは笑ってくれた。
「二人ともとても仲が良いのですね」
と幸せそうに言ったのだった。
だから渚ちゃんに殴られたのは痛いがなでしこさんが笑ってくれれば、それで良い。
バスに揺られて二十分くらいが経過して、景色に目をやると、都会とは少しかけ離れた、山が垣間見える。
「じゃあ、渚さん、宗太郎様、次の駅で降りますので準備をしておいてください」
「「はーい」」
そして次の降りる駅にたどり着き、僕達は降りた。
そこは山道の麓でのどかで陽気な太陽に照らされ、穏やかな風に包まれ爽快な感じだった。
「何か気持ちいい」
バスから降りて軽く延びをして言う渚ちゃん。
本当に良いところだと思った。
バスで少し言ったところにこんな清々しい所に行けるなんて、知らなかった。
「さあ、二人とも私のとっておきの場所に案内しますので、付いてきてください。少し歩きます」
僕と渚ちゃんはなでしこさんを先頭について行き、歩き出す。
僕はすごくワクワクしていた。
何かこの自然に囲まれて、何か絵を描く意欲が高ぶる。
穏やかな風に木の梢が揺れ、小鳥の鳴く声、それに耳を澄ますと川のせせらぎの音が聞こえてくる。
なでしこさんの後に付いていき、その川のせせらぎの音が近づいてくる。
そして歩いて行き、山の麓の広場にたどり着き、木の柵に囲まれ、その柵から見下ろすと、透き通る川の渓流が流れている。
「綺麗」
と渚ちゃんはその透き通る渓流をうっとりとした目で見下ろしていた。
耳を澄ますと渓流の川のせせらぎの音、木々から太陽の木漏れ日が降り注ぎ、渓流が流れる川に反射して、鮮やかなコントラストを彩っている。
気が付けば僕はスケッチブックを広げて、この景色をシャープペンシルで描いていた。
「宗太郎様、とりあえず一息入れてから描いてみてはいかがですか?」
となでしこさんは僕に水筒のコップに注いだレモネードを差し出した。
「うん」と言って受け取って、それを一気に飲み干して、喉が潤い、書く意欲がまた高まった感じだ。
とにかくこの景色を描いていたい。
大自然の囲まれ、それを描写する僕のシャープペンシルが止まらなかった。
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お昼になるまで僕は次々と色々な景色を描き止め、なでしこさんに「そろそろお昼にしませんか?」と言われるまで気が付かなかった。
お昼を食しながら僕達はそれぞれの絵を見せ合った。
まず渚ちゃんの絵を見てみると、正直うまいとは言えないが、一生懸命に描かれているのが分かる。
なでしこさんの絵を見てみると、正確に景色が正確に描写されてうまい。
そこで僕の絵をなでしこさんと渚ちゃんに見せたら、二人とも引き込まれるように僕の絵をじっと見つめていた。
「すごいね早ちゃん」
「本当に宗太郎様は絵がお上手ですね。お昼食べ終わったら、私にもその描き方をご教授していただけないでしょうか?」
「えー、なでしこさん充分上手じゃん」
「でも、やはり改めて見ると、私の絵には引き込まれる要素がない気がするのです」
「じゃあ、私も教えて貰おうかな?」
そこで僕は二人に言う。
「僕は絵は教えられるものじゃないと思うんだけどな」
「なるほど、確かに言われて見ればそうですね」「早ちゃんは天才何じゃないの?」
「天才じゃないと思うけれども、僕はやっぱり絵は描きたい気持ちがその魅力を引き立たせるんだと思う」
「描きたい気持ちですか?簡単なようで難しい」「私も早ちゃんのように描いてみたい」
僕は描いて分かったんだけど、絵は教えられる物じゃないと僕は思った。
自分が何を描き何を表現したいのか、その気持ちが重要だと思う。
だからなでしこさんと渚ちゃんに僕が絵の事で教えることは、絵は教えられる物ではなく、何を描き何を表現したいのかが重要だと思う。
そして二人に僕は二人に言う。
「本気で絵がうまくなりたいなら、絵を描く事を好きになる事だと僕は思う」
僕が言うと、なでしこさんと渚ちゃんは目から鱗が落ちるように理解してくれた。




