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サムライ・パニック!  作者: MIHA&SYO
7/11

~放課後はバトルの時間?~

「はぁ~」

 響花はため息をついた。別に遅刻をしたのがショックだったわけでも、また樹大が暴れたわけでもない。では、なぜそんなにも落ち込んでいるのか。その理由は十分ほど前の終礼にあった。

 五時間目以降、原三は勉強に勤しみ、とくに事件は起きなかった。そして、終礼の時間になり先生がやってきた。先生は生徒たちに今朝の窓を割った罰で原三が一週間教室掃除.をやることになったと告げた。原三もその話は昼休みに聞いたようで静かにしている。

 掃除を面倒臭さがっていた生徒たちが喜び、奇声をあげた。このまま原三の一人掃除が了承されようとし ていた。しかし、ある生徒が突然立ち上がり、「待て。あいつを一人にしたらどうなるかわからないぞ」と叫んだ。

 無論、その生徒は原三とちょっとした因縁があり、こういう時によくしゃべるのが川島竜だった。彼の意見に他の生徒たちも賛同し、監視役をたてることになった。まず、言い出しっぺの川島竜が推薦されたが、どうも彼では不安だという意見が相次ぎ却下された。次に推薦されたのはミラだった。彼女はおじさんが彼と知り合いなのでなんとかなるんじゃないかと期待されたが、彼女には用があり、早急に帰らなければならないため断念された。

 そんなこんなで最後の砦として推薦されたのが響花だった。彼女が原三の刀を預かっていることや、昼を一緒に食べていたということがなぜか皆に知れていたので、彼女は強く推された。響花自身、もう自分しかいないと思って快く了承した。だが、彼女は教室を二人で掃除するということの大変さをまったく考えていなかった。いざ、掃除するとなって初めて教室のなかなかの広いことに気づき、響花はうなだれた。

 テキトーにやれば、すぐ終わるのだが、響花は基本的に真面目な性分なので、ちゃんとせざるを得なかった。

 そういった経緯で響花と原三は二人寂しく掃除に熱中しているのであった。ちなみに、掃除好きの望月美化委員は他のところの掃除を任されているらしく救援には来てくれなかった。

「はぁ~」

 響花はもう一度深くため息をついた。前を見ると原三がせっせと床を掃いている。左を見ると役四十の机。右を見るとお世辞にも綺麗とは言えない黒板。掃除はここまで人を苦しめるものなのか……。

 きっとこの労働は夜、私を深い眠りに落とし込めるだろう。ああ、なんて悲しき運命なのかしら……。

 一通り落ち込んだので響花は掃除を頑張ることにした。ゴミをだいたい教室に掃き終えたところで、響花が呼びかける。

「さて、机を運ぼう」

 だが、原三は返事をしなかった。見ると彼は教室の外をじっと睨みつけていた。

「……どうしたの?」

 不思議に思い、響花が聞く。

 返答はない。少しして、原三は「白井殿、刀を」と手を差し出した。その口調には緊張が感じられた。響花は素直に従い、刀を竹刀袋から出して彼に渡した。

 原三は無言で受け取り、それを腰に据えて、片方の手で柄を握る。

 彼の目はまだ外を見ている。響花も興味にかられ割れた窓の方を見た。

 教室の窓から見えたのは校庭であった。その端っこにはテニスコートだの体育感だのがあり、そのせいであまり広くはない。その奥には森が生い茂っている。そもそも陣東高校は山のふもとにあり、校庭側は森に囲まれていた。原三はその木々をずっと見つめていた。それは見たところ何の変哲もない木々だった。響花が頭の上にはてなマークを浮かべていると、原三が急に「見えた」呟き、窓の方に走り出した。

