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サムライ・パニック!  作者: MIHA&SYO
6/11

~気の話~

「で、何が知りたい?」

 そう言いながらミラはベンチに腰掛けた。

 響花もその隣に腰掛ける。

「えっとあの花ビラは何なのか知りたいな」

「そうか。…………なら、まず気の錬成について話さなければならないな」

「気の錬成?」

 響花が小首を傾げる。

「ああ。この地球上には地力と地力と呼ばれる力が存在する。地力は地球の営み、すなわち風が吹いたり、緑が茂ったり、雨が降ったりするときに発生する」

「フムフム」

 響花がしきりに頷く。ミラは話を続ける。

「地力には種類がある。風、土、水、火、雷、など様々だ。これらの地力はそれぞれの媒体から発生し、誰にでも感じることができる。土の香りで和やかになったり森林浴でいい気分になったりするのがそのいい例だ」

「なるほど」

 響花は今にもメモをとりそうなくらい熱心に聞いている。

 その態度に気をよくしたのかミラの論調にも熱が入る。

「その地力を確かに感じ取り、自分のものに変えたのが気だ。気にも種類があって、主に火、水、雷、土、風に大別できる。気は地力の種類や組み合わせ、量などによって左右されるため、これ以外にも多く存在する。その中にはゲンの使う、『花の気』もある」

「花の気……。それがあの花びらの正体?」

「ああ。あれは錬成した花の気を花の形にして外に放出しているんだ」

「へー」

響花が感嘆する。すっかり調子の上がったミラが「で、その気の練り方というのが……」と話を再開しようとしたとき、「あっ、ミラ、ちょっと待って」と響花が止めた。

「なんだ。何かわかりないことがあったか」

「ううん、ミラの説明はとてもわかりやすいわ」

「じゃ、どうした」

「えっと。樹大君は何してるの?」

 二人は原三の方を見た。原三はドアの隣でまるでボディガードのように仁王立ちをしていた。腰には当たり前のように刀をさしている。

 原三は視線を感じ、二人に目を向けた。

「なんだ、敵か!?」

「だから、違うって……」

 響花がツッこむ。

「違うのか。では、何用だ?」

「どうして、樹大君が教えてくれないのかなと思って」

「ああ、吾はそういった類が苦手なのだ」

 原三が堂々として答える。

「ああ……そうなの……」

「話、続けていいか?」

 ミラがイライラして言った。

「あっ、ゴメン。続けて」

 響花はミラの方に向いた。原三も直立不動の姿勢に戻る。

「で、気の練り方の話だったな」

「気を練るにはまず、想像力がいる。気にはそれぞれ適したイメージがあり、それにそくして集中し、想像すれば気というものがつくれるようになる。だが、必要なのは想像力だけでなく、志もいる。志というのは流派によって違い、これもまた気の属性を決定する要因になる。火の気は情熱、水の気は憂い、というようにな」

「ということはその志と想像力があれば私にも気が使えるの?」

 響花はなぜかうきうきしている。ミラは至って冷静に答えた。

「いや、どうだろうな。あくまで想像力と志は大前提だ。他にも血縁だとか素質だとかが関係してきて誰もが必ずしも扱えるとは限らない。その流派特有の気を練れないやつだっているくらいだから」

