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1話 『ミュージシャン志望』

俺には白橋という友人がいる。

高校からの付き合いで、今年で5年目だ。

いつもいつも『人生相談』と称した

しょうもない相談を持ちかけてくる。

今日もその『人生相談』で白橋に呼び出されたのだ。




「おーい、佐藤」

白橋が来た。今日は夏日で、半袖じゃない方がおかしいというくらいの

蒸し暑さなのに、タンクトップに革ジャン、ジーンズという

非常に暑苦しい服装だ。

本人曰くこれがロックでカッコいいコーディネートで、

春夏秋冬、革ジャンとジーンズを着続けている。



そんなロックでカッコいいコーディネートの白橋は

今ズボンのチャックが全開なのだが、黙っておこう。



「今日はなんだよ」

「俺さあ、ミュージシャンになりてえなあって」

「勉強しろ」

「連れないこと言うなよー」

「試験前の日にそんな相談持ちかける方がおかしいんだよ!」



何を隠そう今日は大学2年の前期試験前日だ。

普段どんな自堕落な生活を送っている大学生でも

この時期は必死に頭に詰め込むというのに、

こんなしょうもない相談を持ちかけるなんて実にのんきだ。



「いや、昨日ライブを見てビビっと来たんだよ。

俺、ミュージシャンにならないと一生後悔する」

「じゃあなれば」

「なんでそんなに冷たいんだ」

「勉強したいからだよ」



「こんな前日に勉強しても焼け石に水だって。

一人の人生のターニングポイントに立ち会ってるんだぜ?もっと熱くなれよ」

「むしろお前も勉強しなきゃいけないだろ。

再履抱えてるのによくそんな余裕あるな」

「何でだと思う?」



白橋はニンマリと笑うとカバンから数枚の紙を取り出した。

こいつ…まさか。



「そう、そのまさかだ。テスト対策センターで予想問題と過去問を買ってきたのさ」

「合計いくらだよ、それ……」

「ざっと2万円」




テスト対策センターとは俺らみたいな成績下位かつ

人間関係の狭い人間たちだけが利用する

非公式に過去問や予想問題を売りさばくサークルだ。

拠り所が無いのにつけ込んでいるのだろう、値段はかなり強気だ。

テスト対策センターは一応大体の学生が存在を知ってはいるが、

サークルに入っていたり、交友関係の広い人間は

どこからか過去問を手に入れるのでわざわざ利用する必要がないのだ。




「頼むよ、人生相談に乗ってくれたらこれコピーさせてあげるから」

こいつがバカで良かった。

その程度で2万円分をタダでくれるとは。

なぜなら俺も白橋と同じ講義を去年落とし、ふたり仲良く再履中なのだ。



「えっと、ミュージシャンになりたいんだっけ?」

「おっ、相談に乗ってくれるか。

そうそう、ミュージシャンになりたくなった。

昨日感動的なライブを見たからだろうな」



「どうせ動画サイトだろ」

「おいおい、最高峰のエンターテイメントってのは

生だろうが動画サイトだろうが変わらないんだぜ?」

無料で見てるくせにアーティストがそんなこと聞いたら怒るぞ。



「ていうか、ミュージシャンになりたいなら大学行く必要ないだろ」

「俺は一度決めたらやり通す男なんだよ。退学なんて絶対しねえ」

「ミュージシャンって結構退学してるイメージあるじゃん。

しかもこの前は漫画家になりたいとか言ってたのにやり通せてないし」



「俺は将来の模索をやり通してるんだよ」

「屁理屈だな、もう」



「ミュージシャンになるなら軽音のサークルでも入ればいいだろ。

とにかくやってみないことにはどうにもならないだろ」

「誰が入るかよあんなとこ。

どいつもこいつも今流行りのオカマみてえなヒョロヒョロした声で、

まるで自分が博学であるとアピールするように

適当にネットで拾ってきたような、

人生で初めて使ったであろう難解な言葉で継ぎ接ぎにした歌詞を歌うくせに

結局は女とヤることしか考えてない野獣ばっかりじゃないか」

「どんだけ偏見持ってるんだよ」



「どうするんだよ、楽器何もできないだろ」

「カラオケに行きまくるよ、俺の最高音知ってるか?hiBだぜ?」

したり顔で、耳障りかつ弱々しい裏声を出す。


「ボーカルしかできないミュージシャンなんてそう居ねえよ、

『バンドメンバー募集!当方ボーカル』とでもやるつもりか?」

「よく俺の考えが分かったな、エスパーか?」

「お前マジかよ」



「お前それこそカラオケでいつもオカマみたいな声で歌うだろ。

採点やっても大した点数出ないしさ」

「歌はカラオケで評価されるようなもんじゃねえんだよ。

あと最近の曲はどいつもこいつも高いんだよ。低い曲ならいい感じで歌える」

「キー変えろよ」

「シンガーとしてのプライドが許さないんだよ」

「シンガーって、アマでさえないのに」

白橋はいつも妙な自信を持っている。

それで何度も失敗をしているのに懲りないが、

まあ、愛らしいところでもある。



「ミュージシャンになってどうしたいんだよ」

「チヤホヤされたい」

「なんとも曖昧だな」


「最近は政治の勉強だってしてる」

「音楽と関係ないだろ」

「分かってないなー、ミュージシャンってのは昔から

にわか仕込みの知識で政治的主張をするもんなんだよ」

「偏見の塊だな、ホント」


「とりあえずやれる事はしようと思って、曲を作ってきた」

「頑張って作曲してきたのか」

「いや、詩だけ作ってきた」

「じゃあそれは曲じゃねえ」


「とにかく見てくれよ。これが俺の魂だ」




タイトル:真夜中のロックンロール

(だっせえ)


『真夜中のミッドナイト・ハイウェー お前を抱き寄せながら』



『真っ赤なポルシェが 闇夜を切り裂く』



『お前と唇で 熱いキスを交わす』



『今夜は月が綺麗だな…まるでお前のようだ

ハハッ、そんな照れるなよ 俺が付いてるだろ?』



『今夜このまま……ぶっ飛ばそうぜ』



『Wow!I love you forever Yeah!』


『Woo...wow wow wow yeah! Hoo!』



『愛してる……愛してる……』






「どうだった?」


「最初からおかしい。

『真夜中のミッドナイト・ハイウェー』って何だ、

全部日本語にしたら真夜中の真夜中高速じゃねえか。

それになに高速運転中にキスしちゃってんだよ、前見ろよ。

他にもセリフ入るし英語の語彙力全く無いし。

『Woo...wow wow wow yeah! Hoo!』って何だ。スキャットか」



「3時間かけて考えたのに…」

「テスト前に何やってんのマジで」


「俺、ミュージシャン向いてないのかなあ」

「向いてない。あと詩人も絶対向いてない。

とりあえず今はその過去問と予想問題を頭に叩き込んだほうがいいと思う」


「そうだな…今日の人生相談は終わりだ」


「おい、コピー取らせてくれよ」

「これ2万円したんだけど……」

「人生相談に乗ったらコピーしていいって言ったの誰だよ。

しょうがないな……今日奢るよ」


今日の人生相談もいつも通りしょうもない内容だった。

次はいつ相談しに来るのだろう。






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