表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
利己主義勇者と良き魔王 【序】  作者: 雪祖櫛好
第四節 終わりの始まり
80/112

終わりの始まり 【Ⅵ】

終わりの始まり。

「勇者」

「なんだ」

「頼みがある」

「言ってみろ」

「私達に、あの魔族を、殺させてくれ」

「お前らに? できると思っているのか?」

「できるように、してくれ。頼む……ッ!」

「……リストはともかく、お前が、そこまでするとはな。いいだろう。俺が、お前らを、第三を殺せるようにしてやる」

「……感謝する」




 その日。

 国中で、王の死を悼む式典が行われた。

 雨が振り、空すらも、王の死に悲しんでいるようだった。

 そんな中、勇者は自責していた。

 俺が、もう少し早く、していれば。

 俺の、せいで。

 また、失ってしまった。

「勇者様……」

 サヤが勇者を心配するように、勇者の背を、そっと抱いた。

「あなたは、悪く、ないです。あなたは、一人で抱え込みすぎですよ」

 その言葉に、勇者は、何も答えなかった。

 だが、心のなかでは、答えていた。

 違う。違うんだ。

 俺が、悪いんだ。俺が、本気を出せば、一分もかからずに、あんな魔族は殺せたんだ。

 それなのに、俺は、魔王との戦い――魔族との最終決戦の前に、一度でも多く、この国の兵たちに実戦を経験させ、最終決戦での勝利を確実にするために、第四ごときを相手に、あんなに時間をかけて、戦っていたんだ。 

 しかも……、勇者は自分のことが嫌になった。自分の胸中にある、思い。それが存在するのが、この上なく、嫌だった。

 勇者は、嬉しかったのだ。

 第三を見たとき、嬉しかったのだ。第三の、魔力。それを見たとき、勇者は、嬉しいと思ってしまったのだ。

 王が、死んでいるのに。

 それを知りながら、嬉しさが上回ったのだ。

「……くそっ」

 勇者は、自責した。

 サヤは、それに対し、もう何も言わずに、ずっと、勇者に抱きついていた。




 ――勇者は利己主義だ。

 自分のことしか考えていない。自分の利益しか考えていない。

 そして、彼は、ヒトに対しても――ヒトだけでなく、この世の全ての事象に対しても、それは適用される。

 彼がヒトの死を悲しむのは、それだけのこと。

 ヒトの死が、彼にとって、不利益なことというだけのこと。

 勇者は利己主義だが、それは感情を持っていないというわけではない。

 彼は感情を持ち、その感情の上で、利己主義の思考を展開している。

 利己主義でありながら、彼は、誰よりも、優しく、誇り高い。

 全て自分のためだと思い込み、自分のために、他人に尽くす。

 自分のために、世界を救う。

 そんなことを、本気で、はっきりと、言うことのできる人間。

 それが、勇者だ。

 それが、勇者という、一人の人間だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