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クライシス  作者: 椿 賢治
4/4

第4章 過去

クライが叩きつけられた場所のすぐ横にはマナミアが倒れており、お互いに顔を見合わせる形になった。

「もう少し静かにしてくださらない?ついに自分が死ぬ時がきたというのに。それにしても、あの爆発をまともにくらったのにまだ生きてるとは驚きですわ。そこらへんの雑魚だったら粉々になって細胞一つ残らないはずですのに」

マナミアは弱々しい声でありながら、嫌味と驚きを混ぜて言った。

しかし、クライはマナミアよりも驚く事実を知って驚いた。

「お前…盲目だったのか?」

それは、他の何事にも気を取られずにお互いの顔がはっきりと見える至近距離だからこそ分かり得たことだった。

「もう私も死ぬ運命なんだから、他人に自分の過去を打ち明けても良いかもしれませんわね」

マナミアがそうですよと言わんばかりに答えた。

「お前がいいなら教えてくれ。その過去とやらを聞けば、最後くらい本当の意味で俺も自分の心に素直になれるかも知れない」

この時マナミアはクライが自分と似たような

過去を持っていると感じ、それを垣間見た気がした。

「ならば、私の過去を話したらあなたの過去も教えてください。それなら話します」

マナミアが条件を提示して言った。

「皮肉なもんだな…さっきまで殺し合ってたのに、急にお互いの過去を話すような仲になるとは。だが、全然いいぞ。俺も自分の最後の最後で過去を打ち明けたくなった」

クライは焦点の合わない目を見つめて言った。

「では、話しましょうか…」

マナミアは自分の過去を打ち明け始めた。自分が盲目であることと戦いの日々に身を置いていることを。




私は10歳まで4歳離れた姉さんと母様と父様の4人家族の家庭で育ちました。母様は実に優しく、怪我をした時もすぐに手当てしてくれました。父様は傭兵の中では名のある傭兵でランクもSでした。そのため、私と姉さんにいざとなったら自分の身は自分で守れるように戦い方や魔法について教えてくれました。

そして、最初は父様に見守られながら魔物が住みついている洞窟や森に行って修行積み始めました。それから、一年の年月が経ち、私と姉さんはその森と洞窟で勝てない魔物がいなくなりました。

そこで、姉さんが父様にもっと強くなりたいから家から少し離れた雪山に行きたいと言いました。すると、父様は後一年修行を積んだら行ってもいいよと言いました。ただし、初めは父さんも一緒だからなと念を押して。姉さんは性格がら反対すると思いましたが、素直に父様の言葉を聞きました。

しかし、その3日後姉さんが私に言いました。私は後一年も待てないわ。早く強くなって父様と母様を驚かせたいもの。だから、私は明日の夜に家を出て雪山に行くわ。どう?あなたも来る?私は姉さんに父様の言いつけを守るように言いましたが、結局は姉さんの勢いに負けて雪山に行くことにしました。

次の夜、昼間に身仕度を済ませ、母様と父様が眠ったのを確認したら家の裏口から出て、雪山に足早と向かいました。家を出て間もない頃は、どこかわくわくしていて、姉さんとならどんな魔物が出てきても怖くないし負けないと思っていました。

雪山には家を出てから2日で着き、森や洞窟よりも強い魔物の気配がしました。それでも、私と姉さんは雪山に足を踏み入れて魔物を倒していきました。

しかし、雪山で修行を積み始めてから3日経った日、悲劇は起きました。

その日も難なく、魔物を倒していきそろそろ拠点に帰ろうとした時に雪山のボスが現れました。おそらく、仲間が倒され続けていることを知り仇を取りにきたのだと思います。私と姉さんはその日の戦いで体力と魔力を消耗していました。ボスの力の波動からしてさすがに、今戦ったら負けるということはすぐに分かりました。私と姉さんは雪山を降りることにしました。雪山を降りれば、追ってこないと考えたからです。私と姉さんはボスの攻撃をなんとか避け、時には防ぎながら雪山を降り始めました。しかし、しばらく逃げたところで最悪の事態に直面しました。前方に魔物の群れが現れたのです。多分、雪山のボスがあらかじめ指示していたのでしょう。前方は魔物の群れ、後ろは雪山のボス、横はそびえ立つ山と断崖絶壁の崖で八方塞がりとなったのです。こうなったら私は姉さんとともに戦うことを決心しました。私達はついに足を止めると、追っていたボスも足を止めました。私は姉さんに一緒に戦って家に帰ろうと言いました。でも、姉さんは何も答えてくれませんでした。なので私は姉さんの手を強く握って何度も姉さんと呼びました。この間にも、雪山のボスと魔物の群れがじわじわと近づいてきてました。すると、姉さんがごめんねと一言だけ言うと内ポケットから一枚のコインを取り出しました。そして、コインに何やら小声で呪文を唱え始めました。私はこの時、姉さんを呆然とただ見ているだけでした。そして、短い詠唱を終え姉さんがもう一度ごめんねと言うと、目の前が光でいっぱいになりました。

