ステージ8 ラストバトルは天使の前で
キラリたちが魔女を追いかけていくと、巨大な空間が広がっていました。
……本人は『天下無敵の考古学者』を自称していましたが、魔法を使うのは確かですし、これまでどおり魔女と呼ぶことにしておきましょう。
さて、その魔女が、鳥に乗って空を飛んでいました。
さっきまで乗っていたのとは別の鳥です。
いったい何匹の鳥を飼っているのでしょうか?
広間の壁には、なにやら大きな天使の絵が描かれています。
とても場違いなようにも思えますが……。
それよりも、キラリとヒカルの目を奪うものが、そこにはありました。
「あっ、キラリ! それに、ヒカルも!」
聞き覚えのある声が響きます。
「ホタル!」
そう、それはキラリの親友であるホタルでした。
ピラミッドの外壁で、魔女によって連れ去られたホタルのことを、キラリはすっかり失念していました。
……そんな扱いでどこが親友なんだか、といったツッコミは、しないでおいてあげてください。
ともあれ、無事にホタルとの再会を果たした、というわけではありません。
ホタルは大きな鳥かごのようなものの中に入れられ、囚われの身となっていたのです。
「ちょっと、ホタルを返してよ!」
「ふふっ、私に勝てたらね」
「えっ? さっき勝ったよ……?」
「あ……あれはノーカウントよ!」
随分と自分勝手なルールです。
「あの場所じゃ、狭すぎて本来の力も出せなかったし!」
「え~? レーザーを反射させるために、自分であそこを選んだんじゃないの~?」
「うるさいわね! 今度こそ、本気で行くわよ!」
魔女が身構えます。
「それはこっちのセリフよ!」
ヒカルも負ける気はありません。
「そんなやつ、ケチョンケチョンにしちゃえ!」
カゴの鳥と化しているホタルも、立場をわきまえずに声を飛ばします。
「絶対にホタルを助けてみせるわ!」
キラリにしては珍しく、燃えているようです。
「あっ、でも助けないほうが、お宝の分け前が増えていいのか……」
……いえ、やっぱりキラリはキラリだったみたいですね。
☆
さて、戦闘が開始されました。
敵は鳥に乗った魔女ひとり。対するこちらは、キラリとヒカルというふたりの魔法使いです。
「2対1だもん、負けるはずないよね!」
ラスボスとの最終決戦、といったクライマックスの様相を呈していましたが。
キラリは余裕しゃくしゃく表情を見せています。
なぜなら、魔女の攻撃は結局のところ、さっきと変わらない反射レーザー攻撃でしかなかったからです。
反射レーザーは、狭い通路と木造船によって不規則に反射するからこそ、脅威となっていました。
ですが、今いるこの部屋はとても広い空間となっており、壁も完全な平面で、デコボコしたような部分はまったく見受けられません。
レーザーの軌跡が予測できるため、若干トロいキラリですら、容易に回避することができました。
「これなら楽勝ね!」
「でも、ホタルにレーザーが当たっちゃうかもしれないわよ?」
「そうなったらなったで、不慮の事故ってことで諦めればいいのよ!」
「よくないわよ! ちゃんとあたしを助けなさい!」
戦いながらも、会話は途切れさせないキラリたちでした。
とはいえ、すぐにそんな暇はなくなります。
「ふふっ……。ここに誘い込んだ意味を、今こそ実感するのね!」
魔女が叫びます。
その途端、背景として存在していた巨大な天使の絵に異変が生じました。
目が、不気味に輝いたのです!
