ステージ7 ピラミッドの中は心地いい?
キラリはヒカルとともに、ピラミッドの内部へと侵入しました。
「うわぁ~! ここ、涼しくていいわね~!」
「確かに、そうね。ただちょっと、カビくさいのだけが難点ね」
「え? そう? 私は全然わからないけど」
「キラリは鈍感だからでしょ? もしくはキラリ自身が微妙なニオイを放ってるからとか」
「私はくさくないよ! ヒカルちゃんまで、失礼なこと言わないで!」
そんなわけで、ホウキを飛ばすふたり。
ピラミッドの中にある通路だというのに、かなりの広さがあります。
こんな空間が内部にあって、よく崩れたりしないものです。
それだけ古代王国の建築技術が優れていた、ということなのでしょう。
薄暗い印象ではあるものの、ピラミッドの中なのに周囲がしっかり見えるのも、古代王国時代の技術だと考えられます。
さて、ここに至るまでにも、キラリに対して様々な妨害がありました。
そしてこのピラミッドの奥が、今回の旅の目的地となります。
ならば当然、敵対勢力の攻勢も強まってきます。
「ヒカルちゃん、見て! なんだろ、あれ?」
「ん~……ぼや~っと光ってるわね……」
前方から、怪しげに輝く物体が近づいてきました。
それは、なにやら見覚えのある印象でした。
「って、絵~!?」
「そうね。あれはどこかの古代王国の遺物と言われる、巨大地上絵の図柄だわ!」
ヒカルは落ち着いて答えます。
その言葉どおり、それらは巨大地上絵のデザインを模した物体でした。
クモやらサルやらハチドリやら……。
いくつもの絵が、点滅を繰り返しながら動き回っています。
もちろん、動き回るだけではありません。
侵入者発見! とでも言わんばかりに、キラリたちに襲いかかってきます。
「絵が動いて邪魔してくるなんて~!」
「まぁ、この場所の雰囲気には合ってるわよね」
古代王国時代の遺物、という点では合っているかもしれませんが。
どうしてピラミッドなのに地上絵なのか。謎は深まるばかりです。
「でも相手が絵なら、遠慮する必要はないわよね! ヒカルちゃん、全力で行こう~!」
「これまでの相手にも、遠慮なんてしてなかったでしょうに。ま、いいけどね。こんなやつら蹴散らして、奥まで突き進むわよ!」
「お宝ちゃんが待ってるもんね♪」
「そういうこと!」
お宝に目がくらんだキラリたちの勢いは、留まることを知りません。
敵を豪快に吹き飛ばし、先へ先へと猛進していきます。
勢い余って壁や天井まで吹き飛ばしてしまったら、生き埋めになってしまう危険性もあるのですが。
そんなの、お構いなしです。
ふたりの頭の中には、金銀財宝のことしか頭にないのでしょう。
通路はまっすぐ伸びるだけでなく、複雑に入り組んだ構造となっていました。
侵入者を阻むための作りなのだと考えられますが。
今のキラリたちにとっては、子供向けの迷路のアトラクション、といった程度にしか感じられませんでした。
道中、巨大な石の塊が飛んできてキラリたちに襲いかかったりもしました。
それでも、ひょいひょいひょいっとホウキを操り、華麗にすり抜けていきます。
そこでヒカルがなにかに気づきました。
「キラリ! この先に、アイツがいるわ!」
「ふぇ? アイツ?」
一瞬、意味がわからなかったキラリですが、すぐに思い至りました。
「あっ、鳥に乗った魔女のこと?」
と、ふと違和感を覚えます。
「あれ? あの魔女と会ったときって、ヒカルちゃん、いなかったような……」
「ウチがピラミッドに近づいたら、問答無用で攻撃してきたのよ、アイツ! ま、蹴散らしてやったけど」
「そうなんだ。私たちのときと一緒だ~」
「性懲りもなくまた来るなんて! アイツもお宝を狙ってるに違いないわ!」
ヒカルは瞬時にスピードを上げ、魔女のいるほうへと向かって先行してしまいました。
「ああっ、ヒカルちゃん! 置いていかないで~!」
キラリも慌てて追いかけます。
お宝を独り占めされるのは悔しいから、というのが主な理由です。
「……でも、魔女とヒカルちゃんが共倒れになってくれれば、私がお宝を独り占めできるのか……」
