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サムライ・パニック!  作者: MIHA&SYO
5/11

~二つの白い三角~

 ミラは席につき、お弁当箱を取り出した。いつも一緒に食べている女子生徒たちが椅子や机を持ってきた。いつもならその中に響花があるのだけれど今日は何か用があるらしくここにはいなかった。ふと、響花の方を見ると弁当を持ってどこかへ行ってしまった。いったいどこへ行くのかしら、と首を傾げていると樹大原三がやってきて

「……本郷、ちょっといいか」と言った。

最初の沈黙が気になったが「えっ、何?」と普通に答えた。

「大事な話があるんだ」

 樹大が真剣な眼差しでこっちを見る。

「大事な話って?」

「ここでは、話せない。一緒に屋上に来てくれないか」

「…………」

 この時、ミラの頭の中では彼の行動を必死に分析していた。

 まず、私と樹大君は今日初めて会った。だけど、私は彼がこの学校に来ることを知っていて、彼をサポートすることになった。そして今、彼は大事な話があるからと屋上に誘っている。


 …………これはまさか、告白!?


 だってこのシチュエーション、ドラマで見たことあるもの。

 確か初めて会った男女が急に付き合って何かとドロドロする、という内容だった。もし、そのドラマ通りにいったら……私、いじめられるわね。……彼の告白、断った方がいいのかしら。そもそも樹大君はどうして私なんかを好きになってしまったのかしら。一目惚れかな、やっぱり。

 ……それより、私はいったい彼のことをどう思っているか。今日、会ったばかりだから全然わからない。いや、でも、なぜだか知らないけど彼のことを考えると胸がむかむかする。ひょっとして、これが恋心!?

 そこまで考えがいくと、ミラは顔を耳まで赤くした。すると樹大が「本郷、どうした。屋上はいやか?」と不安げに聞いた。

「えっ、あっ、いや、別に」

 突然話し掛けられて動揺するミラ。

「そうか。ならばすぐに向かおう」

「は、はい」

 ミラが弾かれるように立ち上がる。

「ああ、あと弁当も持ってきてくれ」

「う、うん」

 ミラは弁当を持って早足で廊下に出た。それに原三も続く。二人の足音が完全に聞こえなくなったとき、二人のやりとりをずっと眺めていたクラスメートたちが騒ぎ出した。男子の一部はヒューヒュー言って女子の大半はキャーキャー喚いた。また男子の中にはミラのファンがいくらかいるようで、彼らは静かに嫉妬の炎を燃やしていた。そんなこと、つゆしらず、樹大とミラは屋上へと向かった。ミラと樹大は屋上に出た。ミラはさっそく『大事な話って何?』と聞こうとした。

 その時、「あっ、ミラも来たの」と聞き慣れた声がした。

「響花!なんでここに?」

「樹大君と話があるの」と響花が答える。

「ふーん」


 ミラはここでやっと樹大が告白するために自分を呼んだのではないと悟った。ミラがいろんな意味でがっくりしていると、彼女のそういった心情など知る由もない樹大は「さぁ、昼食をとろう」とノーテンキに言ったのだった。三人は屋上の一角にあるベンチに原三を挟むようにして座った。

「はぁー。今日はいろいろあったからお腹ペコペコ」

「吾もだ」

「それじゃあ、いっただっきま~す」

 響花は袋からお弁当を取り出した。お弁当箱にはかわいらしいクマの絵がプリントされていて、フタを開くと中にはタコさんウィンナーやポテトなどがきちんと並べられていた。それを見た響花は「なるほど。そう来たか」と呟いた。

「どうしたのだ、白井殿?」

「いえ、なんでもないです」

 響花はそういいながらポテトを口に放り込んだ。

 一方ミラは、想像してた告白シーンを逃したことが思いの外ショックだったのか、一人黙々とお弁当を食べていた。

 そんなミラの様子に気づいてか、原三が「ときに、本郷。おぬしの昼食は誰が作っているのだ?」

と声をかけた。

「えっ。…………私が自分で作ってるの」

「そうか」

 それから、おなかが膨れたおかげかミラは元気を取り戻していった。

「さて、吾も頂こうか」

 原三はいそいそと弁当袋を取り出した。

 それを見ていた響花はどんな弁当か気になった。まさか、笹の葉に包まれているとか。さすがにそこまで古風ではないか。


 そんなことを考えているうちに、原三がゆっくりと弁当の口を開けはじめた。響花が覗き込むとそれは期待通りのささの葉弁当だった。響花は思わず咳込んだ。

「大丈夫?響花」

 ミラが心配そうに言う。

「うん。大丈夫」

 平生を取り戻した響花はもう一度原三の方に目を向けた。

 原三はささの葉をとこうとしている。

(ささの葉といえばやっぱりおにぎりよね)

 響花は平然とそう考えながら彼の手元を眺めていた。なぜか響花の意識が集中する。ちなみにミラは楽しそうにご飯を食べている。ささの葉の状況に興味はないようだ。

 それでもささは開かれる。その中から現れたのは三角形をしていて、白色で、片手で食べられる…………っ。そう日本人の主食、サンドイッチだった!

