第五節 -2- 障害 【シェーラ1・グローリー1】
海。
そこに、船があった。
多くの船があった。
「……」
「……」
その一隻。
先頭の船の甲板に、グローリーとシェーラが立っていた。
彼らはただ前方の海を見つめていた。そんな中、シェーラは思っていた。
――気まずい……ッ!
無論、気やすく話しかけられるのも嫌だが、無言とはなんだ無言とは。さすがにこれは気まずすぎるぞ。え? 私から話しかけないといけないのか? それはちょっと嫌なんだが。プライドというかなんというか……こんな時は、男から話すんじゃなかったのか? 話と違うぞ。くそっ、まともに男と話すことなんて滅多にないからわからんぞ……ッ!
シェーラは無表情を保ちながら、心中ではずっとそんなことを思っていた。今だけは勇者が来てほしいとすら思っていた。ぶっちゃけ海を見つめているのは涙目を隠すためだった。
「……おい」
グローリーが言った。
「な、なんだッ!? べ、べつに泣いてなんかいないぞ!」
「魔族だ」
「え?」
グローリーは剣を抜いていた。そして、彼は剣を振った。
停止魔法。
それが発動し、それは、海に作用した。
一斉に、波がその動きを止めた。
だが。
「……仕留めたと思ったのだがな」
グローリーが舌打ちして、見た先には、一人の魔族がいた。
金の体毛。狐のような身体。四本の尾は青く煌き、その目は紅い。
そんな魔族が、海の上に、立っていた。
そして、彼は言う。
「そう上手くは行かないよ、人間。だが、勇者以外に、貴様のような人間がいるとは思わなかっ――」
「そうか、感謝する。先の状況よりは、こちらのほうが、まだマシだからな」
いつの間にか、シェーラが魔族の背後に移動しており、腕を振った。同時に、巨大な氷柱が魔族のいた場所に出来上がったが、その中に魔族は含まれなかった。
「そんな魔法を使えるのか。驚きだ。やはり、勇者以外でも、人間は危険だ」
魔族は氷柱の頂点に立っていた。四本の尾が揺らめき、青く煌く。
「魔族ほどではない」
「人間からすれば、そうかもしれないな」
「ああ。そうだ。だから、死ね」
グローリーは剣を振った。同時に魔法が発動する。それにより、魔族のいた空間が停止するが、その時には、既に魔族はグローリーの停止魔法が解けた海の上にいた。
「第八ルイアだ。では、戦おうか」
ちゃぽん、と音がして、ルイアは海へと潜り込んだ。
「……それは任せた」
「は?」
グローリーはシェーラに言って、魔力を放出し、跳んだ。そして、彼は何を思ったのか、空に向かって剣を振り、魔法を発動した。
黒い雲。曇天。それに、向かって。
すると、黒い雲が、停止した。
だが、それは一部だけだった。
《総員、障壁を張れ》
グローリーの通信魔法。それに、海上にいた全ての人間は障壁を張った。船に刻まれた魔法陣を起動させ、船ごと包みこむような障壁だった。
直後、雨が、降った。
見るだけならば、ただの雨にしか見えなかった。
しかし、違った。
その雨は、ただの雨ではなかった。
障壁を張っていたからこそ、それがわかった。
《察知される。思わなかった》
通信魔法。それがどこからの通信魔法なのかは考えるまでもなかった。
上。
空。
天の、黒い雲。
《第九ウィジア》
しんしんと、雨は降る。
その度に、障壁が、浸蝕される。
《戦う》
そして、その時。
海の果てから、数え切れないほどの魔力を持ったなにかを感知した。
海の中と、上に。
それを感知した瞬間、グローリーは通信魔法で命令した。
《私が上の第九と戦う。貴様らは、雑魚を頼んだ》
彼は船の魔力障壁の範囲から出た。
戦闘が始まる。