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ハチミツ


甘く、瑞々しい蜜の香り。私の目には、したたり落ちるハチミツが煌めいて見えた。


どこへ行くの?

誰かが問いかける声がする。どこへ?どこかなんてわからない。私はただ、まっすぐに歩いているだけだから。

ねぇ、どこまで行くの?

どこから聞こえてくるのかわからない。私はただ、前へと歩み進むだけだ。


しばらく歩くと目の前に食卓が広がった。いつか見た朝の風景、皿の上にはトースト、そして小瓶に入ったハチミツ。小さなころ、毎朝目にしていたものだった。

目を覚ました私に、お母さんはおはようと言い、こんがり焼けたトーストにたっぷりとハチミツを塗ってくれた。こぼれおちそうなくらい塗られたハチミツはとても甘く、濃厚な味が口の中いっぱいに広がっていく、幸せな瞬間だった。


その幸せも、ずっと続くと思っていた。


いつしか、ハチミツはパンに塗られなくなっていた。


小瓶の底は日に日に傷が増え、同じくらい、私の体にも痕が残るようになった。


どうして?

私の言葉は届かない。

ねぇ、どうして?

彼女には私の言葉が届いていない。


大好きなハチミツの小瓶をもぎ取って、やさしかった、大好きだった、一番近くにいたヒトの頭へ振り下ろした。


割れた瓶から流れるハチミツは、琥珀色に輝きながら、赤く赤く染まっていった。


どこまで行っても、あの朝の出来事は、私を許してはくれなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これだけ短い文字数で、ストーリーがまとまっていて良いと思います。 ホラー風味だけど、切なさを感じさせる作品でした。
2013/03/23 23:11 退会済み
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