約束された研鑽と悲哀
夢も見ずに眠っていた。それかあるいは夢を見たことを忘れていた。起きると部屋のカーテンが引かれている。今は昼なのか夜なのか分からない。昼に起きたから昼ということはないだろう。
それにしても酷く身体がだるい。なんだか身体の節々が痛む。喉がぴったり張り付いているような感覚がして、声が出ない。ああ、壁を叩けばいいのかと思うが、どうにもそれも億劫だ。酷く寒気がする。もう一度目を閉じる。
次に目覚めると灰色であった。でも正直、夢の中でも灰色にかまけていられない程には僕も疲れていた。勘弁してくれ、身体が辛い時に他のことなど考えられない。
それにしても灰色という色はなんとかならないだろうか。僕はマシな色について考えてみる。ピンク、オレンジ、黄色、浮かれた色ならば。いや、そんな色では目がくらんでしまう。
赤や白ではどうだったろう。赤は嫌だなと思う。白では灰色とさして変わるまい。僕は吟味する。青や黒でも同じだろう。途方に暮れる。そもそも何故ここには何もないのだ。
僕は寝転がってみる。その動作が取れると言うことは、少なくとも寝転がっていられる面があるということだ。それに気が付いて目を凝らすと、確かに薄らと地面と空間の色が違う気がする。
動かす気にならなくても動く頭に感謝する。多少なりとも前進した。僕はまだ一歩も進んでなどいないのだが。
次に目が覚めると、研人さんが心配そうな顔で僕のおでこから冷却シートを剥がしていた。服が濡れていて酷く気持ちが悪く、僕は身を起こす。今は何時だと聞くが、喉が張り付いて声が出ない。
研人さんはほっとした面持ちで僕の額に冷却シートを張ると、着替えたら呼べ、寝るんじゃないぞと言って出て行った。僕は起き上がって着替える。肌がべとついて気持ちが悪いが、今は風呂に入る体力もない。
眩暈が酷くて立ち上がってもいられないので、下を着替えたら上はベッドに腰掛けて着替える。そして研人さんを呼ぼうとしたのだが、どうにも声が出なかったので、ベッドサイドのポカリを飲む。
しかし飲んでもまだ声が出ない。仕方なく壁に縋りながらドアまで歩いて、台所に立つ研人さんを呼んだ。研人さんは察したらしく、重症だなと僕を支えてベッドまで運んでくれる。
「ほら、飯つくったから食えよ。デザートもあるからな。あと薬」
研人さんは緩い雑炊を土鍋からすくって僕の口元まで持ってくる。そうされたら僕は口を開けるしかなくて、研人さんに食べさせられてしまう。研人さんは匙に山盛り盛るので、僕はむせそうになる。三口程食べさせられたところで僕は匙を受け取って、自分でのろのろ口に運んだ。
研人さんは僕が食べているのを確認しながら、濡れたタオルを何枚か窓辺にかけたり、お湯の張られた洗面器を部屋の隅に置いたりしていた。
「デザートは白桃のゼリーだ。食えなかったら残せ」
研人さんは空になった土鍋を取り上げて、コップを置く。コップの中には手作りらしい白桃のゼリーが詰まっていた。ひんやりして口当たりが良かったが、前にも増して味が分からない。
それにしてもゼリーが固まるほど時間が経過しているとは。僕は嫌な予感がした。僕はテレビを指して研人さんに点けてくれるよう頼む。日付は三十日。やってしまった。丸一日眠っている。
救いがあったのは、今が朝の七時であったことぐらいだろうか。夜に目覚めた時のやってしまったという後悔の念は凄まじいものがある。研人さんは薬局でもらった説明を見ながら、ぱちぱちと薬を切り分けて盆に乗せる。
「今体温計を持ってくるから、それ飲んだら熱を計れ」
あまりにも辛いなら坐薬も出ているみたいだからな。研人さんはニヤニヤ笑いながらぞっとする言葉を残して部屋を出る。僕はこんな朝早くに様子を見に来てくれた研人さんに感謝をしながら薬を飲む。