「ふーん。そうなんだ」

 響花が残念そうに言う。彼女は気を操るつもりだったのだろうか。

「まぁ、気の大まかな話はこのくらいだ。わかったか」

 響花はその問いに素直に答える。

「うん。わかりやすかったよ」

「ああ……、確かによく分かった」

 どこからか声がしたかと思うとそれは原三であった。原三もただ突っ立っているだけでなく話も聞いていたようだ。

「おい、ゲンは分かるに決まってるだろうが……」

 珍しくミラがツッコミを入れる。

「そうだな」

 原三は悲しげに呟いた。

 本当は気についてあまりよく分かっていなかったのかしれない…………。

 そんな彼はよしとしてミラが語りはじめる。

「あと一つ言っておかないといけないことがある」

「何?」

「ゲンの闘いに首を突っ込まない方がいい」

 ミラが急に声を低くする。

「どうして?」

「気はまだすべてを解明されていない。だから、それを扱うゲンにしても、その敵にしても危険この上ないんだ」

 その重々しい口調に響花は真剣さを感じ取った。

「ミラは私のこと心配してくれるんだ」

「当たり前だ。お前はオレの……」

 ミラは言葉をきり、目を背けた。

 響花が不思議そうに覗き込む。すると消え入りそうな声で「友達だから」と言ったのが聞こえた。

「ミラ……」

 響花が暖かい眼差し彼女に向けた。ミラはその視線に気づき、慌てて言い直す。

「い、いや、もう一人のオレが、だからな」

 ミラはまた今朝のように顔を紅潮させた。

 響花はそれを察し、優しく「今のミラも私の立派な友達だよ」と語りかけた。

 ミラが驚いて響花を見る。

「本当か!?」

「うん。だって大人しくても、荒々しくても、恐ろしくても、ミラはミラなんだから」

 屋上に穏やかな風が吹いた。

 ミラは相変わらずの小さな声で「ありがとう」と呟いた。

そんなミラを見ていた響花は「ミラ、可愛い」と彼女の髪を撫でた。

「ちょっ、やめろよ」

 ミラの声がうわずる。

「だって、こっちのミラがこんなもじもじしてるの見たことないんだもの」

 響花がいたづらに微笑んだ。

「話の最中悪いが、吾はそろそろ去らねばならない」

 響花がびっくりして声をあげる。

「え、何?敵?」

 いきなり低い声で話し掛けられて驚くのも無理ないだろう。まぁ、彼女の場合、さっきの原三みたいなことを口走っていた。

「いや、敵ではない。われは今朝のことで先生方に謝りにいかねばならんのだ」

 原三はいつものようにはきはきと答えた。

「……そう。じゃあ、刀貸して」

 響花がそっけなく言う。

「分かった」

 原三は刀を響花に預け、階段を駆け降りていった。

 二人きりになり、まず響花が口を開いた。

「ところで、ミラは気を使えるの?」

 ミラもいい加減恥ずかしさも無くなってきたのか、

「ああ、一応な」

 と威勢よく答えた。

「えっ、どんなの?」

 響花のテンションが一層上がり、ミラに迫る。ミラは今度は慌てることなく、

「それは気にするな。巻き込んだら困るからな」

と落ち着いた口調で返した。

「巻き込んだら困るって……。まさか、爆発したりするの?」

 響花がさらに身を乗り出した。

「そうじゃなくて、お前を闘いに巻き込みたくないんだ」

 ミラは困ったように言った。

「そうなんだ。……で、どんなのなの?」

 好奇心というやつはそう簡単にはおさまらないらしい。

 ミラは仕方なく、「分かった、教えるよ」と頷き、肩を落とした。

「うん」

 人の気も知らずに元気よく頷く響花。

 一々ツッこんでもいられないもいられないのでミラは話をすることにした。

「オレが使うのは風の気でな、それを拳に集め、一気に解放することで相手を吹っ飛ばすんだ」

「ふーん。あれ?それって」

「ああ、オレが殴るときはいつも使っている」

「……ねぇ、それってすでに私を巻き込んでない?」

 響花は良識な考えで適切なツッコミをした。いや、別に良識でなくてもわかったことだが……。

ミラはキマリが悪そうに「すまない」と謝った。

「謝らなくていいよ」

「よくよく考えてみれば、オレは風の気で身体能力を上げれるくらいだから、さほど他の人に影響を与えなかった」

「そう」

 響花は疑わしげな視線をミラに向けた。

「そんな目でオレを見ないでくれ」

 ミラは苦しげに言った。

 すると響花が笑いながら「ごめん、ごめん。やっぱり、ミラ、可愛い」とミラを撫でる。

「や、やめろ」

 ミラが身を固めた。

「ところで、ミラ」

 響花は撫で回すのを止めて、言った。

「なんだ?」

 ミラが、今度は何を言い出すのか、と身構えていると「樹大君とはどういう知り合いなの?」と妥当な問いが返ってきた。

「ああ、そのことか」

「もう一人のミラはおじさんが知り合いって言ってたけど、あなたは?」

「オレはもともとあいつを知っていた。出身が同じだからな」

「出身?」

 響花が首を傾げる。

「ああ。オレとゲンは昔ある村に暮らしていて、人生修業のために出てきたんだよ。まぁ、こっちに来た時期は違ったがな」

「なるほど。だから、二人とも親しげなんだ」

 響花は納得したように呟いた。それから、二人とも何となくしゃべらなくなり静寂が訪れた。

静かな中、響花はふと空を仰いだ。

 青く広い空にところどころに白い雲が見える。

 よく目を凝らしてみると、白い月も見えた。

 響花が何の気無しにそんなことをしているとミラが「なぁ、響花」と声をかけた。

「えっ、何?」

「あいつ、ゲンをよろしくな……」

「えっ?それ、どういう意味?」

 響花は少し驚きながらそう聞く。

「……あいつを友達として支えてほしいってことだ」

「え、でも、さっきあまり首を突っ込むなって言ってなかった?」

「それは、闘いに関してだ。日常生活についてなら突っ込みたいだけ突っ込めばいい」

 ミラは一息おいたあと、「あいつには友達が必要なんだ。一人で闘っていると思わないようにな……」

と続けた。その口調はまるでどこかのお父さんのようだった。

 彼女の言いたいことをなんとなく感じ取った響花は「わかった。頑張る」と頷いた。

ミラはふっと笑みを浮かべながら、「ああ、ありがとう」と言ったあと、思い出したように「そういえばここってチャイム聞こえるのか。結構時間が経った気がするけど」と聞いた。

響花はしばし沈黙した。そして、静かに「うん。急いで教室に戻りましょう」と立ち上がった。

 絶望とは時に人を冷静にさせるようだ。

 ……結局、二人は五時間目に遅刻することとなったのだった。



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