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誕生日プレゼント



 十歳になる誕生日に、僕のお母さんは『プレゼントを楽しみにしていてね』と穏やかな笑顔で僕に伝え、僕は誕生日が待ち遠しかった。

 誕生日二日前にお誕生日カードを作って、友達は幼なじみの渚を招待する事に。

 その一枚のお誕生日招待状を渚に渡して、渚は淡々とした表情で「うん。行くよ」と言ってくれたが、もっと嬉しそうに言ってくれたって良いんじゃないかと心の中で不平を漏らしつつも、とにかく僕は二日後の誕生日が待ち遠しかった。


 そう楽しみにしていた。


 誕生日当日、僕のアパートで渚ちゃんと僕と二人で僕の母親が帰ってくるのを待っていた。

 時計は午後十九時を回ったところだった。


「遅いね、宗ちゃんのお母さん」


 心配そうに渚ちゃんは言う。


「そろそろ帰ってくるよ。それまでゲームでもして待っていようよ」


「うん」


 僕と渚ちゃんは二人でゲームをしながら待ったがお母さんはいっこうに帰ってこなかった。


 午後二十一時を回ったところ、僕は泣きそうになりながら、


「渚ちゃん。もう遅いから帰った方が良いんじゃない」


「大丈夫だよ宗ちゃん、私のうちお母さんは今日は帰ってこないから」


 と僕の悲しみを察して、側に居てくれるような感じで寄り添ってくれた。

 

 今日もお母さんは遅いのかな?楽しみにしていたお誕生日が祝えなくなっちゃっうのかな?

 お母さんのプレゼントもケーキもないのかな。


 僕が泣き出すと、渚ちゃんが歌う。


「ハッピーバースディートゥーユー ハッピーバースディートゥーユー ハッピーバースディーディアー宗チャン」


 渚ちゃんは歌ってくれて、手を叩いて祝ってくれた。


「おめでとう十歳の誕生日。これ私からのプレゼントだよ」


「渚ちゃん」


 一枚のカードを差し出して、僕はそれを見て、喜んだ。


「これ、美少女御子のウルトラレアカードじゃん。こんなすごい物をどうやって」


「一発で当てたんだ」


「ありがとう渚ちゃん」


「元気出た?」


「うん。それよりももう午後九時を回っているよ。早く帰らなくて良いの?」


「大丈夫。うちの両親は共働きで、二人とも出張で今日は帰ってこないのよ」


 そんな渚ちゃんは僕にすごく気を使っている気がする。

 

 僕は母子家庭で母親に育てられて生きてきた。

 母子家庭だからと言っても、母さんは必死に毎日働いて僕は何不自由なく暮らしてこれた。

 それにお母さんはお仕事が忙しく、いつも帰ってくる時間が遅いのは専らな事だ。

 でも僕の幼なじみの渚ちゃんが良く遊びに来て、そんな僕と夜遅くまでつき合ってくれる事は良くあることだった。

 でも今日お母さんは早く帰ってくると約束してくれた。

 またお仕事で忙しいから、帰ってこれないのかも?

 でももう午後十時をとっくに回ったところだ。

 いくら何でも遅すぎる。

  

 そう思った直後に、僕のスマホに一本の連絡が入り、それに出て、その内容を聞いて、僕は信じられなかった。


 お母さんは事故に遭い危篤状態に陥っていると。


 呼吸が激しく乱れていた。


 僕は夜遅いのにも関わらずに、その病院まで走り、その後を追うように渚ちゃんも付いてきた。


 気が付けば靴も履いていなかった。


 僕は靴下のままアスファルトを走って病院に全速力で向かう。

 病院までかなり遠く、僕はばてて、息を切らしていると、後ろから追いかけてきた渚ちゃんが


「宗ちゃん。これ」


 僕に靴を差し出す。

 そして靴を履いて再び走る。


 そして病院に到着して、受付の看護婦さんにお母さんの名前を言って、その病室に案内され、その病室の前に何やら警察や病院の先生が何やら話し合っていた。


「あのーお母さんはお母さんは?」


 みんな僕の顔を見ると、にっこりと笑って「大丈夫だよ」って言ってくれたが、そのお母さんがいる病室には入れてくれたかった。


 みんなの隙を見て、お母さんがいると思われる病室に入って、お母さんの痛ましい姿を見た時・・・。



 ******   ******   ******   *****

 *********   ******   ******   **



 僕のお母さんが死んでしまった衝撃に・・・僕は・・・。


 まるで体と心が絶対零度の冷たさにさらされたかのように、動かない。


 ここはどこなのだろう?


