4話 『合コン求ム』後編
柳川と白橋の記念すべき合コンの日がやってきた。
2人の合コンのはずだが、佐藤と飯塚は待ち合わせ場所の
駅前広場にやってきて、遠目から観察していた。
「佐藤、何でこんなストーカーみたいなマネしてるんだ?」
「白橋が見守ってくれって頼んできたんだよ」
「保護者じゃあるまいし・・・」
佐藤たちは待ち合わせの20分前から待機していた。
休日の昼間ということもあって駅前は人で賑わっている。
「あれ、柳川じゃないか?」
遠くから柳川らしき人物が歩いてきた。
しかし、いつも見る柳川とはどうも様子が違う。
普段ゴワゴワでチリチリな髪が、
前髪だけ必死にヘアアイロンで引き伸ばしたようで、
ピーン、と眉毛の下まで降りてきている。
服装も普段はお母さんが買ってきた中学生の服のような感じなのに
今日は中学生が自分で買った服のようだ。
全体的に見て、痛ダサい。
一方白橋はまだ来ない。
佐藤はきっと時間ギリギリになるか少し遅刻してくるだろうと
思っていたが、予感は的中し時間ギリギリにやってきた。
いつもの革ジャンにジーンズというコーディネートだ。
白橋が来るまでの間に、
男性側のもうひとりの参加者も来ていた。
綺羅なるハンドルネームと聞いていたが、
実際にやってきたのは髪も眉もボサボサで、
リュックを背負った半袖半ズボンの太めの男だった。
これで男性陣が3人揃った。
「なあ・・・大丈夫かこれ」
「見事に全員ひどいよな」
佐藤が慈悲もない評価を下した。
しかし、最も気がかりなのは女性陣が未だに来ていないことだった。
集合時間まであと2分というのに、一人も来ていない。
ひょっとしたら、3人であらかじめ待ち合わせてから
来るつもりなのだろうか。
佐藤がそう思っていると、
遠くの方から女子大生風の3人組が小走りで近づいてきた。
「おい、あれじゃないか?相手の3人組」
「男どもに対してやけに普通の人たちなんだな」
こんな人たちならツイッターでこんな3人組なんかじゃなく
普通に身の回りの男と絡めばいいのに、
なんて思っているとそのまま過ぎ去っていった。
男3人の目が一瞬輝いてそのまま光を失ったのが見えた気がした。
「おかしくないか?そろそろ集合時間だぞ。
遅れるにしても何の連絡もなさそうだし」
「そもそも、これって本当に合コンなのか?」
「どういうことだ?」
「飯塚、柳川のツイッターのアカウント知ってるか?」
「ああ・・・これだけど」
時雨くん @shigulekun
強気サドル/シュウキュー!/ラブステージ!
気軽に絡んでね(´・ω・`)
アイコンはきっと柳川本人をモデルにしているのだろうが、
あまりに美化、というかもはや
デフォルメといえるイラストだった。
柳川をこうするにはいくら金かければいいんだろう、
なんて思いながら、ツイート欄を見てみる。
すると、何度もやり取りしているアカウントがあった。
内容を追ってみると、どうやら今回の相手のようだ。
もかちゃそ @mokachasooo
コスやってます!
アイコンはおそらくコスプレイヤーらしき
女性の胸元で、
何やら際どい服装のため、
谷間がうっすら見えている。
よく釣れそうなアイコンだ。
ツイートや画像を遡ってみたが、
しかし、どうも1人の実在する人間、とは思えなかった。
佐藤の中に一つの疑惑が浮かび上がった。
ネカマである。
間もなく集合時間から10分が経つが、
女性陣は来る気配もない。
柳川たちは不安げに佇んでいるだけで、
特に何かアクションを起こすわけでもない。
駅前は様々な人が行き交っているのだが、
先程から佐藤たちと同じように
ずっと動かない、何かを伺っているような様子の男がいた。
普段の柳川と同じような服装で、
合コンの男性陣と変わらないような男だ。
怪しい。
佐藤のインスピレーションに何かが訴えかけた。
人ごみに紛れてその男の後ろに回り込み、
手に持っていたスマホを覗き込むと、
なにやらツイートをしている最中だった。
「こいつらネカマに引っかかってやんのw
うpしときまーす」
どうやら、この男が今回の合コンの相手側のようだ。
「あの、すいません。もかちゃそさーん」
後ろから声をかけると、
男はこちらにバッと振り返った。
「すいません、お楽しみのところ。
ネットで知り合った人間と気軽に会っちゃいけないって
教訓になったと思うんでそこにどうこう言うつもりはないんですけど
写真は消してもらえませんか?」
「な、なんのことか分かりませんね」
男はしらばっくれている。
イラついた佐藤が胸元を掴むと怯えた様子で
写真を消し始めた。
「別のところに隠れてるかもしれないので
ちょっと見せてもらってもいいですか」
「それはさすがにプライバシーの…」
「テメエだって人の写真晒そうとしてただろうがあ!?」
大きい声を出すだけで非常に怯えるのでちょろい。
画像を1枚1枚チェックしていったが、
やらしい画像の海といった感じで、
全てをチェックするのは面倒になったようで、
「フォローさせてもらうね?変なことしたら晒すから」
そう言って佐藤は男の写真を撮り、逃がした。
「少しやりすぎだったんじゃないか?」
後ろで見ていた飯塚が不安げに言う。
「多分ね。でも、ネットの世界に浅ましい人間として
あいつらが晒される方がかわいそうだろ?」
柳川には、全てを話した。
ひどいショックを受けた様子で、もう誰も信じられないと言っていた。
あまりにかわいそうだったので、
その後みんなで飲みに行った。
そういえば酔った勢いでもかちゃその顔を
柳川に送ってしまった気がする。
まあ、自己責任だ。
白橋は、やはりネットで出会うのはいけない。
面と面を合わせてこそ愛がどうたらこうたらと
大口を叩いていたが、
動揺した時に半笑いになるあいつの癖が露骨に出ていた。
こんな具合に、白橋の最初の合コンは、
上手くいくかという以前に合コンでさえなかった
という形で終わってしまった。
これも白橋らしい気もする。