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利己主義勇者と良き魔王 【序】  作者: 雪祖櫛好
第四節 終わりの始まり
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終わりの始まり 【Ⅲ】

人間の軍。

「時間がもったいない。だから、簡単な命令だけを済ませる」

 勇者は言った。

「ここに俺の疑似精神体を置いていく。詳しいことはそいつが話す。とりあえず、俺が最初に魔族へ大規模魔法を仕掛ける。それで少なくとも半数は殺すことができるだろう。全滅も狙いたいが、どうなるかわからん。その大規模魔法の後は、俺があの軍の将と戦闘することになるだろうから、雑魚に気を払ってはいられなくなる。将を倒し次第、俺も加勢するが、それまでは、お前らに頼むことになる。……よし、大規模魔法の構築が完了した。じゃあ、後は任せた」

 勇者が爆発的に魔力を放出し、その場から消える。ただの魔力放出ならば、この場の全てが消し飛ぶほどの魔力放出だったが、勇者はそれをただ移動するためのエネルギーとして使用したらしく、魔力の余波は伝わったが、物質的な衝撃はほとんどなかった。『ほとんど』というのも、勇者という物質が高速で移動したことによって生じた衝撃があったから『ほとんど』であり、魔力放出に限れば、その物質的な衝撃は全くなかった。

《じゃあ、説明しようか。『俺』が言った通り、時間は一刻を争う。すぐに話を始めさせてもらうぞ》

 勇者の声。

 それに目を向けると、そこには何もなかった。

 だが、在った。

 魔法を扱える者ならば、わかった。

 そこに、それが、在ることを。

 疑似精神体。

 それが、そこには、在った。

《俺に感心してないで、ちゃんと聞けよ》

 勇者のような言葉。そしてそれは真実だった。

 グローリーやリストは疑似精神体という魔法に感心していた。

 感心する時間は、確かに無駄であり、グローリーとリストはすぐに気を改め、疑似精神体の言葉に耳を傾けた。

 そして、それは、自らの戦略を話し始めた。




「久しぶりの戦闘だ」「身体が鈍っているんじゃないのか?」「心配ないさ」「閣下に鍛えられているからな」「あのガキ……今は勇者だったか。あいつには勝てないが、それでも、魔族と戦えるほどにはなっているはずだ」「他の国では魔法都市が滅んだことにより、魔族への戦いを諦めようだなんてことがあったみたいだが」「それはどこの国だよ。我らが王なら絶対に言わないことだな」「ああ。だから、その国はすぐに我が領土の一つになったよ」「俺らが出ていないのに領土になったってことは、戦うこともせずに、か」「臆病者にもほどがあるが、賢明な判断だな」「我が国に勝てるはずもないし、我らが王は世界の覇王となるべき存在だからな」「我らが王に勝るような王などいるはずもない」「それに、もし戦争になっていても、我らが国は応じるつもりもなかったがな」「今はそんな時ではないからな」「魔族との戦争を最優先にしなくては」「それがわからずに人間同士で戦争をしているところも最近まではあったらしいが」「勇者がいなければ、今もそうだったかもしれないしな」「愚かな。共通の敵がいても、こうなのか」「そう言うな。我らが王の下でなければ、俺たちもそうだったかもしれないのだ」「だが、今は、違う」「人間同士で戦争をする時も、いずれは来るのだろうが」「今は魔族との戦争だ」「それが最優先だ」「そして、今、それは始まる」「準備はできたか?」「当然」「訊く必要があるか?」「勇者から授けられた知識も有効活用していこうか」「本当に勇者は忌々しいまでに天才だな」「俺らの鍛錬も考えての戦略も教えられたしな」「あれはどこまで考えているのか」「感謝しないとな」「これなら、絶対に勝つことができる」「魔法の発動がここまで容易になるとはな」「それに、威力も上昇するらしい」「それは試してはいないが」「では、行こう」「今までの借りを、一気に返済してしまおうか」「魔族。これからは、お前らが、人間に怯える時だ」




 グローリーとリストは遠隔魔法による砲撃。最も魔法の扱いに長ける二人には、危険性をできるだけ排除した位置から、強力な魔法で魔族を殲滅する役割を負わせることが適切だと判断した。

 兵士を四十人で一つの隊を作り、その中の一人に通信兵の役目を負わせる。司令塔である勇者の疑似精神体からの命令を隊員に伝える役割、及び逐次状況の伝達の役割を負わせることにした。本来ならばもう少し分けたほうが良かったのかもしれないが、通信兵の役割を果たすことができる兵士の数、次いで、情報の混乱を考慮した。

 その他、兵士ではない配下たちには、街の住人たちの退去を誘導させた。




 ――簡単にまとめれば、勇者の疑似精神体が指示したのは、そんなことであった。

 そして、今。

 人間の兵士たちの前には、大勢の魔族がいた。

 統制のとれた魔族。自らの将が勇者と戦っていても、その統率は保ったまま。よほど訓練された軍隊と思える。

 そんな魔族は初めてだった。だが、だからといって、それに驚愕を覚えることはなかった。(皮肉なことだが)、彼らは人間との戦闘を多く経験していたのだ。狡猾な人間との戦闘を。それと同じようなことを魔族がしたからといって、それに驚くはずがない。

 兵たちは、待つ。

 その時が来るのを。

 合図が来るのを。

 好機が来るのを。

 そして、それは、来た。

《総員ッ! 伏せろォォォオオオオオオオオオオオオ!》

 四十分の一による、通信魔法。

 それに従い、彼らは、一斉に、地に伏せる。

 直後。

 魔族を、嵐が襲った。それを見て、魔族は、だが、避けなかった。

 何故か。人間の魔法など、と思っていたから? 油断していたから? 誇り高い魔族だから、愚かにも、真っ向から相手をしようと思ったから?

 否。

 その理由は、単純明快。

 避けなかったのではなく、避けられなかったのだ。

 グローリーによる、魔法で。

 ――空間停止魔法。対象を空間ごと停止する魔法。

 数年前、魔王に使った魔法。

 それは、今、その域にまで達していた。

 魔族の軍を、一斉に止めるほどにまで。

 そして、そこを、嵐が襲う。

 リストの魔法。風の魔法。その発展。

 それが、魔族に直撃し。

 その光景を見た瞬間、兵たちは、一斉に魔族の方へ向かっていった。

 待ち望んだ戦場へと、身を投じるがために。


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