ララカルの街にて…冒険者業に就職(5)
カリカリカリカリ…、鉛筆で書く音が静かな部屋の中に響き渡る。
今は”遅咲きのスズラン亭”で筆記試験を受けている。
筆記試験の内容は簡単だ。だが、冒険者になるには必須の技術を問うものである。
なぜなら、この国の農村では識字率が低いので字が書けないものも多い。数値を扱う算術はなおさらなのだ。
ケインは元々村を出る事も検討していたので、父親のあとを次ぐ予定であったラルゴの勉強に付き合うかたちで色々と覚えていたのが役に立った。
「昨日は本当にゴメンね、ティー君がみっともないところを見せて。」
(ティーがティー君になってるから仲直りしたみたいだな。)
テスト中に話しかけてくるサララさんの態度にどんなものかと思ったが、緊張を解いてくれようとしていることが雰囲気的にわかったので気にしないことにした。
「本当にハーティアさんのあの態度はびっくりしたよ。でもなんか昨日よりずっと楽しそうですね。」
ラルゴが言葉を返す。
「そうなの!昨日は皆で払ってて、お父さんはいつも通り放浪の旅出てるしリリカは基本寄宿舎で寝泊まりしてるし、一人っきりだったから結構ブルーっだったのよ…、そんなときティー君が久しぶりに帰って来たじゃない?もう、ティー君でば…(エンドレス)」
結局試験時間のほとんどをお喋りに使っていたので、付き合わされたラルゴが大変だとケインは思っていたがそうではなかったらしい。筆記試験後もラルゴはサララさんと話を続きている。
(あいつ、本当に女性と話すのうまいよな…)
ちょっと羨ましいが、あんな長さの会話は自分には出来そうも無い。
その後、面接があるはずだったけど、ハーティアさんの推薦だからと省略された…ティー君は信頼されているらしい。
それから裏の練習場に出て実技試験を受けた。
「皆出払ってるから私が相手をするね、本当にゴメンね。私、アビリティのメンテも最近してないし、相手にならないかも…。」
そんなことを言いながら、モジモジしているサララはとても可愛い女性だとケインは思った。
しかし、
「ラル、あれなんに見える?」
ラルゴが苦笑いをしながら
「モーニングターだろ…、あのダンジョンで戦ったパペットの右手を思い出すな。」
そう、モーニングターについている鉄球は普通なら握りこぶしくらいの大きさなのだが、サララのそれはボーリングの玉並みの大きさだった…。