それから体温を計ると、まだまだ熱は高かった。朝の段階で高いのなら、まだ上がるだろう。研人さんは体温計の数値を覗きこんで呟く。研人さんは僕の周りにクッションやテレビのリモコン、僕の携帯を置いていく。
次の日には僕の声も出るようになる。災難な大みそかだなと研人さんは笑いながら、僕をあれこれ世話してくれた。大分調子も戻ったつもりではあるのだが、まだまだ熱が下がらない。流石にそろそろ風呂に入りたいところだ。
僕は研人さんに報告して、軽くシャワーを浴びる。体力が落ちているのか、壁に寄りかかって髪を洗った。
冷えないうちに再びベッドに戻ると、僕は唐突にバイトのことを思い出す。僕は愕然とする。どうしよう、無断欠勤も甚だしい。
「いやあ、オーナーのことがあって、工房棟、一般人はとても近づけないぞ。休みってことになっている。お前にも電話が来ていたが起きなかったので、俺が出た。あと年末年始は休み。お前のバイトはとりあえず四日からだってさ」
研人さんはそう言って夕飯を運んでくる。僕用の病人食も年末バージョンということで豪華な味付けにしたという。土鍋の中に入っていたのは緩いリゾットである。そして俺はここで年を越すからなと宣言をすると、自分の分のあれこれをテーブルに並べた。
食べられそうなものがあったら言ってくれと研人さんはテレビを付けながら言う。僕はバイトの予定を忘れないうちに携帯のスケジュールに打ち込んだ。
「晶君は帰ってきていますか?」
僕の質問に研人さんは首を振る。だが音信不通と言うわけでもないのだと言う。琢海さん曰く、オーナーの家にはマスコミがいるため、晶君が行ったところで近づけまいと言う。
晶君の一家がスキャンダルを起こしたのは、まだまだ最近に位置づけられるらしい。琢海さんは、あいつが近くにいなくてよかったかもしれないとさえ言ったという。
僕は彼らの家系が本当に有名なものだということを今更ながら実感する。そもそも僕は未だにオーナーがそれ程高名な人物だと認識できない。
「作品だけは揃っていたから、個展は決行したらしいな」
年末の特番ラッシュで、もうオーナーのニュースはやらなくなったという。研人さんは番組表を見ながら、しかしどれを見るかと決めかねたらしい。三つのチャンネルをころころ変え始める。
六時を回って各局で年越しムードが高まって来る。研人さんは自分の部屋からクッションと座椅子までを持ちこんで、くつろぐ気満々であった。しかし研人さんは早々にテレビに飽きてしまう。
格闘のルールが分からず、最近の歌が分からない。お笑いもなんだか消化不良気味であった。
僕はそんな研人さんを見てあることを思い出す。以前琢海さんが口にした、謎かけのような、自分達は初めから研鑽の運命にあるという言葉と、晶君のヒントのようでヒントでない、僕だけ毛色が違うという言葉だ。
研人さんにそのことを説明してみると、研人さんは首を捻ってから、あの話か、と苦笑いをしてみせた。
「ハイネさん曰く、偉大な天才は他の偉大な天才から出来上がる。しかしそれは同化からではなく、摩擦から出来上がるのだ、と」
ハイネさんとは誰だろう。研人さんは分かるかとチャンネルを変えながら言う。夜になる前の紅白は、未成年を出している。分からないので首を振る。なぜ晶君はすぐに分かったのだろうか。僕以外が当事者という意味も分からない。
「でも、初めから結晶というのも大変だろう。結晶が結晶である所以はな、ある一定方向に強度が無いからだ。結晶が輝いているのはな、輝いていない部分を強度の無い面で切り落としているからなんだよ」
僕はそこでようやく何の話をしているか分かった。なるほどそれなら僕は確かに蚊帳の外である。