そして、気が付いたら自分の家がある村のすぐ近くの平原でした。私は何が起きたのかすぐに理解しました。姉さんが私に瞬間移動の魔法を使ったのです。私と姉さんは瞬間移動の魔法の存在は本で読んだのみで覚えてはいないはずてした。でも、それは私だけでした。どういうわけか、姉さんは瞬間移動の魔法が使えたのです。しかし、周りには姉さんの姿はありませんでした。ここで、姉さんがごめんねと言った理由が分かりました。おそらく、あの状況で瞬間移動の魔法で移動できるのが一人であったため、姉さんは自分を犠牲に私を移動させたのだと。私は泣くのを我慢しようとしましたが、結局はその場でしばらくの間泣き叫びました。泣いてもどうにもならない事を知っていましたが、色んな事が込み上がってしまったのです。

その後、私は父様に助けを求めて自分の家に走り出しました。村に近づくにつれて様子がいつもとおかしいと事に気付き胸騒ぎががしました。しかし、その嫌な予感は当たり、ここでも悲劇が待っていました。

村に駆けつけた私は目を疑うような光景に目を疑いました。村の家という家が燃やされ、畑や作物が踏み荒らされ、村人の叫び声が所々から聞こえてきたのです。村に足を踏み入れるに連れて血の臭いが濃くなってきました。周りを見渡すと、無残に殺された村人が何人も倒れていました。私は怯えるというよりも怒りで胸がいっぱいになりました。それでも、足を止めずに自分の家に急ぎました。

やっとの思いで家にたどり着きましたが、家は既に荒らされた後であり、母様と父様の姿はありませんでした。そこで、私は疲労で疲れていましたが、魔力を集中させて、母様と父様の気配を探し始めました。その時、周りの気配を探っていたにもかかわらず、何者かに後ろから頭を棒状のもので叩かれ私は気を失いました。目を覚ますと、そこは村の広場で村人全員が捕まっていました。私も手足を縛られて動くことができませんでした。それでも、自分より魔力の強い何者かに干渉されないように警戒しながら慎重に母様と父様の気配を探しました。そして、ようやく探り出し、すぐにそちらを見ると母様と父様だけ他の村人より目立つ台の上にいました。私は思わず、父様と大声で叫んでしまいました。なぜなら、所々に斬られた後やあざになっている部分があったからです。そして、一瞬にして周りの捕まっている村人のから冷えた目つきで注目を受けました。私はなぜそんな目でこちらを見ているのかすぐには分かりませんでした。そこに村を襲った主犯格のような男がやってきてすぐに説明してくれました。

君のお父さんが俺の仲間を何人か殺したんだ。俺が行かなかったらもっと被害が大きくなっていただろう。俺はすぐさま、そいつを殺さずに生け捕った。そして、まずはそいつの身内を捕まることにした。女はすぐに捕まえたが、子供二人が捕まらない。村の記録によると二人の子供もいるそうじゃないか?そこであんまり見つからないんで、出てくるまで10分おきに村人を一人ずつ殺しておびき出そうというわけだな。そして、ようやくお前がたった今見つかったというわけだ。だから、こっちに来い。そう言われ、私は母様と父様が拘束されている台に連れて行かれました。

母様と父様は口を塞がれており、何かを目で必死に訴えていました。私は、二人の間に無理やり座らされました。そして、さっきの男が今度は台の上から下にいる村人全員に言いました。みなさん!これで、無意味な殺しは291人目を迎えることなく終わりました。後は、みなさんを恐怖に陥れた悪魔どもを殺すだけです。次に男は振り返って、私に質問してきました。 さて、君の姉さんはどこにいるのかな?私は認めたくありませんが、姉さんはもう死んだことを告げました。しかし、男は形相を変えてみるみる怒りました。正直に答えたにもかかわらず、信じていないのか私の頬を思いっきり引張ただきました。男の腕力はすざましく、一瞬で気を失うほどの痛みが走ったので、すぐに只者ではないと思いました。そして、男は先に一振りで大木を切り落とせるような刃がついた棒状の武器をおもむろに取り出して言いました。

