ラルゴとマリアの秘密の約束(3)
感謝・感謝です。頑張ってまーす。
夜の闇は静かな世界を作り上げると、ラルゴはそう思っている。今もどこぞの屋敷の中庭は不気味なほど静かだった。
前方で微かな光が見えて消えた。そちらにいそいでいくと、扉が空いていた。
(マリアの話からメイベルは炎のアビリティ使い。金具が焼き切られている?)
アビリティ持ちが犯罪すると怖いなと思いながら中を探る。一室でもの音がしたので行ってみると黒ずくめが書斎をゴソゴソと探っていた。
背後に移動して人間の姿に戻る。相手は警戒しているようだが扉と反対方向には意識が回っていない。
(今!)
ラルゴは黒ずくめに飛びかかり取り押さえる!耳元で、
「動くな、アビリティも使うな。」
と言いながら武器(ペーパーナイフ:マリアに借りた紙用のもの)を背中に押し当て脅す。動きが止まったので覆面を剥いだ…案の定メイベルであった。
「誰?」
小さな声で問われたので、小さな声で返した。
「マリアの親友さ。彼女から伝言。こんなことはやめて欲しいってさ。」
「…泥棒をしていたのをマリアが知っていたの…」
「俺から言うのもなんだけど、犯罪者の妹って辛いと思うぜ。」
「…わかったわ、もうしない。帰ったらマリアに謝るわ。あなた、黙っててくれる?」
「マリアに被害でそうだからな…2回目はないぜ…。」
頷くのを見届けてから拘束を解く。
「仕事にいかなくちゃだから、家に帰るのは明日になるわ。」
「ん、マリアに言っとく。」
ラルゴはその部屋を出てから慌てて猫に変身した。緊張していたので変身することを忘れていた。家の者が起きてくる様子がなかったのでホッとした。その家をダッシュで飛びだす。
(癖になっててやめられませんて事にならなきゃいいけど…。)
まあこれからは家族の問題だと思うラルゴであった。
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メイベルが語ります。
「ん、マリアに言っとく。」
そう言って去りゆく男を見ながら、迂闊にもこんな子供に遅れをとった自分に腹が立った。
そして愚かな男の子と愚かな妹にも腹が立つ。
(泥棒、私が?)
右手の人差し指を男の子の背中に向ける。
私のアビリティは、小さな炎しか生み出せない。しかし、石をも溶かす高温の炎を高速で打ち出すことも出来るのだ。
狙いを定める……
(パン!)
心の中でそうつぶやき、人差し指を口の前で立てて、ふうと息をかける。
(愚かな妹に免じて殺さないであげる…2回目はないわよ。)
探し物もなかったし、誰か来る前に去ろうと思ったとき、
「…命拾いしましたね。」
後ろからの声に身体が硬直し嫌な汗が全身から吹き出て来た。
ぎこちなく振り返ると、先程とは違う男がいた。
「”消せない男”」
「…その2つ名は”消した”はずですよ。忘れてください。」
紡がれる言葉は穏やかであったが、決して逆らってはいけないと本能が告げる。姿を隠す事ができるアビリティを持ちながら姿を現しているときの方がはるかに恐ろしいと言われるその男の言葉に…。
「…はい。」
「…しばらくは活動を控えてください。こちらにまで影響が出ていますので。ここももう引き払われてしまった後で何もありません。帰りましょう。」
うなづいてすぐ、外へと向かう。一刻も早くここから立ち去りたかった。
「それから、一つ。」
声がかかって振り返ると、右手の人差し指をこちらに向けていた。
「2回目はありませんよ、…パン。」
…明日にでも退社しようと思いながらメイベルは意識を失った。