ステージ2 深い森、抜けるとそこは花畑
キラリは無事に海を越え、大陸へと渡りました。
「お宝目指して一直線よ~♪」
意気込んでホウキを駆るキラリですが。
せっかく魔法で飛んでいるのですから、文字どおり一直線に飛ばなくてもいいのに……。
というわけで、キラリは鬱蒼とした森の中へと突撃してしまったのでありました。
「財宝~♪ お宝~♪ 黄金~♪ 宝石~♪ ぜ~んぶ、私のものよ~!」
瞳に¥マークを浮かばせている状態のキラリには、森の木々など障害物としての認識すらされていないようです。
実際、ものすごいスピードで飛んでいるにもかかわらず、キラリは木の幹やら枝葉やらを器用に避けていきます。
ホウキを使った飛行能力の高さがうかがえる、とも言えますが。
それよりもむしろ、お宝に対する執念の強さの賜物、と表現したほうがよさそうです。
「ハァ……ハァ……。お宝ちゃん、今すぐ行くから待っててね~♪」
尋常でないほど目を血走らせている様子を見るに、執念を通り越して、怨念と呼ぶべきかもしれませんね。
木の枝からぶら下がってくるクモとか、巨大なクワガタとか、キツネのような生物とか、なぜか地面から飛び出してくるタケノコとか。
この森の中には、様々な生物や植物が存在しているのですが。
それらをものともせず、キラリは飛び続けます。
「なんか、邪魔なものが多いな~。私を財宝に近づけたくないのかしら……」
森に住む生き物たちの生活の場に土足で侵入しているような状態なのに、なんとも勝手な物言いをするキラリ。
自分勝手、自分中心。それらもキラリを端的に示す言葉として相応しいと言えるでしょう。
「でも、前進あるのみよ! なにせ、財宝ガッポガッポなんだから! 一生遊んで暮らすために、今は頑張らないと! ぐへへへへ!」
主人公の女の子らしからぬ笑い声を響かせつつ、キラリは速度を落とすことなく木々をすり抜けていきました。
やがてキラリの目の前に、立ちはだかる巨大な物体の影が現れます。
それは、なにやら鮮やかな色彩に包まれた、とっても大きな花でした。
「あっ! すご~い! こんなに大きなお花が咲いてるなんて~!」
速度を緩め、花に近づいていったキラリは、その行動をすぐ後悔することになります。
「うわっ! くさっ!」
巨大な花。その正体はラフレシアでした。
ラフレシアは非常にくさいニオイを放ち、ハエを呼び寄せて花粉を運ばせます。
花はみんないい香りを放っている、というわけではないのです。
……そんな花にふらふらと引き寄せられたキラリをハエ女と呼ぶのは、かわいそうなのでやめておきましょう。
「しかも、でかっ!」
このラフレシア、キラリの身長を優に超えるサイズがあります。
それだけではなく、なんと空を飛んでいます。
普通のラフレシアじゃないのは明らかです。
おそらくこれも、前回のヒマワリと同様、古代王国時代の遺物だと考えられます。
「なんなのよ、もう! 鼻が曲がっちゃう! 花だけに! …………今の、誰にも聞かれてなかったわよね?」
自分でも寒すぎたことに気づいたのでしょう、キラリは肩をすぼめて周囲をキョロキョロと見渡しています。
それはいいのですが。
ラフレシアは周囲に大量の花粉らしきものをまき散らしていました。
「あんなくさい花の花粉にまみれたら、私自身がくさくなっちゃう! それだけは避けないと!」
うんうん。
女の子としては、当然の反応ですね。
「ホタルにも、キラリはくさいからハエ女だ、なんて言われてたもんね。これ以上くさくなったら、本当にハエ女になっちゃうよ!」
どうやら、以前からハエ女とは呼ばれていたようです。
「……って、私はハエ女じゃない! っていうか、くさくもないし! ……たぶん!」
そこは自信を持って言い切ってほしいところですが。
「とりあえず……燃やしちゃえばいいわよね。相手は花だし」
お得意の炎の魔法を使い、キラリは見事、ラフレシアの化け物を退治することに成功したのでした。
…………。
ここは森の中です。
キラリは強力な炎の魔法で巨大な花を燃やしました。
すぐ近くには、燃えやすい木々が無数に乱立しています。
結果、どうなったのか。
それはみなさんのご想像にお任せすることにしましょう。
☆
「はぁ~~~、焦ったぁ~~~……」
森を抜けたキラリは、全身のところどころに焼け焦げたようなあとが残っていました。
一応補足しておくと、無責任にも放置して逃げ出した、というわけではありません。ちゃんと後始末はしてきました。
魔力を使い果たしていたのか、『ホウキに乗ったままの状態で木々に体当たりして、枝葉に燃え移っていた炎を消す』という方法を取ったのですが。
さて。
改めて視線を巡らせたキラリは、感嘆の声を漏らします。
「うわぁ~! お花畑だ~!」
綺麗な花畑の雰囲気に、キラリの気分も一瞬で高揚しました。
そして、さらに気分を盛り上げる光景が広がります。
数えきれないほどたくさんの綿毛がふわふわと空へと舞い上がり、キラリの視界のすべてを真っ白く染め尽くしたのです。
「ほぇ~。幻想的な風景~」
うっとりほんわり。
そんな気持ちに包まれ、夢見心地になるキラリだったのですが。
そこに、突如として凛とした声が響きます。
キラリではない、他の女性の声が。
「秘奥義、花魔法乱舞!」
それはキラリと同様、ホウキに乗った魔法使いの女の子でした。
女の子は言葉で示したとおり、花魔法を乱れ飛ばし始めます。
説明しましょう!