悪いね、お嬢ちゃん。君の嘘で我慢の限界に達したよ。

そう言うと、なんの躊躇も無く、男は私の母様に武器の刃の部分で斬りつけました。その直後、母様の首が胴体から転がり落ちました。

その刹那私は泣き叫びました。男は泣き叫びぶ私の前に再び前に立ち、下を向く私の髪を引っ張って無理やり上を向かせてもう一度同じ質問をしました。私はさっきの答えが本当だということを必死で訴えましたが、男はさらに怒り狂った挙句、父様の首もはねてしまいました。私は父様の首が地面に落ちるとほぼ同時に目に映るもの全てを拒否するかのごとく、突然目が見えなくなってしまいました。暗闇の中に包まれた私はすぐさま気を失ってしまいました。

それから、どれぐらい経ったのか分かりませんが、私は村の入り口付近に一人で倒れていました。ようやく、目覚めると闇が永遠に続いていましたが、周りの焼けずに済んだ木々や小さな動物達、空を舞う鳥と言った、あらゆるものからの気配が自分に流れ込んできました。一つ一つの気配を強く感じ取りすぎて、目に映らずとも頭の中で一瞬でイメージが広がり、一つ一つの色や大きさまで目に映るように分かりました。そして、自分の魔力が著しく向上していました。おそらく、1日で家族全てを失ったショックで失明するとともに何かが覚醒のしたのだと私は思っています。その時、自分の周りには人間の気配は既に無くなっていました。気を失う前は大勢の村人たちや私の母様と父様を殺した男とその仲間がいたはずなのに全く気配が無かったのです。それから私は村の広場の方に歩いて行きました。広場になら誰かいるかも知れないと思ったからです。ようやく、広場に着いた私はまたしても自分の目ならぬ気配を疑いました。千を超える村人たち全員とあの男の仲間達が死んでいたのです。死体は何かに串刺しにされたり、首からうえが綺麗に無くなっていたり、焼け死んだものと言い、様々でした。私は母様と父様のには会いに行こうとしませんでした。もつ一度二人の顔を見ると、あの光景を思い出してまた倒れるかも知れないと考えたからです。無残に転がっている何千の死体からかもし出されるのは非現実的な光景であり、人間がした事では無いと思いました。しかし、あの男の死体だけはどこを探しても気配もろともありませんでした。すると、村中を長らく探し回っていると突然あの男の声がどこからともなく聞こえてきました。

お嬢ちゃんには驚いたよ。急激に魔力が強まったと思ったら、いきなり縛ってあった手足の紐を引きちぎると俺に襲いかかってきたんだよ。しかも、かなり高魔力な魔法でな。俺はとっさにシールドを張ったがあっけなく破られてしまいお前の魔法によって吹き飛ばされたよ。さすがにその時は死を覚悟したよ。でも、お前は追撃してこなかった。どういうわけか、村人たちを襲い始めたんだ。手足が縛られている村人たちは次々と無抵抗なまま殺されていったよ。俺の仲間は俺が殺されたとでも思ったのか、逆上してお前に攻撃したが全ての攻撃が無効化されていたんだ。物理と魔法のどちらともな。そして、村人と同じようにほとんどが無抵抗のまま殺されていった。俺はお前の注意が俺の仲間と村人に向いている間に魔法の詠唱を始め、詠唱が終わるとすぐに魔力の解放して転移魔法を使って逃げた。そこからは目にしていないが、お前は無尽蔵とも思える魔力を使って村人と俺の仲間を殺し尽くしただろう。俺は後悔したよ。飛んだ化け物を生み出してしまったと。俺はまだ生きている。今のお前なら、俺の気配が村から無くなっているのが分かるだろう。だから、こうして魔法でお前の元に声を飛ばして生きている事を教えてやることにした。お前は復讐心に燃えているだろう。なにせ、お前の親を殺したんだからな。ちなみに、この魔法の魔力の元手を探知しようとしても無駄だ。今俺は強力な結界の中で魔法を発動しているからな。話は以上だ俺を歓迎して迎えるぜ。まぁ、他にもお前を歓迎したいやつはたくさんいるんだが。

私はその声を最後までしっかり聞いていたか自信がありませんでした。私が村人たちを殺したという事実から背を向けたくてしょうがなくありませんでした。それでも、納得をせざるを得ませんでした。自分の中に眠る膨大な魔力と自分一人だけが生き残っていることが事を裏付けていたからです。それから私はすぐに村を出て東の町に向かいました。

