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魔族の将  作者: 未蓮鏡
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第2話「焼き鳥を食べてみた」

第2話


日が完全に落ち、天から月夜の光が城下を照らす。俺は戦乙女を連れて城下へ繰り出していた。


「どうだ、これが貴様たちが侵略しようとした旧ヘスティア王国の城下だ」


城下は昼間とは違った賑わいを見せている。子どもたちは姿を消し、代わりに武装した兵士や冒険者たちが溢れていた。酒場の売り子は声を張り客を呼び込む。飲んだくれたちが大声で歌い、周りが笑う。広場では噴水の前で踊り子が舞い、拍手喝采。鼻を伸ばすおっさんが隣の女性に殴られる。どこの街で見られる光景だ。ひとつ違う店を出すならば、魔族と人が入り混じっていることだ。


兵士は魔族。酒場の売り子は人間。飲んだくれは魔族と人間。踊り子は魔族、おっさんや女性は人間。


周りを見渡せば、魔族と人間が肩を組み、手を繋ぎ、抱き合う。見事な共存が成り立っていること。


戦乙女は俺の言葉に返事をせず、辺りをキョロキョロと見まわしていた。その様子は子どもが親の手を握り始めてみる世界を観察しているかのようで微笑ましい。


「将軍さん!今日も飲みに来てくれたんですか?いつも来てくれるんで、サービスしますよ!」


売り子が俺に声を掛けてくれる。その表情に恐れはない。イタズラでもしたかのような可愛い笑顔で隣に並んだ彼女。


「すまないが今日は遠慮しておこう。まだ職務中なんだ。それに連れもいる。また後日伺おう」

「えぇー。ってそちらのお連れさんは女性の方ですか?将軍さんも隅に置けませんねー!」

「そういうのではないんだが」

「あはは、邪魔したら悪いんで今日はやめときます。明日は絶対来てくださいね!」

「ああ、また明日な」


売り子の彼女は手を振って離れ、次のお客へ声をかけに行く。その後ろ姿を戦乙女は見つめていた。


「……人間の女性が魔族の貴方に話しかけるなんて……。それもあんな笑顔で」

「信じられないか?」

「信じられません。でもあの笑顔は貼り付けたものでは無く本物でした。なら、えぇ信じられませんがこれは共存しているのですね」


俺はそれに応えない。応えずに路店から食べ物を2つ買う。1つは俺の、もう1つは戦乙女のだ。戦乙女の前に差し出すと、彼女は首を傾げた。


「これは?」


どうやらこの食べ物を知らないらしかった。かくゆう俺もここに来るまでは知らなかったのだから、この国の隠れた名産なのかもしれない。


「サンドバードの串焼きだ。タレが効いていて美味しい。仕事終わりの酒によく合う」


サンドバードは陸地に住む飛べない鳥だ、一般人でも捕まえることができる、危険度の少ない魔物だ。ここらの地域ではよく食卓に出される馴染みの食材だ。


戦乙女は唖然として俺の顔を見たあと、吹き出すように笑った。何かおかしかっただろうか?


「いえ、貴方がそのようなことを言われるとは思わなくて。ありがとうございます、いただきます」


物珍しそうに串焼きを見たあと、恐る恐るといったように串の先についた肉に口を開く。口にいた途端目を見開き、うんうんと頷く。


「これは確かにお酒に合いますね!私も飲みたくなりました!」


その物言いに今度は俺が吹き出してしまう。それに我に帰ったのか戦乙女ははっとして口元を隠し小さくコホンと咳払いする。その頬はピンクに染まり、照れてるのが分かった。


「すまない、意外だったからな」

「い、いえ。私も取り乱してしまってすみません」

「どうだ、一杯するか?」

「しません!」


顔をピンクに染めたまま叫ぶ。俺はそれに口元を緩めハハハと笑う。なんだからかい甲斐のある戦乙女だ。もしこれまで戦ってきた尖兵たちが皆このようなものだったら、勿体無いことをした。もしそうだったら魔王陛下の理想に少しでも近づけたかもしれない。


「どうだこの国は?魔族が治めているとは思えんだろう?」

「ええ、とても活気のあるいい国です。人間と魔族が共に暮らす国。僅か数か月で共存が成っているとは思いませんでした」

「簡単なことだ、前の国王より善政を敷けばそれだけで民草からある程度の好感を得ることが出来る。後は俺たち魔族からの歩み寄りだ」


姿は大した差はない。肌の色、髪の色が違う。角の有無。翼の有無。尾の有無。耳の違い。違いを挙げていけばきりがないが、大きな違いはない。戦乙女だって人間との目に見える違いは翼の有無だけ。身に纏う雰囲気は違う。けれど対象を捉える第一印象たる見た目はそれこそ魔族とも大きな違いはないのだ。


「確かに、最初から歩み寄れたわけではない。だが、それは時間が解決してくれるものだ」

「私は考えたこともありませんでした。共存など。魔族は敵。中界と天界の、敵と教えられてきましたから」

「であれば学ぶといい。自らの目で見るものとただ教えられた事は違う。自ら判断して正しいと思える選択をすることだ」

「……貴方は本当に不思議な魔族ですね」

「俺からすれば貴様も不思議な戦乙女だ。怨敵たる魔族の話を聞くだけで無く受け入れるなど神の尖兵とは思えんな」

「私も貴方の言うように私自身の目で見て判断しようと思えたんです。人間に聖人もいれば悪人もいる。魔族にも同じように聖人がいるかもしれません」


いい答えだと思った。これまでの戦乙女とは違う確固たる意思を持った戦乙女。この戦乙女との出逢いに魔王陛下に感謝した。


「そろそろ行くとしよう」


戦乙女の手を引き城下を進む。俺たちの上を影が覆った。そろそろ頃合いかと天を見上げる。天を竜が羽ばたき、月を隠す。徐々にその影は大きさを増し、俺の前に降りる。


「閣下、準備が整いました。城にお戻りを」


なんともベストなタイミングだ。

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