「この天使も私の味方なのよ! これで2対2! 数の上でもそっちの優位性は消えたことになるわ!」
天使の目が光った直後、いくつもの魔法弾が放たれます。
「え~~~っ!?」
キラリは驚きを隠せない様子です。
「目から放たれるのが、どうしてビームとかレーザーとかじゃないの~っ!?」
……そこが不満だっただけですか……。
相変わらず、キラリはキラリです。
「私と天使の協力攻撃に、あなたたちは勝てるかしら?」
「勝っちゃえ勝っちゃえ! めちゃくちゃにしちゃえ!」
カゴの中に捕まっている身だというのに、ホタルの威勢は留まることを知りません。
「まぁ、天使が攻撃してくるっていっても、絵だから動きはしないんだし、大した脅威にはならないわよね」
ヒカルは冷静に分析します。
「くっ……! バレてしまったわね……!」
流れはキラリたちのほうにあります。
キラリとヒカルは魔法を駆使し、魔女を追い詰めていきました。
「これでフィニッシュよ! トドメの花魔法~!」
「きゃ~~~~~っ!」
魔女の悲鳴が、広間に響き渡ります。
鳥の背中から吹き飛ばされた魔女が、地面へと向けて落下していきました。
「勝った!」
「……わけじゃないみたいよ?」
気づけば、魔女は空中に浮いていました。
「ふふっ! 私くらいの力があれば、空だって飛べるのよ!」
「な……なによ、それ!? ずっこい! だいたい、それなら最初から鳥に乗って飛ぶ必要なんてなかったじゃないの!」
「自力で飛ぶのは疲れるから。いざというとき以外、使わないのよ!」
魔女は空中を縦横無心に飛び回り、そして、
「今度こそ、本気で行くわよ!」
「さっきも同じこと言ってた~!」
「うるさい! 極太レーザー!」
魔女の総攻撃が始まりました。
魔女本人が放つ極太レーザーに加え、鳥も自由に宙を舞って攻撃してきます。
天使の絵から放たれる魔法弾も、相変わらず飛んできます。
さらには、なにやら鉄球らしき物体が跳ね回り、キラリたちに迫ります。
「ぎゃ~~~~~っ! カゴが潰される~~~~! キラリ、早くなんとかしてよ!」
「大丈夫よ。もしそうなっても、不慮の事故として……」
「それはもういいから! 余計なこと言ってないで、真面目に決着をつけなさいっての! これは命令よ!」
助けてもらう立場のはずなのに、ホタルはなぜか偉そうでした。
嵐のごとき猛攻に、逃げ惑うばかりのキラリとヒカルでしたが、そこで、
「よし……、キラリ! 最終手段よ!」
ヒカルが提案してきます。
「ふぇ? 最終手段?」
「合体しましょう!」
「ヒカルちゃん、なによ、突然~。えっちぃなぁ、もう~。っていうか、私のことを、そういう目で見てたの~?」
「アホか! そもそも女同士だっての! って、そういうことじゃなくて! 合体魔法を使うって言ってるのよ!」
「あっ、なるほど。そういうことね」
おバカなやり取りはともかくとして。
その作戦、思いっきり相手にも聞かれてしまっているのですが。
「ふふっ、合体魔法? そんなの、ピッタリと気が合っていなければ、お互いの力を打ち消し合うだけじゃない」
「大丈夫よ! 私とヒカルちゃんの相性はバツグンなんだから! 行くわよ、ヒカルちゃん!」
「言われるまでもないわ!」
ふたりはそれぞれ、最大級の威力まで増した攻撃魔法の詠唱を始めます。
「人間、完全にピッタリと一致するほど気が合うなんて、そんなことありえない。無駄よ無駄! 力を使い果たした末に、私の極太レーザーを食らうがいいわ!」
魔女は勝利を確信していました。
キラリとヒカルの魔法が打ち消し合って消滅してしまうと、高をくくっていたのです。
そんな魔女の目の前で、ふたりの魔法が解き放たれます。
それぞれの想いを乗せた激しい言葉を伴って。
『お宝は私だけのものよ! 他の誰にも渡さないわ~~~~っ!』
ピッタリと。
声も気持ちも揃いました。
魔法は打ち消し合うことなく、威力を数倍にも数十倍にも膨れ上がらせます。
「そんな、バカな~~~~~っ! っていうか、同じセリフだけど、それって絶対、気が合ってるって言わないわよね~~~~っ!?」
不満を叫びながら魔女は吹き飛び、勢いよく壁に叩きつけられたのち、地面の上に無様な格好で墜落します。
キラリとヒカルの、圧倒的勝利の瞬間でした。
「ちょっと、ヒカルちゃん! お宝を独り占めしようとしないでよ!」
「あんたこそ! 自分のことを棚に上げるんじゃない!」
仲よしなふたりの魔法使いは、取っ組み合いのじゃれ合いを展開させていたりするのですが。