徒歩だと、10日以上かかる距離でしたが有り余る魔力を使う事によりものの数分で着きました。町の入り口には関所がありましたが、空を飛んでいたので、そのまま町の端っこに降りるようにして町に入りました。まず、私は宿屋で部屋を借り、食事も用意してもらいましたが、中々食べ物が喉を通らずほとんど残してしまいました。食事を終えるとベッドに吸い込まれるようにして身体を放り出しました。よほど疲れていたのか、すぐに眠ってしまいました。次の日の朝になると町の一番大きな図書館に向かいました。そこで、私は自分の身に起きた事についてや魔法に関すること、私の母様と父様を殺した男の手がかりを掴むための全ての書物を読み出しました。それは、朝から夜になるまで終わる事なく、夜になると宿屋に帰り、次の日の早朝には図書館に向かうという生活が半年以上続きました。ちなみに、食費や宿の料金は村に残っていた全ての金品などをかき集めたものを使っていました。私はその町に用がないとみなすとすぐに次の町に行き、同じような生活を続けました。

そして、悲劇の日から2年以上経ち、ようやく男のアジトを見つけることができました。私はすぐさま単身アジトに突入してアジトを壊滅させました。ですが、あの男の姿は無く幹部以上の地位を持つ者は誰一人といませんでした。いるのは、雑魚だけでした。それでも、私はアジトにいた者全てを殺しました。そして、アジトの最深部で驚愕の事実を知りました。まず、このアジトは何らかの強大な組織の一部に過ぎないということ。大地の荒廃により生み出される力の研究が進められていること。しかし、その研究内容の詳細は暗号であまりの読むことができませんでした。それでも、私は大地の荒廃を止め、何としてもあの男を殺すと決心をしました。私の母様と父様を殺しただけで無く、大地のエネルギーを使った研究が招く、最悪の事態を防ぐためにこの組織と戦うこと心に決めたのです。それからというものの、一ヶ月ぐらい探しても手がかりは掴めませんでした。アジトにもめぼしい情報は無かったのです。

途方にくれる中、とある町で私が一人でアジトを壊滅させた噂を聞いて一人の男が声をかけてきました。一言で言えば、傭兵にならないかという内容でした。始めは断りましたが、勢いに押されてしぶしぶ承諾すると、近くの酒場で話をすることになりました。でもそれは、かつて姉さんが無理やり何かを誘ってくれたような気がして、懐かしい感じがしました。この時、私はまだ14歳だったので酒場なんて始めてでした。その男は端の席に座ると手招きして私を誘ってきました。私は足早にその男のテーブルに向かうと、すぐに隣に座りました。それから、その男は私が傭兵になるように迫ってきました。ですが、男の必死の訴えについに心が折れ、傭兵になることにしました。それに、父様が傭兵だったので私がなってもおかしくは無いと考えたのです。

その男は私が傭兵になるといった瞬間から、急に態度が変わりました。そして、私に言いました。やっと、傭兵になる気になったか、手こずらせやがって。こんなに頭を下げたのは、いつぶりか忘れちまったよ。まったく。

お前はこの俺が見込んだんだ。だから、お前をにはどうしても傭兵の世界に入って欲しかったんだ。最近、人手不足なんだよ。その影響もあってか依頼の量も減りつつあるんだ。そこで、俺はお前の噂と実力を見込んで傭兵の世界に引きづりこんでやろうと思ったわけだ。それとなんだが、これは俺の性に合わないが、親父さんは残念だったな…そこでだ。俺がお前の実力を見込んで、お前の親父さんと同じランクのSランクにいきなり認定する。まぁ、力の波動からしてすでにSランクは見合わないと思うが、始めから最高ランクにするのは俺の権限があっても難しいんだ。そこは、許してくれ。しかし、安心しろ。お前ならすぐに最高ランクのマスターに上がれるさ。なにせ、俺が見込んだんだからな。これからは俺のことをロイと呼べ、分かったな?

