ステージ1 ふんわりキラキラ、海の上
キラリたちが住んでいるのは、とある小さな島です。
黄金の塔があるのは、ずっと東のほう、という話でした。
つまり、海を越えて行かなければならないことになります。
「ふんふんふ~ん♪ 海風が気持ちいい~♪」
もっとも、ホウキに乗って空を飛べるキラリにとっては、そんなの障害にもなりません。
むしろ、久しぶりの冒険にワクワクドキドキしてさえいるようです。
キラリは今、海の上を鼻歌まじりに飛んでいます。
飛び跳ねる魚、流れる雲、ヤシの木の生えた島――。
周囲に広がる鮮やかな景色を楽しみながら、キラリは潮の香りに身を委ねているようです。
ただ、それもここまででした。
「なにか、雲行きが怪しくなってきてるような……?」
さっきまでは晴れ渡っていた空に、灰色の雲が広がり始めているのを、能天気なキラリでも不安に感じ始めます。
そしてその不安は、現実のものとなってしまうのです。
「きゃ~~~~っ! 雨が降ってきた~~~~!」
山の天気は変わりやすいと言いますが。
海の天気だって変わりやすいのです。
突然のスコールが、容赦なく襲いかかってきます。
キラリはずぶ濡れになってしまいました。
「え~ん、傘を持ってくるべきだったよぉ~!」
後悔先に立たず。今さら悔やんでも仕方がありません。
そもそも、傘を差してホウキに乗っている姿なんて、絵的にも美しくないでしょう。
雨は次第に強くなっていきます。
しかも、それだけに留まらず……。
「きゃっ! 光った!」
凄まじい閃光に続いて、体中を振動させるかのように響く轟音。
雷まで鳴り始めてしまったのです。
「いやぁ~ん! 雷、怖い~~~! こんな中で飛んでたら、雷が落ちちゃう~~~!」
どんなに有能な魔法使いであろうと、雷の直撃を受けてしまったらひとたまりもありません。
魔法使いだって普通の人間なのです。
精神構造が普通かどうかはさて置いて。
「そういえば、ホタルがこのあいだ言ってたわ! 雷はバカに落ちるって! だから、私は雷様に狙われやすいんだって!」
…………。
「はっ! 私はバカじゃないよ! なに言ってるのよ、ホタルってば!」
遅ればせながらツッコミを入れるキラリでした。
ホタルに言われてから、いったい何日くらい経ってからのツッコミになるのでしょうか?
それ以前に、雷はバカに落ちる、なんて話、どこから出てきたのやら……。
ともかく、雷は何度も繰り返し発生し、キラリの心をかき乱します。
財宝なんかより自分の命のほうが大切なのは当然です。
さしものキラリも、諦めて引き返す……かと思いきや。
「この程度で音を上げたら、ホタルに笑われちゃうわ! 絶対にお宝を見つけて帰るんだから!」
意外にも強情な部分があるようですね。
雷の鳴り響く中、颯爽とホウキを駆るキラリ。
その行く手を遮るかのように、なにやら大きな物体が立ち塞がります。
それは――。
「えっ? 船?」
そう、それは船でした。
正確に言えば戦艦です。それも、空を飛んでいます。飛行戦艦です。
そしてその戦艦は、キラリへと向かって砲撃を開始します。
「ええええ~~~~~っ!? なにこれ!? どうして私を撃ち落そうとしてくるの~~~~!?」
戦艦といっても、サイズ的にはそれほど大きいわけではありません。
キラリの身長と比べれば充分に大きいのですが、中に人が乗れるような船ではありません。
古代王国時代に発明されたという、自動で動く無人の小型防衛艦なのでしょう。
「防衛艦ってのがあるって、授業で習った気がするな。でも……こんな海の上で、なにを守っているっていうの!?」
周囲は見渡す限りの大海原。
至極もっともな意見と言えるでしょう。
ともあれ、攻撃されているのは紛れもない事実です。
焦りながらも砲撃をかわし、キラリは炎の魔法を操って反撃を試みます。
「相手のほうから攻撃してきたんだし、これは正当防衛になるわよね!」
キラリなりに主張します。
正当防衛もなにも、相手は人間ではないのですから、心配する必要なんてなさそうなものですが。
器物損壊の罪に問われる、といった可能性は残るかもしれませんね。
随分ととぼけた雰囲気を漂わせるキラリではありますが。
こう見えて、意外と優秀な魔法使いだったりします。
そんなわけで……。
「はぁ……はぁ……。海を通過してただけなのに攻撃してくる向こうが悪いのよ。思わず木っ端微塵に破壊しちゃったけど」
数分後、空飛ぶ防衛艦は海の藻屑と消えていました。
さて。
雷もいつの間にか鳴り止み、無事に海上を通過できたかと思った矢先のことでした。
キラリの目の前に、またしても珍妙な物体が現れたのは。
「な……なにこれ? ヒマワリ……?」
それは巨大なヒマワリの花でした。
中央部分には、なにやら顔らしきものまであります。
これも古代王国の遺物なのでしょうか?
「よくわからないけど……。私の行く手を遮るものは、遠慮なく吹き飛ばしてあげるわ! なんたって、お宝ちゃんが待ってるんだから!」
財宝に目がくらみ、暴走ミサイルと化したキラリを止められるものなど、この世の中にはありません。
奇妙なヒマワリの化け物は、キラリの放つ炎の魔法によってあっさりと撃沈するのでした。
☆
「ふぅ~……。海を越えるだけで、すっごく疲れちゃった……」
ようやく穏やかになった空を背景に、魔法使いのキラリがポニーテールの髪をなびかせながら飛んでいます。
空は晴れましたが、キラリの表情は晴れていません。
「なんか……私、狙われてるような……? 気のせいかしら……」
ポツリとつぶやきをこぼします。
疑問に感じていたのは、防衛艦とヒマワリについてです。
単純に海の中になにか守るべきものが眠っていて、その近くを飛んでいたせいで狙われた。そんな可能性はあるのかもしれません。
ただ、もしそうだとしても、上空を偶然通過しただけのキラリを攻撃してくる必要はないように思われます。
防衛艦もヒマワリも、明らかにキラリをターゲットにしていました。
総合的に見て、キラリを狙う何者かによって操られていた、と考えるのが妥当でしょうか。
だとすると、いったい誰が自分を狙っているのか。
キラリは頭を悩ませ続けます。
「もし誰かが狙ってるんだとすれば……それは私の美しさを妬む人の仕業ね、きっと!」
……どうしてそんな結論にたどり着いてしまうのでしょう?
ですが、これがキラリという女の子なのです。
うっとりとした表情に変わったキラリは、さらにひと言、ため息まじりにつぶやきます。
「……美しいって……罪ね……」
…………。
ここは、なにも言わないでおいてあげましょう。