テストでデットorアライブ(1)
王都に近いある森の中、3人の人間が地面に空いた入り口の奥、階段の先の暗闇を見つめていた。
1人は灰色の髪のケイン、その右横に亜麻色の髪をしたラルゴ、左横のもう一人は金髪の女性である。女性は緑眼で背もスラリと高く胸もある。顔も美しく妖精族なのではとうたぐってしまうが耳はとんがっていない。
(まあ、年齢は俺たちより…)
ケインがそこまで考えた瞬間げんこつが落ちて来た。
「…今、私にとって不愉快なことを考えていたな。」
痛む頭をお抑えながらこの人は絶対読心術のアビリティを持っていると心の中で呟いた。
「ケインお前、女性にそんな視線向けたんじゃ…バレバレなんだよな。先ずはタチアナさんに謝れよ。」
女性慣れしているラルゴがフォローを入れる。
「でもラル!痛い思いをしたのはコッチの方なんだよ!なんで僕が…ゴメンなさい。」
タチアナの絶対零度の視線を浴びているのに気付き、完全降伏する。
「…とにかく、もう一度確認のために言っておく。このダンジョンはモンスターの駆除が終わったばかりだから、まだ集団で襲われる確率は少ない。マップチェンジ(※)も先月したばかりだし、大体1階層しか無いのだから1日で攻略できる。まさに卒業テストにはふさわしいダンジョンだ。存分にアビリティをチェックしてくるがいい。だが、くれぐれも油断するな。ここのモンスターは弱いパペット(人形)しか出てこないとはいえ、初心者のお前達の方が間違いなく弱いのだから…」
タチアナはラルゴには微笑んで、ケインには氷の視線を向けてこの卒業テストの内容を伝えて来た。
王都に呼ばれてこの一月の間、2人は戦闘技術や歴史などの学問、そしてアビリティについて学んだ。
タチアナは今回2人の師匠役を任さた紋様術師である。アビリティ持ちにはその能力を高めるための紋様を体に描く。ケインとラルゴの2人に紋様を描き、その能力の解析と強化を行ったのはタチアナである。
当然アビリティについても調査した。ラルゴは予想通り”チェンジアニマル(動物変身)”であった。ケインは”ブースト(身体能力強化)”…らしい。
カインの方を断言できないのは、色々とあって、体に紋様を上手く描けなかったせいである。
この一ヶ月で2人ともある程度アビリティを使いこなすことが出来るようになっていた。今回はそれを実践で試すわけである。
「ではタチアナさん、行って来ます。」
「死なないようにガンバってくるよ。」
2人はタチアナに挨拶をして階段を降りていった。
「…ハーティア、いるわよね。」
「三歩後ろにいます。」
タチアナの小さな声に返事があった。
「隠れてサポートをお願い。生かさず殺さず、死にそうにならない限り手を貸さなくていいわ。それよりケインのアビリティの観察をお願い、今まで見た紋様のどれよりも解析が難しいの。」
紋様はアビリティ持ちに元々ある印のようなモノを筆に付けた特殊なインクでなぞることで浮かび上がる(※)。
ずっと昔から紋様とその発現される能力を記録して来たことで、今日はかなりの高確率でアビリティを言い当てることが出来る。だがまったくの新種のアビリティは理解不能な事が多い。そのためにも今回は特別にダンジョンまで用意して”姿隠し”のアビリティを持つハーティアを呼び寄せたのである。
「この迷宮のあれは…2人にはまだ教えてないんでしたよね。サポートが間に合わず死ぬかもしれませんよ?」
「構わん、データが取れれば元は取れる。」
「…分かりました、それでは追跡を開始します。」
ダンジョンに入りながらハーティアは心の中で2人を無事帰還させることを誓った…彼もまた1人のアビリティ持ちなのであるから。
マップチェンジ:ダンジョンフィールドは不定期でその構造や壁の位地が変わる
アビリティ持ちの印;力の源。紋様術師にしか見えない(解析できない)。




