紋様術(13)
いつも感謝・感謝です。
この回で終わらせようとしたら、ものすごく長くなってしまいました。すいません。
3人のタチアナ師匠に対峙して、ケインは悩んでいた。向かって左のタチアナ師匠は金のキラキラ貝の衣装をきている、真ん中が銀、右が普通の衣装だ。
(ダンジョンのトラップに引っかかったみたいだけど、これは?)
今いる池はダンジョンと何か関係を持っているのか?何にせよ、先ほど吹き飛ばされたことと、3人の師匠の姿を見る限りこれから先ろくな事が起こらないだろうと予測した。
(また、悪い予感が当たったっぽい。)
それでも池の中に三歩程はいって様子をみる。すると、
「何時に問う。汝が落としたのは金のキラキラ貝の衣装の女性か?銀のキラキラ貝の衣装の女性か?それとも普通のキラキラ貝の衣装の女性か?」
3人の口が動いて同じ事を同時に語り出した。
「…質問していいですか?それに答えればタチアナ師匠を無事返してもらえるんですか?」
「その質問には答えぬ。」
「では別の質問。本物はこの3人の中にいるんですか?それ以前に生きているんですか?そうじゃなきゃ答える意味がない。」
「…本物はこの中にいるし、間違いなく生きている。」
「ありがとうございます!安心しました。本当に本当にありがとうございます!」
ケインはホッとした様子で胸をなでおろしていると、
「そんな、…お礼を言われると照れますね。」
(ここは強引にでも話をしてヒントを!)
ケインは会話を続けた。
「いえいえ、貴方のお陰でタチアナ師匠が助かったんです。お礼を言うのは弟子として当然のことです。」
「池に落ちてきて、混乱しているところを捉えたのだ。助けたわけではない。」
「師匠は以前、泳げないっていってました。だからですよ。本当にありがとうございます!」
大嘘である。
「…ま、まあ結果的だ。それよ…」
「本当に素敵な方ですね貴方は!相当高貴な存在とお見受けします、神様ですか?」
「そんな、神様だなんて♡、まだ成り立ての新人GMですわ。」
「なんとGMでしたか?それで姿は見えませんがお声だけでも神々しさが伺えます。…かなり将来を期待されているんでしょうね。」
「そんな♡ようやく神に準ずる存在になれたのよ、今回のプレイで頑張って神様達にいいところを見せればさらに上を…ああぅっ私っておしゃべり!」
「大丈夫です、貴方様のために誰にも話しませんから。」
「お願いね?」
GMはダンジョンなどに出現する冒険者泣かせの存在である。その存在も、与えて来る試練の意味も不明な事が多い。が、今回はどうやらこのGMの試練を神様が観覧されているようである。
(命がけの劇をやらされているみたいだってなにかの記事に載ってたけど、本当にそれっぽい。)
ケインは必死で言葉をつなげて情報を少しでも得ようと思ったのだが、…色々な情報が手に入った。しかし、肝心のタチアナ師匠を救う情報がまだない。
「じゃあ、1つだけヒントをあげるわね。3人のうち2人は水の精霊にお願いしてまったく一緒の姿をとってもらっているの。外観からも、触ってみても、本物と変わらないわ。」
(ありがたい!でも、…見ただけじゃわからないって事だよな。)
普通のキラキラ貝の衣装のタチアナ師匠が本物に見えるが、見慣れている姿だからだろう。焦って答えを出すわけにはいかない。
(まだ情報が足りない、もっと聞き出さなくては。)
「ヒントまで頂けるなんて、本当にありがとうございます!貴方に会えて本当に光栄です。そういえば、以前あった方も神々しいお姿でしたが貴方様も大層お美しいのでしょうね。」
「そ、そんなことなくもないですわ♡…えっ?…他のGMにあったことあるの?」
「はい、あのダンジョンで。子供の姿をした方でした。」
「…マズイわ!早く答えて!」
「えっ?」
「10秒以内に答えるの!10、9、…」
いきなりカウントダウンが始まってしまった!
(クッ、いらないことしゃべったか。)
外見で見分けがつかない以上、確率は3分の1。
(普通の衣装は選ばれやすいから外すだろう、でも、裏を読んでるかも…ああ、わかんない!)
もう、カンで答えるしかないと思って答えようとしたとき、
「わたしのプレイヤーであそぶなんてあなたずいぶんなことをしてくれますね。」
「ひょへあ〜」
3人のタチアナ師匠から奇声が上がった。いつの間にかケインの横に以前見た子供の姿のGMがいる。
「わたしのプレイヤーだってかくにんしなかったのですか?しかもいんぺいのためはやくイベントをしょりしようとしたでしょ?」
「…」
「まったく!…ケインくんいぜんしょうひんとしてあげたパペットのめはどうしました?」
「記念に家に、…パーティーハウスに置いてあります。」
急な展開に、ケインはついていけなくそうになりながらも必死で回答した。もっとも家にあるのはGMが関わっていたので誰も買い取ってもらえなかっただけであるが。
「じゃあ、そのしょうひんをかえしてもらいますね。そのかわりほんもののじょせいをかえしてあげましょう、ちなみにほんものはどれだとおもいました?」
「…金の衣装の師匠だと。」
「なぜ?」
「…一番綺麗だと思ったから、…衣装が師匠に似合っているから。」
子供の姿のGMは天使の様な笑みを浮かべると、
「これはもうひとつしょうひんをあげなければいけませんね」
左の金の衣装のタチアナ師匠が宙に浮きながらケインのところに来たのでお姫様抱っこした。衣装も元の色に戻る。銀の衣装のタチアナ師匠の姿をしたものは水となって池に戻った。
普通の衣装の姿のものは、…ケインのところまでススッと水の上滑るように寄って来た。
「しょうひんとしてこのこあげるね」
「…あの、いつまでこの姿でいるのでしょうか?」
「ほんらいのしょぶんの…しょうめつのほうがいいのかな?」
「ごめんなさい!消滅イヤ消滅イヤ消滅イヤ…」
「じゃあかえるね、ほんとにじごしょりがたいへんなんだからかんしゃになさい。」
そういうとまた以前のように消えてしまった。
「…えっと、さっきのGMさんてかなりスゴイの存在なの。」
「はい、詳しいことは言えませんが…ううっ水の精霊にまで格下げされてしまいました。」
「気を落とさないで…っていっても無理かな?」
「本当にお優しいんですね、ご主人様♡」
タチアナ師匠の格好で目を潤ませてそんなことを言われて…血の気が引いた。
「…私の…姿で…そんなこと言わせるな!…馬鹿弟子!」
少し弱った声でタチアナ師匠が非難の声を上げる。
「意識が戻ったんですね、よかった!」
「…意識はあったからな。…最初から聞こえていたぞ、太鼓持ちめ。」
「必死だったんですよ、師匠を助けるために。」
「…まあ、いいだろう、…よくやった。」
ケインは安堵して、涙が出そうになった。
「泣くな!…鬱陶しい。荷物を拾って帰るぞ。」
そういいながらも、ケインの涙を拭ってくれたタチアナ師匠はいつもより優し顔をしていたような気がした。
「…はい。」
ケインは抱いているタチアナ師匠の温もりを感じて自分が生きていることを実感した。喜びが湧き上がって来た。
(これが…僕の生きる道)
なんとなく、自分の人生の歩み方が見えたような気がしたケインであった。
サブタイトルの紋様術の掘り下げがイマイチでしたが、作者は楽しんだつもりです(笑)
元ネタは金の斧と銀の斧と…のお話です。