第五節 -1- 障害 【勇者1・リスト1】
勇者は大勢の兵たちと共に、そこを、駆けていた。
未開の地。
ある大陸。
魔族の本拠地である大陸。
東洋の国々の北。大陸の最北東から、海を越え、この大陸に至ったのだった。
「リスト。グローリーと一緒に来たかったか?」
勇者は自分の隣を駆けるリストに訊ねる。
すると、リストは、
「いえ。次に彼と会うのは、あの魔族のいる地ですから」
「まあ、魔力量の問題を考えれば、二手に分かれたほうが得策ではあるな。だが……」
「だが、危険だ、と?」
その言葉に、勇者はぱちくりと瞬きをして、ふっと笑い、
「そうだ。あっちが、心配になる。お前の方は、何かあっても、俺が何とかできるが」
「グローリーの方は、どうなるかわからない、と?」
「ああ。……一応、保険はかけておいたんだが、保険は保険でしかないからな」
「大丈夫ですよ。あっちにいるのは、いたとしても、第七より下、なのでしょう?」
「俺の予想では、な。……魔族から得た情報を統合すると、あっちにいる可能性があるのは、第八が単独か、もしくは、第八と第九か、ってとこだろうな」
「ならば、心配は不要です。私たちは、第三を倒そうとしているんですから」
「……そうだな」
勇者は親しみの笑みを見せ、瞬間、その顔を引き締め、通信魔法を使った。
《魔族だ。警戒しろ》
それとほとんど同時に、炎が舞った。
勇者が駆けるのを止め、防御のために魔法を使うと、勇者たちの足場から苛烈なまでの炎が噴き出す。
地獄がもしあるとするならば、その光景に、それは酷似していただろう。
地から炎が絶え間なく噴きでている。辺り一面、炎の海。そう、まさに、この光景は、炎の海だったのだ。
「ほう。第六のそれを防ぐとは、さすがは勇者だ」
空から、声が聞こえた。
その正体は、すぐにわかった。
何かが上から降ってきた。それは難なく着地し、砂埃が舞った。
「それでこそ、このオレが戦うにふさわしい!」
巨漢と形容するにふさわしい男だった。東洋人のような短い黒髪と黄色い肌を持つ、巨漢。その額からは、東洋の伝承にある『鬼』を想起させるような、巨大な角が額から生えていた。
その男の威容に何かを思うよりも先に、炎の海から、また一人、男が現れた。
「あれで死んでないのかヨ。面倒くせぇなァ」
筋骨隆々とした肉体。獅子を思わせる金の髪。肌は浅黒く、表情は凶悪な笑み。そして、二本の尾が生えていた。
「第五テドビシュだ。お前らを殺す者の名だ、覚えておけ」
「第六ゾォルだ。塵も残さず燃やしてやるヨ」
そう言って、彼らは笑った。