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2話 『料理人志望』

コンビニでのバイトを終え、

適当に廃棄をカバンに詰めて帰ろうとしたところで

LINEの通知が来た。

送り主は白橋だ。


何が目的かは大体分かる。

いつもの『人生相談』だ。



{今から俺んち来てくれねえ?}


{今バイト終わりで疲れてるんだけど}


{美味しい料理ご馳走するからさ!頼む!}


嫌な予感がした。

白橋はたまに思い出したように料理を作るのだが、

大体余計なアレンジを加えて台無しにする。



アイツは世間一般的な味覚とややズレたところがあるようで、

白橋自身はうまいうまいと自作の生ゴミみたいな料理を食べるが、

何度か本気で吐きそうになるくらいのゲテモノもあった。



{疲れてる時にお前の料理食ったら本気で吐きそうだから、パス}


{佐藤んちの玄関に料理ぶち撒けるぞ}


{余計行く気無くした。おやすみ}


{いやゴメン1000円あげるから}


いきなりリアルな額を提示してきた。

俺は『人生相談』にかなり適当に答えているのに

白橋は大分熱心だ。



{じゃあ今から行くよ、15分くらいかかる}


{了解!}


スマホをポケットにしまい、

チャリで白橋の家に向かった。





白橋は実家がそれなりに裕福なので、

バイトもせずに家賃5万、2LDKのマンションに住んでいる。

大学の周りは住宅街であるので、

学生用のアパート以外にもいろいろな物件がある。

俺は家賃4万、5畳1Kのアパートに住んでいるので

白橋が羨ましい。



なぜか白橋は大学から3kmも離れたマンションに住んでいるので

雨が降るとめんどくさがって大学に来ない。

実際、大学の近くにある俺の家からはなかなか遠いし、

バイト先に至っては白橋の家と逆方向にあるので

白橋の家に行くのは面倒ではあるが、嫌ではない。


白橋は実家にあった様々なゲームハードを持ってきていたからだ。

家にロクな娯楽がない俺としては

白橋の家は天国みたいなものだった。

アイツは冷暖房も躊躇なく使うし、なにより広い。



『人生相談』が終わったらどのゲームをやろうか。

ウキウキしながらチャリを漕いでたらいつの間にか着いた。

白橋のマンションだ。

いつ見ても学生が1人で住んでいい物件には見えない。




「ようやく来たか、佐藤」


「本当に遠いんだよここ」


「まあまあ、入れよ」




「さあ本題だ」


「どうせ料理人になりたい、とかだろ」


「先に言うなよ!」



白橋は単純なので、映画とかドラマに影響されて

すぐに『~になりたい!』と言い出す。

この前白橋が料理人の洋画を見たと話していたし

LINEで料理を食わせるなんてことを言っていたので

容易に想像できた。

俺の読みがすごいとか、エスパーだとかじゃなく

白橋が単純なだけなのだ。




「どういう料理がやりたいんだよ」


「真の料理人はジャンルなんかに問われないんだよ」


「基礎さえ微妙なのに何言ってんだ、

目玉焼き作れるか?目玉焼き。

あれ、意外と単純じゃないんだぜ」


「目玉焼きくらいパパッと作ってやるよ。

白橋シェフの華麗なる手さばきを見てろ」




白橋はコンロに置いてあったフライパンを温め、

オリーブオイルをドバッと入れた。


「なんでオリーブオイルなんだよ、しかも多いし」


「健康にいいんだよ、オリーブは」

目玉焼きで健康もクソもないと思う。



そして卵を一つ取り出すと、

フライパンの縁でコンコンと叩いた。



「やっぱ、プロは片手割りだよな」


そう言うと、白橋は片手で卵を握り潰した。

潰れた卵の中身がボタボタとフライパンに落ちる。

フライパンに熱を入れすぎたのか、

オリーブオイルも盛大にはねる。


跳ねたオイルが手にかかった白橋が

見事なリアクションを見せる。

それを横目に見ながら俺はコンロの火を消した。



「出だしから大失敗してどうすんだよ」



「プロは魅せるんだよ」



「素人だし、それで失敗しちゃ元も子もないだろ。

もう1回普通に作れって」



「全く。丁寧に、つまんなく作ればいいんだろ?」


そう言うと卵を割って

フライパンに入れた。今度はきれいに割れたようだ。



しばらくすると、フライパンを振り始めた。

絶対意味ないそれ。



そのまま黙って見ていると、

「完成だ」


目玉焼きを皿に出し、自信満々といった表情で

俺に差し出してきた。



「味は?」


「ああ、忘れてた。ちょっと待ってろ」

塩をパラパラと振りかけて皿を渡してきた。




「上の方が焼けてないんだけど」


「下はカリカリ、上はトロトロに仕上げたんだよ。

旨そうだろ?」


「たこ焼きみたいに言うなよ。

目玉焼きは水入れて蓋閉めて蒸らすんだよ」


「生の方がウケるんだよ。

生キャラメルとか、生チョコとか、生セックスとか」


「しょーもな」





「まあ食ってみろって。百聞は一見に如かずだろ?」


「目玉焼きなんて大して変わんな…

まっず。お前砂糖かけたろ」


「佐藤だけにか」







「とにかく、目玉焼きも満足に作れないのに

料理人なんて無理だろ」



「頑張るからさあ」



「頑張るつっても…調理学校にでも行けとしか」



「独学の方がかっこいいだろ」



「どんな奇抜な料理作ってても

みんな基礎がしっかりあってこそだからな?

まず基礎を身に付けろとしか言い様がない」



「パティシエとかモテそうじゃん」


「やっぱそういう事か」


「こう、パパッと料理作ってさ。

料理食わせて女を食うみたいなさ」


「上手くないぞ」

白橋は人付き合いをロクにしないくせに

すぐに女を欲しがる。



「大体料理人の世界って体育会系な感じだぞ。

前ドキュメンタリーで見た」


「うげ、マジかよ。辞めた」


「どんだけ体育会系嫌いなんだよ。

なんか恨みでもあるのか?」


「あるよ。ありありだよ」





「あーあ。今日はフルーツたらこスパゲティを作ろうと思ってたのに。

創作意欲がきれいさっぱり消え失せた」


「なんだよその悪意の塊みたいな料理」


「分かってないなあ。生ハムメロンみたいな

甘じょっぱさを狙ってたんだよ」


「だとしても魚介とフルーツはやめろ」







「水で800円取れるなんてボロい商売だと思ったのに」


「実力があるからこそそんな値段で出せるんだからな。

お前が水を800円で出しても客は帰るよ」


「世の中って甘くないな」


「お前の思ってる100倍甘くないよ」





「じゃあ、今日の人生相談はここまで」


「スパブラやろうぜ」


「えー?佐藤強すぎなんだって。1人でやればいいじゃんよ」


「ハンデやるからさ」


「お、じゃあやってやるよ。負けたら神って呼べよ?」


「ハンデ貰う神って…」




スパブラとは、俺たちが小さい頃からある

人気の格闘ゲームで、昔から白橋とこれで遊んでいた。

俺の方が圧倒的に強いので

いつもハンデをつけたり、俺がふざけたりするが

それでも勝ってしまうので白橋は最近スパブラを嫌がる。


いつもしょうもない『人生相談』に付き合っているので

これくらい付き合えと言いたいが。






今日の『人生相談』も実にしょうもなかった。

人生であと何回こいつの『人生相談』を受けるのだろう。

このあと朝まで2人でスパブラをやって遊んだ。



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