召喚の儀
誕生日だったので記念にあげます。話の概要が見えるまでは更新するつもりです。なお、タイトルは「えいゆうのうた」と読みます。
英雄召還。その異端の儀式かそう呼ばれるようになったのは遙か昔のことだ。そもそもこの儀式に「英雄」なんて言葉は似合わない。実際には上位階級にあたる異世界の人間を強制的に召還する儀式である。この儀式が生まれたのは本当に偶然のことだった。精霊界の聖水を召還しようとしたとある魔術師が間違えた世界を設定してしまった結果奇跡的に異世界人を召還することに成功したのがことの始まりで、どうやら上位世界に住む異世界人はこの世界において強大な力を発揮すると判明したため、世界的危機に陥った時にこの儀式は使われてきたのである。しかし、忘れてはいけないのは召還される人間は決して英雄ではない。上位世界においては一般人と呼ばれる者が殆どで、強大な力というのも初めはただ身体能力が上昇することと魔法が覚えやすくなるだけ。しばらくの月日を経て世界に適応することでようやく個別のなにかしらの能力を扱えるようになるが、現実には能力を発現する前に戦死することが多い。
結論を言えばこの儀式は英雄召還ではなく、英雄になる能力の可能性を秘めた人間を呼び出す儀式である。成功率は召還だけなら100%に近いが、英雄になる者は何十回と歴史の中で行われてきてもその数は5人に満たない。どこまでも欠落品の儀式だった。
それでも、人間とは懲りることを知らない。いざ危機に瀕した時には根拠のない願望からその儀式を行うのである。
薄暗い地下室に一人の女がいた。``西の国の魔女''彼女は世間からそう呼ばれていた。しかし、その姿は魔女というには幼い存在だ。称するならばそれは少女だった。齢にしてその歳は15にも満たない少女だった。しかし、彼女の地下で行っていることはまさしく魔女の所業であった。幼き小さな右手には魔法の綴られた魔書、左手の先には地下室一体に張り巡らされた魔方陣。そして彼女は西の魔女として告げる。
「我が血は世界の果てへ
我が思いは世界の礎
我が言葉世界の願い
八百万の魔力は彼の者へのしるべ
我が身体は彼の者への鎖
我は世界。ここに求めるは我が英雄
ここに誓いを。
この身、アリス=エレネスティの名の元に命ずる
我が願いに答えよ。我が英雄よ。」
それは静かな詠唱だった。その声に感情の突起はなく儀式は機械的に行われた。もしこの場に彼女以外の魔道士が居ればまず「味気のない詠唱だと」魔道士特有の美学から突っ込まれることであっただろう。しかし、それでも願いは届けられた。その証拠を示す者が彼女の前に跪いていた。その者は彼女より一回り大きい身体に一般的な日本の学生服を着た男だった。男は少女に告げた。
「召喚により参上した。これからよろしく頼むよ、小さな魔道士さん。」
男の口角が自然に上がったのは生来のものか否か。その賛否を知る者はなくとも少なくともその者がこの世界において大いなる存在であることは誰も否定はできないだろう。そう不敵な笑みに思わせるものが確かにあった。
「ええ。こちらもよろしくお願いするわ私の英雄様。」
そしてまた彼女もその顔には笑みを浮かべる。その笑みに浮かぶものが確かな希望を抱いていたのだった。
短いです。1時間で書いたのですみません。プロットはあるのでなんとか次は3千字は書きたい(´・ω・`)