 残酷な真実を目の当たりにして、どれぐらいの時がたったのだろう。


 心の中でお母さんを思い浮かべると、気持ちは健やかになるが、そのお母さんはもうこの世にいない真実が僕に死ぬ事を強く渇望させた。


 とりあえず僕はお母さん以外に誰も身内も親戚もいない僕は、渚ちゃんの家に置いてもらっている。


 渚ちゃんの優しい声がする。でも上の空だった。


 そして渚ちゃんは僕を抱きしめている。


 渚ちゃんが自分のお母さんに頼んで、僕の大好きなハンバーグを作るようにお願いしている。


 僕は立つ足も動かない。

 それに手も。

 それと喋る事もできない。


 渚ちゃんが僕に優しくしてくれている。


 それに答えようと思っても、僕の脳裏にお母さんのあの・・・あの・・・・・。


 涙が止まらない。


 やがて涙が止まっても、目はぱっちりと開いているのに真っ暗だ。


 まるで僕は電池の切れた動く事の出来ない人形のようだ。


 僕が泣くと渚ちゃんが僕を抱きしめていた。


 そんな渚ちゃんの優しさに答えようとすると、お母さんの・・・あの・・・あの・・・。


 だからもう誰にも会いたくない。


 そろそろ眠くなってきた。


 僕の唯一の安らぎの時だった。


 眠ると、必ずお母さんに会える。


 眠る度に必ずお母さんは現れる。


 そして僕に優しく接してくれる。


 でも目覚めれば、僕はいつも愕然と落ち込んでしまう。


 もうお母さんとは眠る時にしか現れない。


 じゃあ一生目覚めなきゃ良い。


 苦しい悲しい辛い。


 そしてお母さんに会えた。


 そして僕は目覚める。


 そこにはもうお母さんはいない。


 そんな事の繰り返し。


 お母さんはどこにいるの?


 どうして会えたと思ったら、目覚めて、悲しくなり涙がこぼれるの?


 ある日目覚めた時、暖かい手の温もりを感じてお母さんだと思ったら渚ちゃんだった。


 また僕に優しくしてくれているんだ。


 その気持ちに答えようとすると、悲しみがどっと堰を切るように僕の心に流れ込んできて、余計悲しくなるからやめて欲しいんだ。


 もうどれぐらいの時がたったのか分からないが、いつの間にか寒くなってきた。


 僕は渚ちゃんの部屋にいる。


 渚ちゃんは学校だ。


 帰ってくると、僕に優しくしてくれる。


 心に嫌な物しかない。


 眠ればお母さんに会える。


 ・・・そして今日も眠くなってきた。



 

 ******   ******   ******   




 目覚めた時、暖かい温もりを感じる。

 渚ちゃんか?いや違う。体も大きい。

 

 僕は期待したと同時に「お母さん」と言葉を発して目を開けるとお母さんではなかった事に落胆した。


 それよりも僕に添い寝をして寄り添ってくれたすごく美人で高校生ぐらいの大人な顔立ちの女性に「誰?」と聞いてみる。


「お目覚めになりましたか?宗太郎様」


 僕の手をその細く柔らかな温もりで優しく包みながら、僕に穏やかにほほえむ見知らぬ女性。

 一瞬恐怖を感じたが、女性のその穏やかな笑顔を見ていると、その恐怖は一気に払拭され、なぜか安心してしまう。


 女性は体を起こして「起きられますか?宗太郎様」


 僕は言われた通り、その上半身を起こして、女性の柔和な笑顔を見て「誰ですか?」ともう一度聞く。


「申し遅れました。私は宗太郎様のお母様のお誕生日のプレゼントの『なでしこ』と申します」


「なでしこ?お誕生日プレゼント?お姉ちゃんが?」


 頭の中がパニックになっていた。


「驚いているようですが。事実です。それに私は人間ではなくロボットです」


「ロボットって?人工AI?」


「まあそんなところです。宗太郎様のお母様に聞いたのですが、以前から人工AIが搭載された犬型ロボットが欲しいと存じております。それとお母様から以前からお姉さんが欲しいとも伺っております」


