ステージ3 夜の町には危険がいっぱい?
キラリはきらびやかな夜の町へと繰り出しました。
いえ、いつものようにホウキに乗って、上空を飛んでいるだけなのですが。
「あんたやっぱり、飛び方がなってないわよね!」
キラリと併走するように、ヒカルも一緒に飛んでいます。
「え~? そんなことないよ~。たまにバランスを崩すことはあるけど~」
「それが危ないんじゃないの。だいたい、こんな町の上空でバランスを崩したら大変よ?」
「コンクリートの地面に叩きつけられて死んじゃう?」
「じゃなくて。思いっきり足が開いて、スカートの中が丸見えになっちゃうってこと!」
「ん~、さすがに結構高い位置を飛んでるし、見えないんじゃないかな~? というか、ヒカルちゃんのほうこそ、見られ放題じゃないの~? ミニスカートだし~」
「ウチは飛び方が安定してるから大丈夫なのよ!」
他愛のない会話(?)を展開しつつ、ビルの立ち並ぶ風景の中、心地よい風を受けて飛んでいるキラリとヒカルだったのですが。
ここでまたしても、行く手を遮る邪魔者が現れます。
「きゃっ! カラスがつついてくる~!」
「ふふっ、キラリの髪はくせっ毛だから、カラスも気になっちゃうんじゃない? ……ってこら、カラス! ウチの髪までつつかないでよ!」
といった、普通の動物だけではなく、
「ちょっと、どうしてクマのぬいぐるみが襲いかかってくるの~!?」
「知らないわよ!」
「今どきのぬいぐるみって、空も飛べるんだ~」
「そういう問題!?」
とか、
「あっ、誰かいる~。葉っぱに乗った魔女さんだ。こんにちは~! って、いきなり攻撃してきた!?」
「なによあれ!? 表情も変えずに魔法を撃ってくるなんて!」
「わかった! 私の美しさを妬む誰かに操られてるんだわ!」
「あんた、なに言ってんの? 鏡、見たことないの?」
「そ……そんな真顔で言わなくても……」
とか。
様々な障害が怒涛のごとく押し寄せてきました。
それにしても、人の多い町に出てきたとはいえ、ここまでの猛攻撃を食らうなんて。
キラリは少ない脳みそを振りしぼって考えます。
「あっ! もしかして、ヒカルちゃんが追われてる身だとか?」
「は?」
「ヒカルちゃん、いったいなにをしたの!? お願い、素直に自首して!」
「こらこらこら! ウチを勝手に犯罪者にするな~!」
どんな状況であっても、会話が優先になります。
キラリとヒカルは、こう見えて結構仲よしなのです。
「ちぇ~っ!」
「ちょっと! どういうことよ、それは!?」
……仲よしなのです。
「ヒカルちゃんが捕まってくれれば、私は安心して暮らせるのにな~」
「あんたのほうこそ、いっぺん死んでくれないかしら!」
…………たぶん。
さて、口ゲンカが絶えないふたりですが、その目の前にさらなる敵が、デンッ! と登場します。
「さっきまでのよりも大きなクマのぬいぐるみだ~!」
「なぜこんなのが……」
「はう~ん! もふもふしたい~!」
敵、と表記しているというのに、実に緊張感のない子ですね、キラリは。
そんなキラリたちの目の前で、巨大なクマのぬいぐるみが動き出します。
巨体を活かした体当たり攻撃をメインに、ふたりの魔法使いを撃墜しようとしてきたのです。
「がっはっは! 死ぬのだ、ガキども!」
しかも、喋りました。
ラブリーな見た目から随分とかけ離れた、野太い男性の声で。
「いや~っ! 可愛くない~~~~っ!」
キラリの不満も、もっともです。
「そんなこと言ってないで、戦うわよ!」
ヒカルの指摘も、やはりもっともです。
ふたりは協力して巨大なクマに立ち向かいました。
「ちょっと、キラリ! うろちょろしてないで、集中して攻撃しなさいよ!」
「なによ~! ヒカルちゃんこそ、私の魔法の邪魔しないで~! わざと炎の塊をぶつけちゃうよ~?」
「あんた、わざとって言った!? 事故を装って、ウチを亡き者にしようとか考えてない!?」
「ななななな、なんのことかわからないわ!」
……訂正します。
ふたりはそれぞれ自分勝手な行動で巨大なクマに立ち向かいました。
こんな状態では、まともに戦うことすらできなさそうですが。
キラリとヒカルの放った魔法はどういうわけかしっかりと全弾命中、巨大なクマのぬいぐるみはあっさりと夜闇の奥へと消えていきました。
「ぐあああああ……っ! しかし、オレは何度でも復活して……って、おいっ!?」
最後のごたくを並べているあいだに、キラリたちはとっくに飛び去っていました。
ホウキに乗って空を飛んでいるのですから、当たり前のことではあるのですが。
ちなみに。
この巨大なクマのぬいぐるみが再登場する予定はありません。
☆
キラリとヒカルは、会話を続けながら飛んでいきます。
「ん~……」
「ヒカルちゃん、どうしたの?」
なにやら考え込んでいる様子のヒカルに、キラリが問いかけました。
すると……。
「キラリ、あんたトロいわよ!」
ヒカルは唐突に、失礼なことを言い始めました。
対するキラリの反応やいかに。
「うん、そうね~」
この子、即答で認めましたよ?