ちょっと腹黒いことを考えたりもしつつ、キラリはヒカルのあとを追います。
ヒカルの姿は、すぐに見つけられました。
目の前には、魔女の姿もあります。
そのすぐ下には、なにやら巨大な物体が存在しているようです。
「え? これって、船?」
「巨大な木造船ね」
キラリの疑問に、ヒカルが答えます。
以前、海上で登場した無人の小型飛行戦艦とは違い、かなりの大きさがありました。
何本ものオールがついているタイプです。数十人くらいで漕ぐような船でしょうか。
「どうしてピラミッドの中に船があるの~?」
「そんなの、ウチが知るわけないわ! 知ってるとしたら……目の前にいるコイツくらいね!」
そう言って、ヒカルはキッと前方に睨みを利かせます。
対する魔女は、キラリたちが現れたことに驚いた様子もありません。
おそらく、最初から待ち構えていたのでしょう。
「この船、いいわよね。このフォルム。最高だわ!」
魔女が口を開きます。
さっきのヒカルの質問の答えにはなっていませんでしたが。
「この最高の場所で、あなたたちを眠らせてあげる!」
「ふえっ? 催眠術?」
回りくどい言い方は、キラリには通用しません。
「違うわよ! ここで倒すって言いたいの!」
怒鳴りつけ、魔女は飛び上がります。
鳥の背に乗って。
ピラミッドの通路内で、しかも巨大な木造船が置かれている、狭い場所だというのに。
「ここだと、狭くて戦いにくくない?」
「問答無用! 行くわよ!」
ヒカルの言葉にも耳を貸しません。
ともかく、魔女とのバトルが開始されました。
「食らいなさい、反射レーザー!」
魔女がレーザーを放ちます。今回は細くて鋭いレーザーです。
どうでもいいですが、レーザーが好きな魔女ですね。
放たれたレーザーは、通路の壁と木造船の船体に当たり、四方八方に飛び散ります。
「きゃっ! 危ない~!」
「地の利は向こうにあるってことね!」
ここでの戦闘は、圧倒的に不利。
そう悟っても、今さら遅いというものです。
「ふふふ、これだけ入り組んだ地形だと、どこに飛んでいくかわからないわよ~?」
魔女は楽しそうに笑みをこぼし、反射レーザーを放ちまくります。
周囲はまるでレーザーの網によって包み込まれたような状態でした。
「えいっ、花魔法乱舞!」
ヒカルが応戦しますが、無数の花魔法は出現した瞬間、乱れ飛ぶレーザーによって消し去られてしまいます。
「炎の魔法~!」
キラリもお得意の炎で攻撃してみたものの、レーザーに触れた途端に蒸発してしまいました。
「どうすればいいの~?」
「ふふっ、あなたたちでは、私には勝てないわ!」
勝ち誇ったような魔女の前で、成すすべもないキラリたちだったのですが……。
「あっ! 反射したレーザーが……」
「アイツに向かって……」
「え……っ!? ぎゃふん!」
魔女の放った反射レーザーが、自らを貫いてしまいました。
……いえ、どうにか魔女本人への直撃は免れたようですが。
乗っていた鳥のほうには、レーザーが当たってしまったみたいです。
羽に痛手を受けた鳥は、背中に乗った魔女もろとも木造船の甲板へと落下していきます。
こうして。
相手の自滅によって、魔女とのバトルに勝利したキラリたちでした。
☆
落下した魔女に、キラリたちは詰め寄ります。
魔女はどうやら無事だったようですね。
「あなたはいったい、何者なの?」
「フフフ……自己紹介がまだだったわね」
キラリの質問に、魔女はもったいつけた含み笑いをこぼし、そして――。
「私は天下無敵の考古学者! 墓荒らしから文化遺産を守るために、日夜戦っているのよ!」
こぶしを握りしめ、魔女は自信満々に言い放ちました。
背景には、ぱんぱかぱ~ん! といった文字さえ見えるような、そんな状況でした。
「な……なんなのよ、こいつ……」
「さぁ……?」
呆然とするキラリたちとの温度差は、凄まじいものがあります。
ただ、それもまた魔女の作戦だったのかもしれません。
だっ!
脱兎のごとく、魔女が通路のさらに奥のほうへと逃げ出したのです。
「あっ!」
「ま……待ちなさい!」
当然、キラリたちは追いかけます。
その先になにが待ち受けているのかなど、知るよしもなく――。