 確かにそんな事を言ったような気がしたが、それはその場の欲求でそう言ったので本心はそんなんじゃない。

 本当に僕が心から欲しい物は・・・。


 するとなでしこは僕をぎゅっと抱きしめてきた。


「宗太郎様、そんなに悲しい顔はしないでください。確かにお母様を亡くした事は非常に悲しいかもしれませんが、これからはなでしこがついています。

 そのお母様の代わりにはなれませんが、このなでしこ、宗太郎様に全身全霊をつくして行くつもりです」


 何だろう。僕の心から嫌な物が少しだけ取り除かれた気がして、何か気持ちよかった。

 こんな気持ちすごく久し振りだ。


「それでは宗太郎様、今から朝ご飯をお作りしますので、少しばかりお待ちくださいね」


 そう言って、なでしこはベットから降りて、部屋を出ていった。


 僕は辺りを見渡して、渚ちゃんの家じゃない事が分かり「ここどこ?」と人知れず呟いた時に「宗ちゃんの新しい家みたいだよ」って渚ちゃんが側にいた。


「渚ちゃん」


「良かった。しゃべれるようになったんだね」


 と嬉しそうに言う渚ちゃん。


 僕は心が空っぽの時に渚ちゃんにあんなに優しくしてくれたのに、それに応える事が出来なくて僕の中で罪悪感が芽生えて何も言えなかった。


「そんな顔しないで。仕方がない事だよ」


 渚ちゃんが『仕方がない』と言う言葉に僕はお母さんの事を思い出して心が曇るように嫌な感じになった。


「だから、そんな顔しないでよ」


 悲しそうな表情で訴える。


「ごめんなさい」


「とにかく私はもう帰るから、後はなでしこさんが宗ちゃんのお世話をしてくれるから」


 と渚ちゃんは心なしかどこか寂しそうな顔をして、「じゃあ」と言って部屋を出ていった。


 あのなでしこさんがロボットでお母さんの誕生日プレゼントだと言う事は分かったが僕は状況が今一理解できなかった。

 また僕は夢を見ているんじゃないかと思ったが、そうでもない。

 これは紛れもない現実だ。

 

 とりあえず、僕はベットから降りて、部屋を出ると、すぐそこにキッチンと居間があり、キッチンでなでしこさんが料理を懸命に作っている姿が伺えた。


「あら、宗太郎様、体調の方はよろしいんですか?」


 にっこりと笑顔で僕は思わず、ドキッとして動揺する。


「う、うん。大丈夫」


「じゃあ、そこのテーブルのイスにかけてテレビでも見ながら、お待ちください」


 そう言って、なでしこはテレビのリモコンを操作してテレビをつけてくれた。

 そしてさらにリモコンを操作して、僕が好きだったアニメが映し出された。


「宗太郎様はこの美少女御子奈々のアニメが好きだと存じております。私が毎週録画して置きましたので」


 僕はぼんやりとした感じでテーブルのイスに座ってアニメを見る。

 そう言えば、あまりにも悲しい思いに駆られていたから、大好きなアニメの事なんて考える余裕なんてなかった。

 でもこうして見ると、やっぱりおもしろい。

 

「さあ、宗太郎様、お食事の用意が出来ましたよ」


 そう言ってなでしこが僕の座っているテーブルの前に料理を載せたお皿をおいていく。

 メニューはミートソースパスタにコンソメスープにトマトとレタスのサラダだった。


「ありがとう。なでしこさん」


「『なでしこ』で良いですよ」


 ロボットとは言え年齢は僕よりも年上のような感じなので、これからは『なでしこさん』とちゃんと敬って呼ぼうと思う。

 それはともかくなでしこさんはセーラー服に身を包んでいる。


「あっ、これですか?私は一応名目上女子高生として、ミラダ女子学院に通っています」


 ミラダ女子学園はこの地域では有名な進学校であり、都立校なので学費はあまりかからなくて、通称貧乏優等生として名が通っている。


「なでしこさんって頭良いんですね」


「それはもちろん。私は人間ではありませんからね。でも私がロボットと言う事は渚さん以外には伏せて置いてくださいね。色々と面倒な事になりますので」


「はい」


「それでは召し上がってください。これまでの経緯をお食事を嗜みながらお話しいたします。宗太郎様は色々と気になる事があると思いますので」


 僕はフォークを手に取り、ミートソースパスタを口に運んで、それはとても絶品だったので思わず「おいしい」とお世辞ではなく本心で言っていた。


「それは良かったです。それでは宗太郎様、食べながらで良いですから、聞いてください」


 僕は彼女のそのかわいい顔を見て、食べながら話を聞く。


 それはともかく僕はこれからなでしこさんと一緒に暮らす事に、なぜか胸がワクワクとときめいていた。


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