「あんたと一緒に飛んでたら、いつ黄金の塔にたどり着けるかわかったもんじゃないわ! ウチは先に行くからね!」
一方的に言い残し、ヒカルはホウキの速度を上げると、本当に先に行ってしまいました。
「ヒカルちゃんったら、せっかちなんだから~」
口を尖らせるキラリだったのですが。
「でも……ま、いっか。うるさい人がいなくなって、これで静かに冒険できるし」
ヒカルをうるさい人呼ばわり。
本人がいたら、またもや口ゲンカが勃発するところでしたね。
ただここで、キラリはふと気づきます。
「って、よくないわ! ヒカルちゃんが先に黄金の塔に着いちゃったら、財宝を独り占めにされちゃう!」
当初の目的を思い出したキラリは、全速力でヒカルを追いかけます。
自他ともに認めるほどトロいキラリに、追いつくことなどできるのでしょうか?
……結論を言えば、すぐに追いついてしまいました。
なぜ追いつくことができたのか。それは――。
「HELP ME……(汗)」
「え~っと、ヒカルちゃん? なにしてるの?」
見てのとおりだと思いますが。
ヒカルは巨大な木の化け物に捕まえられていました。
枝葉が全身に絡みつき、逆さ吊りの状態です。
「待っててね! すぐに助けてあげるから!」
「うううう……お願い~」
というわけで、巨大な木の化け物とのバトル開始です。
木の幹には顔らしき部分があります。
そこが弱点なのは明白でしょう。
キラリはお得意の炎の魔法で燃やし尽くす構えです。
……学習してませんね、この娘。
「げほっ、げほっ! こら、キラリ! ウチまで黒コゲにするつもり!?」
「あっ! ヒカルちゃん、ごめぇ~ん! でも、大丈夫だよ! 不慮の事故ってことで処理されるから!」
「それ、全然大丈夫じゃないわよね!?」
ともかく、木を燃やし尽くす方法は使えません。
「だったらコレよ!」
方針転換。キラリの花魔法が炸裂します。
パワーを顔の部分だけに集中させた花魔法によって、巨大な木の化け物は一瞬で涙目になりました。
キラリは勝ったのです! 木の化け物を、見事に退治したのです!
「完璧な勝利ね! 我ながら惚れ惚れしちゃうわ~!」
自画自賛するキラリだったのですが……。
「きゃあっ!」
逆さ吊りになっていたヒカルが、重力に引かれて落下していきます。
腕のように伸ばされた枝に吊るされていたのですから、木の化け物を退治したらその力が抜けて落ちてしまうのは当然でした。
べちゃっ!
「ぎゃふん!」
こうしてヒカルは、頭から地面に叩きつけられてしまいましたとさ。
☆
「ヒカルちゃん……あなたの死は無駄にはしないわ! 私が必ずカタキを討つからね……」
キラリは両手を合わせ、星になったヒカルに祈りを捧げます。
「人を勝手に殺すな~~~~っ!」
ヒカルが化けて出てきました。
いえ、ちゃんと足もあります。どうやら死んではいなかったようです。
「ヒカルちゃん! 生きてたのね! よかったぁ~!」
キラリも満面の笑みで友人の生還を喜びます。
「あ……あんたねぇ……。誰のせいで死にかけたと思ってんのよ!?」
ヒカルは怒りを爆発させていましたが。まぁ、当たり前の反応と言えるでしょう。
「もうアンタにはついていけないわ! ウチはひとりで先に行くからね!」
「……勝手についてきたくせにぃ~……」
ぽつりと不満を漏らすキラリ。
それを聞いたヒカルはずずいっとキラリに迫ります。
「なんか言った!?」
「い……いえ……」
さしものキラリも、言い返すことができません。
それだけ、ヒカルの顔が迫力満点だったのです。
「ふんっ!」
ヒカルはホウキにまたがり、星々が綺麗にまたたく夜空の彼方へと飛び去っていきました。
「あ~あ、行っちゃった……」
ひとり残されたキラリがつぶやきます。
「ヒカルちゃん、なにをあんなに怒ってたのかしら……。変なの~」
キラリの辞書に、反省とか学習とかいった言葉はありません。
「って、ヒカルちゃんが先に行っちゃったらダメなんだって! 財宝の独り占めなんて、絶対にさせないんだから~!」
いそいそとホウキに飛び乗り、キラリもまた満天の星空へと舞い上がるのでした。