その男からは信じがたいごとに自分の人を見る目は誰よりもすごいと言わんばかりに自負しており、言いたいことだけ言うと満足しそうな性格というのが私の第一印象でした。しかし、どういうわけか父様の死を心から遺憾に思っているのが伝わってきてすぐに悪い人では無いと思いました。

それからというものの、傭兵になった私はその男を通じて依頼をこなしていき最高クラスのマスターに認定されました。なおかつ、傭兵の仕事をこなす中で私は組織の手がかりを掴むことも忘れていませんでした。そして、4年の月日があっという間に過ぎました。私は何度か組織の手がかりを掴み、そのたびにアジトを壊滅させていますがこれと言った情報は全く手に入りませんでした。

けれども、昨晩に傭兵の仕事で赴いた町で新たな手がかりを手に入れたのです。早速私は、その手がかりを元に特定の場所を推定して、そこに向かいました。しかし、その場所ははたから見たら誰にも使われていないような古城ではありましたが、私の魔法でも破れないほどの強力な結界に守られていました。なので、外から攻撃ができないなら中から攻撃するしかないと考えたのです。私は結界が施されていない場所を探し回り、ようやく見つけたのです。そこから私は全速力で空中を飛んで進んで侵入しました。そして、古城の下に立ち並ぶ城下町のさらに下にある町まで進んだところであなたと出会いました。





マナミアが自分の過去を惜しみなく話し終わってもしばらく沈黙が続いた。

「なら、俺たち傭兵やめないとな…」

クライは悩んだ挙句、あっけらかん事を言った。

マナミアはその言葉が意味する事をあえて聞かずに待った。

「俺も傭兵なんだよね。ランクはお前と同じのマスターだ」

マナミアにとって、驚愕の事実を淡々とクライは言った。

傭兵の鉄則のルールの中に傭兵同士は殺し合ってはならないというのがある。それを知っていながらも今まで戦っていた敵は自分と同じランクの傭兵だったというわけだ。

「これじゃ、俺たち下のランクの奴らに示しがつかないな」

笑い事のようにクライがたびたび言った。

「下のランクの者は最高ランクを目指しているため、私たちの顔と特徴ぐらいは知っていることでしょう。しかし、最高ランクになれるのは、人間離れした才能を持つ者だけだとロイが言っていたわ。そして、その才能のゆえにすんなり最高ランクになってしまうから他のマスターがどんな奴らか知らないで傭兵の仕事をこなすとも聞いているわ」

マナミアがいつもの冷静な口調で言いのける。

「実際、そうなんだろうな。俺もお前もお互いが傭兵だと知らなかったわけだし」

つまり、俺たちは普通じゃない人生を歩んで普通じゃない力を持っているから、不運にも似た者同士が寄り添うように引き寄せられて、こうして戦うハメになったのだろう」

マナミアは何も言い返さなかった。いや、言い返すことができ無かったのかも知れない。

ここで、クライは先ほどまで行われていた死闘を思い出してとある質問をした。

「最後のあの時なんだが、何故魔法が使えた…魔力は尽きていたはずだぞ?」

「それなら簡単ですわ。最後の手段として、ダガーに大爆発を起こせるように高魔力をあらかじめ封印しておいたからですの」

クライは納得をせざるを得なかった…そういった手を用意していることに気付くべきだったと。

「それに、あなたは気付くべきだったことがあります。それは…」

そこで、路地で会話してる時とは逆にクライがマナミアを遮った。

「お前の戦闘は一度使った攻撃を同じ相手には使わないことだろ?」

クライは得意げに言った。

「やっぱり気づいていましたのね。それに気づいていたのなら、もう少し警戒しながら戦うべきでしたね」

マナミアがすらすらと言葉を並べて言った。

「いいんだよ。自分がやりたいように…戦うことができたら…」

クライが途切れ途切れ答える。

「今のであなたの戦士として度量が計りしれたような気がしますわ…」

「そりゃ、どうも…」

ふてぶてしく礼をするクライ。

しかし、不意に弱音を吐いてしまった。

「もうそろそろ、限界だな…」

クライの今の状態を一言で言うならば、ボロボロというべきだろう。身体中から血が溢れ出ており、特に右上半身は元の形が想像できないほど、ボロボロになっていた。

それでも、クライは提示された条件どうりに次に自分の過去を打ち明けすことにした。

「さて…くたばる前に俺の過去を打ち明けたいのだが、いいか?」

しかし、次は聞く側に回るはずの相手の方を見ても目を閉じたまま返事は無かった。

「なんだよ…やはり無理していたか…せめて名前くらい聞いておけばよかった」

心底から残念に思いながら、クライは独白した。

おそらく、彼女は死ぬ寸前でありながら、弱みを見せまいと無理して言葉を発していたのだろう。

「似ているな…」

クライは彼女が自分とどこか似ている部分があったと遺憾に思った。

そして、これまでの死闘が嘘のように静寂な時間のみが過ぎていき、ゆっくりと目を閉じていった…


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