終わりの始まり 【Ⅵ】
終わりの始まり。
「勇者」
「なんだ」
「頼みがある」
「言ってみろ」
「私達に、あの魔族を、殺させてくれ」
「お前らに? できると思っているのか?」
「できるように、してくれ。頼む……ッ!」
「……リストはともかく、お前が、そこまでするとはな。いいだろう。俺が、お前らを、第三を殺せるようにしてやる」
「……感謝する」
その日。
国中で、王の死を悼む式典が行われた。
雨が振り、空すらも、王の死に悲しんでいるようだった。
そんな中、勇者は自責していた。
俺が、もう少し早く、していれば。
俺の、せいで。
また、失ってしまった。
「勇者様……」
サヤが勇者を心配するように、勇者の背を、そっと抱いた。
「あなたは、悪く、ないです。あなたは、一人で抱え込みすぎですよ」
その言葉に、勇者は、何も答えなかった。
だが、心のなかでは、答えていた。
違う。違うんだ。
俺が、悪いんだ。俺が、本気を出せば、一分もかからずに、あんな魔族は殺せたんだ。
それなのに、俺は、魔王との戦い――魔族との最終決戦の前に、一度でも多く、この国の兵たちに実戦を経験させ、最終決戦での勝利を確実にするために、第四ごときを相手に、あんなに時間をかけて、戦っていたんだ。
しかも……、勇者は自分のことが嫌になった。自分の胸中にある、思い。それが存在するのが、この上なく、嫌だった。
勇者は、嬉しかったのだ。
第三を見たとき、嬉しかったのだ。第三の、魔力。それを見たとき、勇者は、嬉しいと思ってしまったのだ。
王が、死んでいるのに。
それを知りながら、嬉しさが上回ったのだ。
「……くそっ」
勇者は、自責した。
サヤは、それに対し、もう何も言わずに、ずっと、勇者に抱きついていた。
――勇者は利己主義だ。
自分のことしか考えていない。自分の利益しか考えていない。
そして、彼は、ヒトに対しても――ヒトだけでなく、この世の全ての事象に対しても、それは適用される。
彼がヒトの死を悲しむのは、それだけのこと。
ヒトの死が、彼にとって、不利益なことというだけのこと。
勇者は利己主義だが、それは感情を持っていないというわけではない。
彼は感情を持ち、その感情の上で、利己主義の思考を展開している。
利己主義でありながら、彼は、誰よりも、優しく、誇り高い。
全て自分のためだと思い込み、自分のために、他人に尽くす。
自分のために、世界を救う。
そんなことを、本気で、はっきりと、言うことのできる人間。
それが、勇者だ。
それが、勇者という、一人の人間だ。