しかし研人さんは、待てよと言って自分の部屋から電子辞書を持って来て、何事かを打ち込んだ。それから、なんだ無関係ということはないじゃないか、と検索結果を読み上げてくれる。
僕の名前はあまり人から呼ばれることが無い。呼ぶのは由磨さんやオーナーぐらいだろうか。
「どちらの字も結びつきって意味だな。結晶の結合に繋がる。削ぎ落すことだけが、成長ではない。周囲の物質を取り込んで成長する、その作用」
研人さんは一人で満足して、良い名前だと微笑んでくれる。これは僕らの名前の話であったのだ。
「俺のこの字は母親が付けてくれた。研鑽に耐えて輝けるようにという意味らしい。厳格な家に嫁に入って苦労した母親らしい名前の付け方だ。それなのに当の本人がさっさと逝ってしまった」
研人さんは、話すという約束を果たしてやろう、と言って席を立つ。本当は酒でも飲みながらやりたいところだが、お前は病人だからな、と魔法瓶からほうじ茶を注いで僕に手渡してくれた。自分の湯飲みにもそれを注ぐ。
それから、本当の話をお前にしよう。そう言って話を始めた。
「ゼミの時にかかってきた電話、第一報ってやつか。父親からだったんだ。でも父親は単身赴任で身動きが取れなくてな。なんせ客商売だ。山奥の旅館で飯が出なかったら困るだろう」
俺に電話をした時は、実はもう母親は霊安室から葬儀屋の手配で、実家に運ばれた後だった。父親は客に飯を出し終わって、ようやくバスに乗ったところだったのだ。
研人さんは、参ったなと呟いてほうじ茶を口に運ぶ。僕は済まなかったと言ってやめてもらおうとしたが、研人さんは首を振る。話してみたかったのだと口にした。
「母は息子にも夫にも看取られずに逝ったのかと思うと、居たたまれなくなった。だけれども電話口で父は言うんだ。やるべきことをやってから来るのだと」
作業の手を止めてはならない、というのが父と、そして母の口癖であったのだ。そういう家系だから、優秀な人が出る。残念ながら俺は優秀ではなかったが。研人さんは口の端を引き上げて見せる。
僕は揺らめくほうじ茶に映るテレビを見る。ゆるキャラが機敏に動いている影が見える。研人さんは、大みそかに何て話をしているんだろうなあ、と笑って見せた。僕は、大みそかだからしてもいい話なのではないかと答えてみる。
「聞いているかとは思うが、俺が帰ったのはそれから何日か後だ。家には仏壇もないし何よりもう家に誰もいないから、祖母の家の仏壇にあれこれを置くことになったらしい」
祖母は前々から調子が良くなかったが、この件で一気に伏せってしまった。研人さんはそう言って、実家に帰った後の話をしてくれる。
紅白は演歌タイムに入ったらしく、研人さんは容赦なくチャンネルを変える。格闘番組であったが、無音よりはマシと判断したのか、テレビを消すことはない。
僕はその様子を見て、もうべろんべろんになるまで飲めばいいのにと思ってしまう。
「祖母の家に行った。父は相変わらず仕事で、俺は伏せっている祖母の絶えそうな呼吸を聞きながら、奥にある畳の部屋の仏像に手を合わせた。朱色の錦の箱があった」
でも実は俺は最初に手を合わせた時、それがあったことに気が付かなかった。研人さんはそう言って苦く笑う。本当にぱっとした朱色だったんだ。どうして気が付かなかったのだろう。
研人さんは丁度あれぐらいさ、と格闘家が履いているパンツを指した。何もパンツで例えることはなかろうと思ったが、研人さんは笑いを誘おうと思ったのか、にやっと笑ってさえ見せた。あんまり神妙に聞かれても辛いものがあるのかもしれない。
「気が付いたのは、こっちに戻る前に手を合わせた時、少し調子が良くなった祖母が、供えてある林檎を取り換えた時だった」