 響花が驚いて「ちょっ、そっちは窓しかないよ」と声をかける。

 しかし、その声が彼に届いたころには、彼はすでに窓へ跳躍していた。原三は窓のふちに右足だけ踏み込み、空中に身を投げ出した。

 それから、体勢を整え、刀に手を添えた。原三はコンマ数秒で集中力を高め、技を放つ準備を完了。そして彼は刀を握り、振り抜き叫ぶ。

「百花流 遠距離花砲 『合花<ごうか>』」

 それはいわゆる居合斬りで、放たれた斬撃はまっすぐ例の木々に向かっていく。

 響花はその技が今日ミラに放っていた技とはまた違うものだということだけがわかった。いや、名前が違うので誰にでもこの技が『百花乱舞』とは違うということは分かった。『百花乱舞』での花びらはあたり一面に広がっていた。しかし、『合花』での花びらは斬撃に纏わり付くように発生している。やがて花びらは消えていく。これはどちらにも共通していた。だが、その効果はまったく違った。『百花乱舞』ではただ衝撃を敵に与えるだけだった。この『合花』という技では花びらが消えた途端斬撃の速度が加速し、その威力があがる。だから、この技は遠距離にいる敵に対して有効な技なのであった。

 加速した『合花』の斬撃は一本の木を吹っ飛ばした。

 いや、吹っ飛ばしたのは木だけではなかった。今度は響花にも見えた。あの木には人が登っていた。でも、飛ばされたあと姿が見えない。いくら遠いからと言ってもまったく見えないのはおかしい。いったいあの人はどうなったのか。

「あっ、そういえば」

 我に返った響花が窓に駆け寄り外を見る。幸い、受け身でもしたようで原三はピンピンしていた。原三は未だ木を見ている。

「樹大君、今の人影って……?」

 響花の呼びかけに原三は構えをとき窓を見上げて「敵だ」と言った。

「手応えはあったがどうなったかわからない。なので、見てくる。掃除については白井殿に任せる」と言葉を残し、その場を去ろうとした。すると、彼は響花の心配そうな目にぶち当たった。

 原三は「案ずるな、白井殿。皆には迷惑はかけない」と声をかけたあと、そそくさと木の方へと走っていった。

「あっ、ちょっと」

 原三はあっという間に見えなくなってしまった。響花は振り返りまだ掃除の済んでいない教室を見た。

それからもう一度窓の外に向き返り、「大丈夫かな、樹大君……」と呟いた。

 少しして響花は教室の方に向いた。彼女の顔にかげがかかる。辛い現実を目にしたのだ。

「……これを全部一人で運ぶのか」

 響花はさきほどにもまして大きく深いため息をついたのであった。


 原三は内心焦っていた。響花にはああ言ったが、実際にまったく手応えを感じてはいなかった。やつは『合花』をギリギリのところで後方に避けていたのだ。だが、そう考えると一つ引っ掛かることがあった。『合花』は、秒速二千m/秒で進み、一般的な銃の速さを超えているはずだ。なのに、やつはそれを避けた。普通に考えるとこの距離から放った『合花』をかわすことは不可能なのだ。

 ということは、敵は技を放ってくることを予期していたということになる。やつはおそらくわざと殺気をだし、技を放つように仕向けた。いったいなぜだ?技の威力の確認か、ただの挑発か。それとも、吾をここにおびき出すだめか……。

 原三はさっきやつがいた場所にたどり着いた。刀を構えながら油断なく辺りを見回す。しかし、まわりには木々ぐらいしかない。感覚を研ぎ澄ますが、殺気はおろか気配すら感じない。逃げたのか……。原三がそう思ったとき、どこからか声がしてきた。

