ステージ4 氷山には雪だるま
「うううう、寒い……」(ガタガタガタ)
キラリは氷山地帯に突入していました。
気温はマイナス数十℃。自然と歯が鳴ってしまいます。
そもそも、キラリたちの住んでいる島も、目指している黄金の塔のある辺りも、気候としては温帯から熱帯といった感じです。
ここまで寒い地域を通過することになるなんて、キラリは思ってもいませんでした。
まぁ、仮に思っていたとしても、キラリに防寒具を用意するようなまともな思考回路なんてなさそうですが。
「でも、私はまだマシよね。先に行ったヒカルちゃんは、半袖にミニスカートだったし」
道中でヒカルが氷漬けになっている、といった展開があっても不思議ではないのかもしれません。
それほど寒い場所なのです。
「……もしかして、私、道に迷った……?」
まっすぐ飛んできただけだったのに、方向を間違えるはずもないのですが。
急激な気候の変化で、能天気なキラリであっても自信がなくなっているようですね。
とはいえ、実際にはキラリに落ち度などありませんでした。珍しいことに。
この地域は単純に、常に寒いのです。
一説には古代王国の遺物が埋まっているから、とも言われていますが、真相はいまだに不明なのだとか。
こういったことは、学校の地理の授業で学んでいるのですが。
授業で勉強した内容を、キラリが覚えているはずもありません。
なにせ、ほぼすべての授業を寝て過ごしているのですから、キラリは。
なお、今は夏休み中だったりします。
それはともかく。
寒さが厳しくはあるものの、その程度、大した障害にはなりません。
キラリは冷たい風を切り、ホウキを飛ばし続けます。
ここでもやはり、キラリの邪魔をするやからが現れます。
人間ではないので、やから、と表現するのは正しくないようにも思われますが。
主な敵は、雪だるま。
他にも無数の氷の塊が襲いかかってきます。
大きな氷のバラも出てきましたが、それは魔法の衝撃であっさりと粉々にできました。
マイナス数十℃の世界では、バナナで釘だって打てますし。
「バラがバラバラ……。ぷぷぷっ!」
周囲の気温よりも寒いダジャレで笑えるキラリは、ある意味大物なのかもしれません。
さらには、氷山さえもがキラリの行く手を遮ります。
ただそこに存在しているだけではありません。
激しく揺れ動いて進行の邪魔をしてくるのです。
「はう~。なんか、冷たい敵ばっかりだよ~!」(ガタガタガタガタガタッタガタタ)
リズミカルに歯を鳴らし、ぼやき声をこぼします。
こぼれ落ちた言葉さえ凍ってしまいそうな寒さの中、キラリは炎の魔法を使って突き進んでいきました。
「あ……炎の魔法で暖を取ればいいかな……?」
思いついたら即実行。
そして、
「きゃ~~~~っ! 服に燃え移った~~~~っ!」
お約束の展開。
すぐに消し止め、真っ黒コゲになったり服だけ燃え尽きてすっぽんぽんになったりするのは、どうにかこうにか免れましたが。
キラリはどこまで行ってもキラリ、ということのようです。
☆
氷山地帯の奥地までやってきました。
そこにはまたしても、巨大な物体が待ち構えていました。
それは全長数メートルはあろうかという、大きな大きな雪だるまでした。
「うわ~……。こんなの、誰が作ったんだろ? 巨人さん?」
なんて疑問を浮かべている場合ではありません。
当然のように雪だるまが動き出したからです。
軽やかに飛び跳ね、氷の塊を放ち、キラリに迫ってきます。
「ひゃ~~~~っ! 冷たい~~~~っ!」
氷のカケラが背中に入ったらしく、キラリが悲鳴を上げています。
雪だるまが飛び跳ね回っていることに関しては、今さら驚きもないようですね。
「ちょこまかと鬱陶しいヤツめ! このオレの手で芸術作品になるがいい!」
「えっ!? 芸術作品!? そりゃあ、私は芸術的に美しいけど~」
雪だるまが喋った、ということにも、キラリはまったく動揺する気配がありません。
それどころか、なんだか嬉しそうに受け答えしています。
ですが、その笑顔は一瞬にして凍りつくこととなります。
「乗り気のようだな。ではお望みどおり……お前を氷人形にしてやろうか~!」
「な……なんか、悪魔っぽい雰囲気~! やっぱりヤダ~! っていうか、冷たいのはもうたくさんよ~!」
冷たくなかったらいいの? といったツッコミは置いておくとして。
キラリは抵抗を試みます。
笑顔が凍りつくだけでならまだしも、からだ全体が凍りつくのは、さすがのキラリでも避けたいと思ったのでしょう。
まぁ、当たり前のことですが。
「行くわよ、究極奥義!」
キラリが宣言します。
究極奥義。
いったいどんなド派手な魔法が炸裂するのでしょうか?
「受けてみなさい! え~い、炎の魔法!」
キラリの指先から、火の玉が飛んでいきます。
いつもどおりでした。
究極奥義でもなんでもありませんでした。
ノリだけで口から飛び出したハッタリでしかありませんでした。
「ふはははは! オレの巨体に、その程度の炎が効くわけ……」
ない。
と続けたかったのでしょう。
ですが、小さな火の玉を胴体に食らった雪だるまは、思わず目を丸くします。
……もともと真ん丸い目ではありますが。
「な……なにぃ!?」
火の玉は雪だるまの胴体を溶かし、小さな穴を開けました。
そこで止まることも消えることもなく、火の玉は雪だるまの胴体内部へと侵入していきました。
胴体の中央部に至ったその瞬間、火の玉が激しく炸裂しました。
「究極奥義、『あなたはもう死んでいる』よ!」
「そ……そんな、バカなぁ~~~!? へらちょんぺっ!」
わけのわからない言葉を叫び、雪だるまは四散しました。
「いえ~い、大勝利~!」
両手でブイサインを決めるキラリだったのですが。
このあと、飛び散った雪だるまの破片が全身にべっちょりと付着して、強烈な冷たさで身悶えることになるのでした。
☆
「ぶぇ~っくしょいっ!」
主人公の女の子らしからぬ豪快なくしゃみをぶっ放すキラリの前に、突如として見知った顔が現れました。
「あ、キラリ! 遅かったね!」
それは島に残してきたはずの友人、ホタルでした。
「な……なんでホタルがここにいるの~!?」
その疑問に、ホタルは平然と答えます。
「だってあたし、テレポートの魔法使えるもん!」
「それを先に言えって!」
キラリは反射的に、ホタルの頭を叩いていました。
しかも、グーで。
「痛った~い! なによ、もう~。ホタルってば、あたしがなにも言わないうちに、ひとりで飛び出していったくせにぃ~!」
目に涙を溜め、叩かれた頭を手でさすりながら、ホタルが文句をぶつけてきます。
「……それはともかく、この先は砂漠なのね」
キラリは思いっきりスルーしました。
「ちょっと! ごまかさないでよ!」
もちろん、ホタルは不満たらたらです。
そんなことはお構いなしに、ヒカルは話を進めます。
「ホタル! 黄金の塔までテレポートよ!」
「ダメよ! この先はテレポートじゃ入れないの!」
「え~? なによそれ~?」
「つまり、この先にはやっぱりなにかあるってことね!」
なにかある。
財宝がある。
こりゃ、行くっきゃないわね!
キラリの頭の中では、きっとそんな思考が駆け巡っていたことでしょう。
「んじゃ、急いでGO!」
「こ……こいつわ……。学習能力ゼロね……(汗)」
こうしてまたしても、キラリはお宝目指してまっしぐらに猛進するのでした。