紋様術(3)
読んでいただいて、感謝・感謝です。
コツコツと足音を立てて階段を降りると、冷んやりとした空気が頬に当たる。ケインは久しぶりのその感触に”ここ”へ戻って来た事を実感した。
前にこのダンジョンに入ったときは冒険者になる前だった。ひどく緊張していたのを覚えている。あのときはラルゴと2人であったが、今回はラルゴとタチアナ師匠ともう一人、紋様術師のサイラスという男だ。金髪で碧眼、まさに絵に書いた様な美男子だがキザな言い回しを使い、ケインは苦手だと思った。
今回のクエストはこのダンジョンの制覇と2人のアビリティの解析作業である。フーバー老師派からサイラスが派遣されラルゴを、リシェル老師派からタチアナ師匠が派遣されケインを、それぞれ解析する約束になっている。つまり共同戦線を張って解析作業を行って行く事になったのである。タチアナ師匠にサイラスの事を聞いたが、苦い顔で実力はあるが軟派な男だと言われた、何度も口説かれた事があるらしい。
4人でしばらく進むと曲り角があり、曲がるとパペットがいきなり攻撃してきた。
置物の様な気配のなさに一瞬反応が遅れた。
しかし、がつん、と音がして攻撃が弾かれた。
「パペットの相手はキミタチだろう、タチアナ怪我はないかい?」
サイラスがキザったらしく言葉を紡いだ。
ケインはアビリティ”ブースト”を発動させてパペットの片足をつかみ振り回す、そのまま壁に叩きつけた。すかさずラルゴが頭を鉄棒で叩き割ると、動かなくなった。
「パペットの目は価値がある、わざわざ潰さなくてもいいだろうに。」
(よく喋る人だな…)少しウンザリしながらも礼を言う。
「有難うございます。今の防御はサイラスさんですよね?」
「ちとやばかった。有難う!」
2人の礼を聞き、サイラスは当然だと言うばかりに頷いた。
「我が紋様陣にかかれば造作もない。」
サイラスの左手前腕の紋様が光っている。
「それっすか?」
ラルゴが珍しそうに聞く。
「無知だな、こんな事も知らないとは。」
「まだ新人だ、仕方がなかろう。」
さすがに自分が師匠役として面倒を見たことのある2人に、タチアナ師匠がフォローをいれてくれた。
「今のは彼の左手に描いてある紋様の力で弾いたのだ。その紋様陣は常時発動型で任意の対象を自分の周りの空間に入れたり入れなかったりができる、一般に”結界”と言われる力だ。」
タチアナ師匠の説明は流石に専門家らしくわかりやすかった。タチアナ師匠の説明を要約すると…、
…紋様術師は長年のアビリティと神の印に対する研究で紋様それ自体が力を持っている事を突き止めた。そしてそれを発動するためにSCMが必要な事も発見した。今日までに多くの研究者の手によって、様々な紋様陣が発見されている。
しかし、
・一度何かに書かなければならない事
・使用制限の無いアビリティと違い、一度に使うことのできる紋様陣の発動回数は獲得SCMによる
などの制限や欠点もる。
「…今後は2人とも、もっとゆっくり動いてくれ、アビリティ発動中の紋様が見づらい。」
サイラスの発言はムッとくるものがあったが、これも代金のうちとケインはガマンして了承した。
ラルゴと目を合わすと、割に合わね、との意志が伝わってきた…ケインは全くだと思って肩をすくめた。
SCMの説明は、<ララカルの街にて冒険者業に就職(2)>にあります。