「林檎、ですか?」
「祖母のしなびた茶色い手でな、林檎が動いたんだ。それで対照的に、動かない赤が唐突に理解出来た。俺はもう一度手を合わせて、ひとりで逝くことについて想像した。残念ながら俺には想像力がないので、わからなかった」
研人さんは、祖母は土産にその林檎を持たせてくれたと教えてくれた。
「でもそんなの食べられる訳ないんだ。林檎が赤いのが悪いと思ってな、皮を剥いたんだ。でもそうすると今度は皮が捨てられなくてな。しょうがないから実を食べた後に皮だけ食べてやった」
時刻は午後十一時を回る。研人さんは大量に料理を準備していたので、なかなか皿の中身が減っていない。そして二度目の演歌タイムで席を立つと、魔法瓶にほうじ茶を継ぎ足す。
「で、大学に戻ったら、進んでいない自分の研究と、進んでいる周りの研究があるわけだ。まあ当たり前だな。周りのやつらは発表が近くて焦っていて、俺は普段通り研究器具の取り合いだ」
そうそう人の悲しみなんかに頓着などしてられまい。全く正しいね、俺の家族は。研人さんは手を叩いて笑う。
ゆっくりお休みだなんて、あれは嘘だね。真に受けなくて本当によかった。世間は停滞したものを容赦なく置いていく。研人さんはそう言い切る。
「停滞は罪だ。惰性でも動くべきだ。俺はそう思う」
研人さんは言い切りながらも、淋しそうな顔をする。それから悼む心など知らないのだと笑った。
「この前腹を括って父と実家に戻ったら、でかい蜂の巣が出来ていて大騒ぎしたんだ。本当に空き家になったんだと思いながら、業者を呼んだ」
スズメバチの巣で四万もかかったんだ。研人さんはそう言いながら、今年も白組かとチャンネルを回す。ゆく年くる年、そして鐘が鳴る。煩悩だらけだ。研人さんはそう笑って仙人の悲壮な瞳で僕に笑いかける。
それから静かに、明けましておめでとうと言った。僕も、早速お世話になっていますが今年もよろしくお願いします、とお礼を兼ねたあいさつをする。
「って、俺は駄目だったな。明けましておめでとうじゃないのか」
研人さんは、こういう時は代わりに何て言えばいいのかと慌て始めた。
一月一日の早朝、研人さんは実験に問題が出てしまったと家を出る。僕はというと熱が下がらないので、安静にすることと言い含められる。
僕は研人さんに本当にお世話になったと感謝しながら頭を下げる。研人さんが出て行くと、アパートは本当に静かになった。僕は新春のテレビを見ながら、寝ては醒めるを繰り返す。
起きだすことはできるようになったので、研人さんが作り置きしてくれたリゾットを温めたり、濡れタオルをかけるということはした。
夕方には練習の休み時間に琢海さんが、いろいろ買いこんで冷蔵庫に入れてくれた。今は追い込みの期間で看病出来ないのだと謝られてしまったが、僕はそれよりも風邪をうつしてなるものかと思い、お礼を言って部屋から追い出すことに必死になった。
冷蔵庫を覗くと、目に着いたのは二リットルのペットボトルが三本。いくらなんでも僕はそんなに飲まないと、少し笑ってしまう。冷凍庫にはカップアイスがあったので、ありがたく一つ食べた。
その他にも栄養ドリンクが入っている。琢海さんの私物からのおすそわけなのか、六本の内の三本は使われているようだ。
夜になると由磨さんが出張先から帰って来て、研人さん同様に僕の部屋でテレビを見ながらあれこれ世話を焼いてくれた。僕はというと由磨さんが作ってくれたおかゆをすすりながら、由磨さんと二人で正月の特番を見る。
由磨さんは雑誌片手に、やっとのんびり出来るわ、と言いながらも忙しなくチャンネルを変える。目当ての歌手を追っているようだ。