「…………ってサンドイッチ!?」芸人ばりの鋭いツッコミが屋上に響いた。

響花が不意に大声をだしたので原三は「なんだ、敵か!?」と身構えた。

「いっ、いや、別に敵じゃないけど……」

 響花はまだ混乱していた。

「ならば、なぜ、声をあげた?」

「だって、てっきりささの葉の中からおにぎりが出てくると思っていたから」と響花が答える。

「そうなのか。ささの葉は何を包んでもいいと思うのだが」

「それはそうなんだけど。どうしてサンドイッチなの?」

「ああ、それは栄養が安定しているからだ。確かに前は吾もおにぎりを食していたが、栄養が偏ると聞いたのでやめた。確かにそれは当たり前のことなのだ。おにぎりでは炭水化物がメインになってしまうのでよくはない。それに比べてサンドウィッチは野菜それに…………」

 と約五分もの間ずっと原三は真剣な顔で語った。

「そう……」

 奇妙な沈黙が辺りを包んだ。

 すると、いつの間にか食事を終えていたミラが

「樹大君のお弁当って誰が作っているか?」とあっさり沈黙を破った。

「いつもなら身内が作っているが今日は時間がなかったため、吾が作った」

「へー。樹大君、料理できるんだ」

 ミラは興味深げに言った。サンドイッチを料理と言っていいのだろうか。響花が悩んでいるのをよそに、ミラと原三の会話が続く。

「ねぇ、一口もらっていい?」

「ああ、構わん」

 原三はサンドイッチをミラの方に差し出した。

 ミラはサンドイッチの端っこを少しだけちぎって口の中に入れた。

「……」

 ミラが黙ったので、原三は不安になって

「口にあわないか?」と聞いた。

「…………おいしい…………」

「え?」

「おいしい! これすごくおいしいよ!」

 ミラがパッと顔を輝かせて言った。

「そうか、それは良かった」

 二人の会話を聞いていた響花が興味深げにサンドイッチを見た。原三がそれに気づき、

「白井殿も食べるか?」

 とサンドイッチを差し出す。

「うん」

 響花は即答し、サンドイッチの一部を食べた。

「こ、これは……」と、響花は絶句した。

「白井殿、どうした、まずかったか?いや、それとも敵か?」

 敵ばかり気にしている原三はさておき、響花は感想を述べた。

「これは、本当にサンドイッチなの。サンドイッチの美味の域を超えているわ。パンはふわふわでほのかに味がついているのに、まったく中の具をころさずにそれを温かく支えている。この神懸かり的バランスを作れるなんて。樹大君、すごい。まさにシェフね」

