ステージ5 砂漠の先にはレーザービーム
今度は砂漠です。
暑いです。
これくらいの気温が、この近辺では正常なのです。
前回の氷山地帯だけが特別だったのです。
急激な気温の変化にさらされては、体調を崩してしまいかねません。
しかも前回、キラリは四散した雪だるまの破片を全身に浴び、豪快なくしゃみまで放っていたのですから、なおさらです。
ですが当のキラリは今、そんな心配をものともせず、元気いっぱいに砂漠の上空を飛んでいます。
……まぁ、なんとかは風邪をひかない、と言いますからね。
と、そんなキラリの背後から、なにやら近づいてくる影がありました。
「ちょっと、キラリ! 待ちなさいよ~!」
それはホタルでした。
一度ならず二度までも置いてけぼりを食ったホタルでしたが、今回はめげずに追いかけてきたようです。
「あたしも一緒に行くってば~」
「それって絶対にお宝目当てだよね!? まさかホタル、横取りする気!?」
「違うわよ~。っていうか、手伝ってあげる。せっかくここまで来たんだから、楽しませてもらわないと」
「楽しむって、なにを~?」
「キラリの勇姿を!」
「……なんか、おかしなルビが振ってあったような気がしなくもないけど……。ま、いっか」
そんなこんなで、キラリはホタルとともに目的地を目指すことにしました。
なお、ホタルはホウキではなく、魔法のじゅうたんに乗って空を飛びます。
ホウキと比べると優雅な印象を受けますよね。砂漠の風景的にも合ってますし。
はてさて、ホタルが仲間に加わったからといって、状況が変わるわけではありません。
キラリの目の前には、今日も今日とて、邪魔者たちが現れます。
砂漠の虫だったり、砂漠の鳥だったり、砂漠の龍だったり――。
「……って、龍ぅ~~~!? どうしてそんなのが襲いかかってくるのよ~!?」
テレポートで一瞬にして飛んできたからか、これまでの経緯を知らないホタルは驚きを隠せない様子でした。
一方のキラリはというと。
「龍か~。願い事とか、叶えてくれるのかな~?」
実にとぼけた発言をこぼしていました。
そして、
「なに言ってるのよ、キラリ! なんちゃらボールがないから、今は無理よ!」
ツッコミ役と思われたホタルも、実はボケでした。
ここはさらっと流しておくべきでしょう。
「わっ! 大きな砂漠の虫がいる~!」
「そうね。なんだか、某風の谷のオ○ムみたいだわ!」
「怒らせないようにしないと!」
「でも、目が赤くなってないから大丈夫そうね」
こちらも、ノーコメントで。
キラリたちは、さらに砂漠を飛び続けます。
砂漠にはなぜか、石で造られた巨大な柱が何本も立っていました。
どこかに遺跡でもあるのかもしれません。
「あっ、巨大な顔の石だ~!」
周囲には、そんな物体も点在しています。
巨岩石。明らかに人の手が加わった、過去の遺物。
これらは古代王国時代に作られたものなのだと考えられます。
キラリたちの住んでいるこの世界には、遥か昔に文明が栄えていた場所が何ヶ所かあると言われています。
それらの文明は古代王国と呼ばれていて、現在よりもずっと進んだ科学力を有していた、というのが通説となっています。
今いる砂漠の近辺だと、古代エジプト王国があった地域になるでしょうか。
そういった風景を楽しみながら、キラリたちは広大な砂漠を横切っていきます。
と、不意にホタルがこんなことを言い出します。
「なんか……空気が変わった……?」
「え~? 私にはよくわからないけど~」
「キラリは激しく鈍いからね」
「なるほど、それもそうね」
素直に納得してどうするのでしょうか?