「よく来てくれたな、百花流!」

 原三は声の主を探したが見つからない。

「おぬし、何者だ?」

「オレは緑森流<りょくしんりゅう>のものだ」

やつが答える。やはり居場所はわからない。

「緑森流……。知らないな」

原三は素直に発言する。

「……知らないのか。まぁ、いい。オレはお前に頼みがある」

「なんだ、それは」

 そう言いつつ、周りの警戒は怠らない。

「単刀直入に言おう。お前の持っている刀『神具月』を渡してほしい」

「断る」

 原三は毅然として返す。相手はそういうとわかっていたようで、「そうか。そうだろうな。ならば近づくで、奪ってやる」と叫んだあと、話さなくなった。

 場の流れが変わる。原三は身構えた。と同時に

「緑森流、奥義『森刀斬<しんとうざん>』!」

 声が森にこだまし、何かが原三に迫ってきた。原三はとっさにそれを避け、刀を向けた。しかし、迫ってきた何かは敵の刀ではなく木の枝だった。

 枝はくねくねと動きながらさらに斬りつけてくる。原三はそれを超人的な反射神経でどうにかかわしている。だが攻撃は止むことなく襲ってきた。今度は原三の後に生えていた草が刃となって彼の背中に向かう。原三は体勢を崩しながらもそれを刀で凌ぐ。その後の敵の攻撃はじつに変幻自在だった。右から、左から、背後からとあらゆる所から、枝が襲ってくる。原三はこれを凌ぐことしか出来なかった。跳躍して距離をとろうにもそのすきがない。反撃しようと思っても、まず敵の居場所がわからない。殺気を感じとろうともしてみるのだが、この攻撃の中ではそれもままならない。とにかくこの術をなんとかしなければ勝ち目はない。

 だから原三は攻撃を凌ぎつつ、相手の癖を少しずつ理解していっていた。

(あと少し……。あと少し、堪え凌げば機会はくる)

 原三は心の中で呟いた時、背中が巨大な木にぶつかった。

「ま、まずい」

 原三は凌ぐのに必死で地形まで把握仕切れていなかったのだ。十時の方向にあった木の枝が刃のように尖り、彼を突き刺さんとする。

 原三はそれを刀で防いだが、うまく踏ん張ることができず体勢を崩してしまった。原三は次の攻撃を凌ぐことは不可能だと悟った。

「ならば……」

 一か八か、今までの癖から次にどの技が刃となり襲ってくるか読み、それに向かって思いっきり刀を振るしかない。しかし、もし読みを間違えていたら大きな隙ができ、枝の餌食となる。

「だとしたら、吾はその運命を貫くだけだ」

 原三は思考を集中させ、次に枝が刃となる場所を見定めた。

(やつの癖、木の位置、吾の体勢。それを考慮した次の攻撃場所は……)

 原三は体を無理矢理反転させその勢いで――

「そこだ!」

 後方に斬撃を放った。

 斬撃は今まさに斬りかかろうとしていた枝をくだき、そのまままっすぐに飛んでいった。さらに、斬撃はその先の何かも跳ね飛ばしていた。それは柄の部分に緑の柄が入った刀だった。飛ばされた刀が地面に落ちた。

 原三はまた攻撃がこないかと刀を構える。しかし、もう攻撃は来なかった。つまり、あの刀がこの術を操っていたということか。

「ハァ……。ハァ……。やったか」

 原三は息をきらしながら言った。

「あの短時間で癖を見極め、反撃に出るとはなかなかやるな」

「!?」

 原三は声のする方に向いた。そこにはちゃんとした人の姿があった。

「それに、たまたまとはいえオレの刀を跳ね飛ばすとはな」

「たまたまではない。お主の攻撃はある一点から我を遠ざけようとしていた」

「ほう、それで攻撃を避けるふりをしながらあの場所をねらっていたとはな」

相手の声には少しの喜びが感じ取れた。

「だが、緑森流をこの程度と思ってもらっては困るな」

「なに……」

 原三は刀を構えた。その時、彼の背中に痛みが走る。

 とっさに首を少し傾けると目の端に宙に浮く剣が見えた。

「なっ……」

「まぁ、そういうことだ」

 敵がにんまりと笑う。

 原三は膝から崩れ落ちた。



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