花魔法というのは、その名が示しているように、花の力を具現化した魔法です。
キラリも使うことができる花魔法は、美しい見た目とは裏腹に、なかなか強力な破壊力を秘めています。
そんな花魔法を、突然現れた女の子は、いくつも連続で飛ばしてきたのです。
「って、ちょっと~!? こんなの、避けられないよ~!」
そう言いながらも、キラリは間一髪で避け続けています。
それも当然です。
なにせ、もし花魔法の直撃を食らってしまったら、一巻の終わりなのですから。
続巻とはならず、一巻で完結してしまいます。打ち切りみたいな状況になります。
「こうなったら仕方がないわ! 反撃開始よ~!」
相手の攻撃は、花魔法を乱発してくること。
手数を多くしている反面、ひとつひとつの花魔法の効果範囲は小さくなり、威力としても弱まっていると考えられます。
だったら怖れず立ち向かい、通常の強力な花魔法を一発でも相手に食らわせてしまえば、それだけで大逆転勝利を得ることができるはずです。
「え~い、死ね~~~~っ!」
キラリは最大威力の花魔法を、容赦なく相手の魔法使い目がけて飛ばしました。
「ふふっ、こんなの簡単に避けられる……って、でかすぎ! 避けられない~~~っ!?」
ちゅっどぉ~~~~ん!
やけに軽い、ギャグマンガ染みた爆発音を響かせながら、魔法使いの女の子は吹き飛んでいくのでした。
合掌。
☆
「なかなかやるわね、キラリ」
花魔法で吹き飛んだはずの女の子が、何事もなかったかのように無傷で生還し、キラリに話しかけてきました。
こうしてキラリの名前を呼んでいることからわかるとおり、ふたりはもともと顔見知りでした。
だからこそ相手の実力を見越して、思いっきり魔法攻撃をぶつけ合うことができたのでしょう。
「なんだ、私のことを妬んでたのって、ヒカルちゃんだったのか~」
……いえ、少なくともキラリのほうは、相手が誰なのか、まったくもって気づいていなかったようですね。
「な……なによ、それ?」
一方、ヒカルと呼ばれた女の子は、わけがわからないといった様子でした。
それはそうでしょう。
美しさを妬む誰かによって狙われている、というのは、キラリの勝手な妄想でしかなかったのですから。
「え? あれ~? 違うの~~???」
キラリは納得できていなさそうでしたが。
そんなキラリを完全に無視して、ヒカルは身勝手に話を進めます。
「とにかく! ウチを差し置いて宝探しに行くなんて、そんなのズルいわよ! ウチもついていくからね!」
いったい、どこでその話を聞いたのでしょうか?
といったことを疑問に思ったりもしないのが、キラリという能天気な女の子で……。
「え~? べつにいいけど、邪魔しないでよ~?」
深く考えもせず、ヒカルの同行を受け入れました。
もっとも、ヒカルの性格を熟知しているため、拒否したところで無駄だとわかっているから、というのが主な理由だったりするのですが。
旅は道連れ。
友達と一緒のほうが、旅は格段に楽しくなります。
「ま、ヒカルちゃんでも、なにかの役には立つかもしれないわよね。敵が襲ってきたら、オトリにして私だけ逃げちゃえばいいし」
キラリがぼそっと小さく本音をこぼしたのは、聞かなかったことにしておきましょう。