「吾は侍だ」

 原三は冷静に訂正した。その後、「だが、そこまで称賛の言葉を得るとはありがたい。昨日作ったパンに一昨日収穫した野菜を挟んだだけなのだがな」と補足した。

「それで、このクオリティーなんて、料理の素質があるのね」

 響花が興奮ぎみに言った。どうやら、サンドイッチを料理だと認めたようだ。

「どうだろう?」

「あるよ、きっと」

「私もそう思う」

 いい加減褒められた過ぎたのか、原三は少し恥ずかしそうに

「そうか。…………さて、吾も食べよう」と告げた。

 しばらくすると三人とも弁当を食べ終え、一息ついていた。ふと響花が「それにしてもミラって食べるの早いよね」と言った。

「そう?普通に食べてるつもりなんだけど」

「いや、昔から食べるのは疾風のごとき速さだった」

 と原三がボソッと言う。

 ミラは怪訝顔で

「え?昔?なんで樹大君が私の過去を知ってるの?」

気まずい沈黙がおとずれる。原三はある程度考えたあと

「それは…………。すまん、人違いだ」

 とごまかした。いや、本当にごまかせたかは怪しいものだったが、ミラが「そう、人違いね」と答えたので、まぁ、大丈夫だろう。


 ここでまた話が途切れ風の音しか聞こえなくなった。

 この沈黙を破ったのはやはりミラだった。

「ところで、大事な話ってなんなの?」

「ああ、そうだったな」

 原三はそう言うと立ち上がった。つられて響花とミラも立ち上がる。

 原三はミラの方を向いて「それでは、失礼」とお辞儀した。

 そのすぐあと、彼は素早い動きでミラのスカートをつかみ、めくりあげた。

 そこには白くて三角形のサンドウィ……もとい純白のぱんつがあった。

「…………なっ、なにしやがんだ、この野郎」

 とミラが原三の腹に右ストレートをぶち込んだ。吹っ飛ぶ原三。ミラはそれでもあきたりず、原三のむなぐらを掴んだ。

「てめー、何のつもりだ!?」

「ああ、だ、大事な話があってな、ミラ」

それを聞くとミラはハッとしたあと「なるほど、テメーのやりたかったことはわかった。で、誰の入れ知恵だ?」と聞いた。

「ああ、おぬしが多重人格らしいと聞いたので、川島にどうしたらいいか尋ねたところ、スカートをめくればいいと言ったため、そうしたのだ」

 ミラは原三の話を聞き終えるとすぐに原三を放り出し、屋上を飛び出していった。原三は壁づたいに座りこんだ。そこに、一部始終を見ていた響花がかけよる。


「大丈夫、樹大君?」

「う…………、うむ、大丈夫だ」

 原三はそう言ってよろよろと立ち上がった。

「相変わらず、すごい力だ」

「ええ。確かに。でも、今のは樹大君が悪いわよ。もう一つの人格をだすためにスカートをめくるなんて」

「しかし……」

 原三が言い訳しようとしたが、響花は遮るように

「女の子にとってスカートめくられることは武士にとって背中を斬られるのと一緒なのよ!」

と言い放った。

「なっ、なに。そうなのか!?」

 原三の声がこわばる。

「ええ。なかなか傷つくんだから」

「う、うむ。それは悪いことをした。しかし、あのミラがそういったことを気にするとは思えないが」

 原三がまぁまぁ失礼なことを呟いたころ、開け放たれた屋上のドアから


「ミッ、ミラ、やめてくれ~。お、俺はまだ死にたくない。お願いだから殺さないでくれ。おい、ミラ、やめてくっ…………ウッ……」

 という悲鳴が聞こえてきた。さすがの響花も今回ばかりは『守りたい』とは思わなかったのであった。響花が川島に黙祷を捧げていると、ミラが戻ってきた。

「悪は滅んだ……」

 ミラはなぜか空を見上げながら呟いた。その間にいつの間にか回復していた原三がミラの前まで行き、片ひざをついた。彼はその体勢で片手を地面につけ、「すまぬ、ミラ。あの行為がそれほどまでに罪深いもの知らなかった。だが、知らなかったで許されるわけはない。どう罪を償おう」と謝した。するとミラは再び原三の襟首を掴んで

「俺は別にいいんだ。だが、もう一人の俺を傷つけるのは許さない」と怒鳴った。

 ミラは俯いて「あいつは、俺と違って純粋でデリケートなんだ。だから、一度傷ついたらしばらく暗く沈んじまう。俺はそんなあいつを見たくないんだ」と続けた。

「ミラ……」

響花がつぶやく。原三も「すまない、本郷」と謝る。

 少しの間、誰もしゃべらない状況が続いたが、やがてミラが「わかればいいんだ。これからは呼べば出ていってやる」と軽く原三を突き飛ばした。そんなミラに響花が近づいていって「こっちのミラも友達思いなんだね」と話しかけた。

 ミラは顔を赤くして

「うっ、うるせぇ。俺はただ自分をかばっただけだ」

「…………こっちのミラは素直じゃないのね」

 響花はにこりと微笑みながら呟いた。

 きまりが悪くなったのかミラが原三に「で、大事な話ってなんだ」と聞いた。

「ああ、白井殿に『気』についての話をしてほしいのだが」

「ゲン、お前、響花に教えたのか?」

 顔色を変えるミラ。原三が静かに答える。

「ああ。吾とおぬしが戦ったときに花びらを見てしまったようなのでな」

「そうか……。いいのか?響花に話して」

ミラが不安げに言う。

「うむ。彼女は信用できる」

 原三のその言葉にミラはじっと彼の目を見た。それから、響花を一瞥して、「確かにそうだな」と笑みを浮かべた。

 ミラは響花の方へ向き直り「それで、どこまで知っているんだ?」と尋ねた。

「えっ?教えてくれるの」

 響花が驚いた声をだす。

「ああ、信用できるからな」

「あ、ありがとう」

 響花は照れたように礼を言った。ついで、「でも、どうして二人ともそんなに信用してくれるの?」

と疑問を投げかける。

 その問いに原三は「人を守れる者に悪しき者はいない」と解答ともなっていない解答を返した。響花はその言葉の意味をすぐに理解した。確かに響花は川島を守ってみたり、ミラを守ってみたりクラスメートを守ってみたり、いろんな人を守っていた。原三はちゃんとそういうのを見ていたのだ。納得した様子の響花を見たミラは「さて、気の話をしようか」と言った。

「あっ、うん」


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