「最近、ずっと忙しそうでしたね。この前は東京で、その前は福岡でしたっけ」
「そう。ちょっと思うことがあってね。仕事を増やしたのよ」
ごめんなさいね、世話が出来なくて。由磨さんはコンビニのおせちを黒豆、数の子、栗きんとんと僕の分も取り分けてくれる。そして盆の上に乗せてくれた。
「まめに生きられますように、子沢山になりますように、ええとあと、何だっけ。あ、エビは食べられる? 消化に悪いのかしら」
由磨さんはおせちを覗いてぶつぶつ言う。僕は数の子を口にする。プチプチしていて美味しいが少ししょっぱい。そうしてだらだらと話をしていると特番が一つ終わり、合間のニュースでオーナーの意識回復が伝えられた。過労のようだ。晶君はこのニュースを知っているのだろうか。
「ラジオ使ってくれていたら分かると思う。ラジオニュースでもやるもの」
「鉱石ラジオでしたっけ。本当に鉱石を使っているんですか?」
由磨さんはそうだと頷きながら、テレビから目を離さない。アイドルというよりお笑い芸人のような七人組が、歌も歌わずにトーク番組を盛り上げる。
「針鉄鉱っていう石が入っていてね、ドイツの詩人のゲーテが発見した石なの」
宮沢賢治を知っている? あの人も岩石学者なの。由磨さんはそう言って目を細める。仕事で岩手の水族館で宮沢賢治にまつわる作品を作ったこともあるという。
「よたかの星、知っている? 生きるために他の存在を喰らうことに耐えられなかった鳥がね、空に昇って星になるの。私ね、あのお話が一番好き」
晶君やオーナーなんかは鼻で笑うのだろうか。それとも悲しい顔をするのか。僕は彼らにこの感想を聞いてみたいとふと思った。
ライバルを蹴散らして生きてきた彼らだ。いや、僕もあのまま生きていれば、彼らのように生きた可能性が十分ある。たった少しの違いなのだ。
僕は晶君がしていた、銀河鉄道の夜の話を思い出す。空白がある意味。僕は抜けがある限り、そもそも物語は完結しないと思う。由磨さんにも聞いてみると、由磨さんは僕達とは少し違うアプローチで話をしてくれた。
「物語は、頁がなくなった時に完結するのかしら。私は違うと思うわ」
本当は、琢海が言った言葉があるのよと言う。音楽は、音がなくなった時が終わりなのだろうか。その後に連なる拍手と、その反響、耳の奥に残っている何か。言うことだけはふるっているのよねと由磨さんは笑う。
「そういう作品をね、作れるんじゃないかって思ったのよ。私も。玻璃細工で」
玻璃という聞き慣れない言葉に、僕は首を傾げる。テレビでは何かとてつもなく面白いことが起こったらしく、ひっきりなしの笑いが起こっている。生放送というわけではないから、昨年の内に起こった笑いだ。
由磨さんは、玻璃とは硝子の別称だと教えてくれた。
「玻璃紙でグラシン。ほら、飴細工を包んでいる薄くてつるっとした紙。玻璃っていうとなんだか薄くて頼りなくて、綺麗なものの気がするわね」
これも言葉の不思議よ、と由磨さんは目を細めて笑う。硝子をしょうし、と読むと、なんだか細そうとも言う。何だかんだで由磨さんは硝子を愛しているのだ。
そんな話を聞いていると、眠たくなってくる。そんな僕を見て、由磨さんはお子様ねと笑う。
「研人がね、寝ている時に結希君がうなされているから、時々様子を見てやってくれって。何か子守唄でも歌おうか?」
僕は自分がうなされているなんてちっとも知らなかった。僕を茶化しにかかる由磨さんが珍しかったので、僕はマイフェイバリットシングスをリクエストしてみた。
断られるか分からないと言われるかだと思ったが、意外にも由磨さんは、音痴で良ければと承諾する。そして宣言通りに調子っぱずれな囁き声の歌が聞こえた。知っていたのかと思いながら、僕は目を閉じることにする。