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4話 ペス

 今日は大学に来ている。久しぶりの大学だ。目を閉じると、カエデとの様々な思い出が思い起こされる。


「よう! 久しぶりだなヤマト」


 館内で立ち止まっていると、見覚えのある男に話しかけられた。たしか同じサークルの……朝倉だったはずだ。


「お前最近全然大学来てなかったけど、どしたん?」

「朝倉。お前って下の名前なんだっけ」

「え? 道弘だけど……それが何?」

「道弘ね……。あ、悪い。俺この後授業入ってるから、またな」

「お、おう……」


 俺は朝倉から離れ、トイレの個室に入った。

 名前を書くところは誰にも見られてはいけないと気付いたからだ。

 他にもぺスノートの所持者がいる以上、下手に動き回ると感づかれてしまう。


 名前を書き終えトイレから出ると、朝倉はカエデに変わっていた。


「やあ、僕はペスだよ」


 カエデは館内の学生に手当たり次第に声をかけている。俺はそれを見て、とても嬉しくなった。


「友達が増えるといいな、カエデ」


 俺はカエデを黙って見守ることにして、館内を出た。

 不思議といい気分だ。これが親心というやつなのだろうか。





 ある日、俺はカエデを助ける良い方法を見つけた。街角アンケートだ。


 アンケートと称して名前を聞きだし、それをペスノートに書く。

 手間も少ないし、簡単に名前を聞き出すことができる。とても良い方法だった。


「やあ、僕はペスだよ」


 ほら、彼もカエデになった。

 カエデは何度でも俺の前に現れてくれる。

 今では街のどこを見てもカエデがいる。

 やっぱりカエデは優しい。俺の自慢の彼女だ。








「お伝えします。日本の全人口のうち、ペス病患者が7割を超えたことが今日明らかになりました。このままでは残り1年と持たず日本人総ペス化は避けられません――」


「カエデ、カエデ、カエデ!」


 テレビから流れるニュースには目もくれず、俺はカエデの名を呼ぶ。

 俺はカエデを助け続けた。

 だが何かが足りない。決定的に何かが足りないのだ。


「カエデ、俺はどうすればいいんだ……っ!」

「やあ、僕はペスだよ」


 カエデがそう言うのと同時に、机の上に置いていたぺスノートが床に落ちた。

 衝撃でノートが広がり、真っ白なページが開かれる。


「……カエデ、まさか――俺もカエデになれって言ってるのか?」

「やあ、僕はペスだよ」


 本当に良いのか? そう思ってしまう俺を、カエデは真っ直ぐ見つめ返してくれた。

 カエデは俺に、もっとも近くでカエデを感じる権利を与えてくれたのだ。


「カエデ……。ありがとう。……俺もカエデになるよ」

「やあ、僕はペスだよ」


 俺は震える手で自分の名前をペスノートに書いた。

 これで、俺とカエデは本当に一つになれる。

 温かいものが俺の頬を濡らした。




 視界が暗転する。


















「やあ、僕はペスだよ」

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