それはともかく、ホタルの感覚は正しかったようです。
「きゃっ!」
「な……っ!? これは……砂!?」
そう。大量の砂がキラリとホタルに襲いかかってきたのです。
「砂嵐ってやつね! 面倒なものに巻き込まれたわ!」
「でも砂だし、大した被害なんてないわよ~?」
「そうでもないでしょ? 服は砂まみれになるし、目に入ったら痛いし!」
「私は平気だよ~?」
というキラリの言葉は、単なる強がりでしかありません。
思いっきり涙を流し、両目が完全に真っ赤になっているのを見れば、一目瞭然でした。
「意地を張ってる場合じゃないでしょ? ま、あたしは脱出するけど!」
「え? どうやって?」
「そんなの、簡単じゃない。こうやって、上空まで上がっていけば、すぐに抜けられるのよ!」
言うが早いか、ホタルはどんどん高度を上昇させていきます。
そのときでした。
前方から凄まじく強烈な閃光が迫ってきたのは。
「えっ!?」
迫ってきた閃光、それは極太のレーザービームでした。
成すすべもなく、直撃を受けてしまうホタル。
ほんの一瞬の出来事でした。
気づけば、ホタルの姿はどこにもありません。
レーザービームによって、撃ち落とされてしまったのでしょう。
「ホタル~~~? どこ~~~~? 大丈夫~~~~~!?」
悠長に友人を探している暇など、今のキラリにはありませんでした。
なぜなら、すぐ目の前に敵が現れたからです。
大きな鳥の背中に乗った、青い髪の女性。
同族ゆえなのか、キラリの脳にはビビビッと来ました。
「この人……魔法使いね!」
さっきのレーザーは、この女性の魔法だったのです。
それを証明するかのように、女性は挨拶代わりに極太レーザーを放ちます。
レーザーは砂漠の彼方へと一直線に飛んでいきました。
今のはキラリへの攻撃ではなく、自らの能力をアピールするのが目的だったのでしょう。
仲間であるホタルが撃ち落とされ、ひとりだけになってしまったキラリ。
目の前に立ちはだかるのは、強力なレーザーを放つ魔法使い。
敵対勢力だという意味を込めて、ここは『魔女』と呼ぶことにしておきましょうか。
どちらにしても、キラリが大ピンチに陥っているのは変わりありません。
にやり。
魔女が不敵な笑みを見せ、口を開こうとします。
……が。
「とりあえず、炎の魔法~! ついでに花魔法のオマケつき~!」
謎の敵キャラが登場した場合、なにかしらのセリフが用意されているものなのに。
空気の読めないキラリは、問答無用で先制攻撃を開始します。
「ちょ……っ!? 待っ……!」
そう言われて待つはずもありません。
慌ててレーザーで反撃を試みる魔女でしたが。
次の瞬間には、キラリの魔法攻撃によって見事に蹴散らされていました。
☆
「な……なかなかやるわね……! ここは一旦、退いてあげるわ……!」
捨てゼリフを残し、青い髪の女性は空気に溶け込むかのように消えてしまいました。
テレポートの魔法を使ったのでしょう。
ホタルは使えないと言っていましたが、あの女性はおそらく、魔法を妨害する結界よりも強い魔力を持っているのだと考えられます。
「な……なんだったの……?」
女性がテレポートして消えるのを、キラリは呆然と見送ることしかできませんでした。
そこへ、怒りの形相で飛び込んでくるひとりの女の子の姿がありました。
「あ~~~~~っ! あいつ、逃げちゃったのォ~~~~!?」
それは、レーザーで撃ち落とされたはずのホタルでした。
「あ! 生きてたんだ、ホタル!」
「あんたねぇ……」
キラリの反応に、ホタルは呆れ顔。
この様子だと、キラリが友人をあっさりと死人扱いにするのは、今に始まったことではなさそうですね。
ともかく、ふたりは視線を砂漠の先へと送ります。
「それより、これって……」
目の前に見えるのは、巨大な建造物でした。
「ピラミッド……よね……」
そう。その建物は、ピラミッド以外の何物でもありませんでした。
今回の旅の目的地と思われるのは、ちょうどこの辺り。
とすると……。
「これが、黄金の塔……?」
ホタルの疑問に、キラリが答えられるはずもありません。
ただ、疑問に答えられはしなくとも、どんな行動に出るかは決まっています。
「でも、行くっきゃないわ! お宝ちゃん、待っててねぇ~♪」
「はぁ……」
キラリの相変わらずの学習能力のなさに、ホタルはため息をこぼすばかりでした。