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利己主義勇者と良き魔王 【序】  作者: 雪祖櫛好
第四節 終わりの始まり
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女の戦い 【Ⅲ】 ―戦いの裏で―

女の戦いの裏で、勇者はそんなことをしていた。

 サヤがそんなことをしている間、勇者は一国の王たち相手に上から目線で命令していた。

 内容は簡潔――戦争をやめろ。

 そこにはこの国の周辺の国々の王が集められており、それは勇者が集めたのだった。勇者がほんの少し魔力を放出すると、みな喜んで集まってくれた。素直になったものだ。

 戦争をやめろという勇者の言葉に、王たちのほとんどが、やめられるものならやめている、と答えた。そうして、こいつの国がナントカ、と言うのである。

 ここに集められた王たちには、敵対同士の国の王たちもいた。というか、隣接した国と戦争をするのだから、周辺の国の王を集めれば、そうなるのは当然の帰結と言えよう。

 そうして、王たちは様々な文句を喚き立てた。

 勇者はそれをすべて聞き、ぶっちゃけどうでもいいとすら思った。

 しかし、勇者もいずれは世界征服をしようと夢見る身。そう考えると、王たちの考えもわからなくもない。

 それだからといって、現在優先すべきは魔族の対処であることは確かだ。利己主義である勇者ですら、魔族を先に倒そうとしているのだから、それは当然のことである。

 だから、勇者はそれを優しく身体に教え込んでやろうかと思ったが、現在の目的は、そんなことで得られるものではない。協力を得なければいけないのだ。そのためには、どうするべきか。

 恐怖政治というのは、勇者の好きなことではないし、そうしたならば、反抗される可能性も大いにある。もしかしたら、魔族の側につくなどと言い出す可能性すらある。

 ならば、どうするべきか……勇者は考えたが、考えるまでもなかった。

 故に、勇者は言ったのだ。

「なら、俺がその問題の全てを解決してやろう」

 ――そうして、勇者はすべての解決策を提示し始めた。国と国の問題を、様々な視点から見据え、その解決策を提示する。勇者にとって、それは簡単なことだった。

 魔法技術を利用した解決策。戦争に勝った利益よりもさらに高い利益を得ることのできる解決策。そういった解決策をどんどん提示していったのだ。

 他にも、戦争をするデメリットも提示した。人々の死は無論のこと、土地が荒れる可能性、疲弊した国に魔族が襲った時のリスク、武器を作るための資源、その他色々。

 それに王たちは納得した。

 勇者の言葉は確かに素晴らしいものだったが、少し知恵のある者ならば誰もが思いつくべきものだった。そして、その知恵のある者は、王に勇者と同じ事を言ったはずだ。しかし、そうなってはいない。

 真に賞賛すべきは、その話術。勇者は人の心を誘導する術に関しては一級品のものを持っている。その話術によって、勇者は王たちに納得させることができたのだった。

「だが、今始まっている戦争を、どう止める?」

 一人の王が言った。それに王たちはざわめきだした。そのとおりだ、戦争中の兵士たちに、どう説明すれば良いのだ。どう民衆を説得すれば良いのだ。どうすれば、どうすれば……。

 勇者はこんな王で大丈夫かよ、と思いながら、言った。

「それも俺が解決する」


   ・・ ・


 勇者は戦場にいた。

 転移魔法を使ったのだ。

 そして、眼下に広がる光景を見る。

 人。人。人。

 二つにわかれた人の大群。

 それは砂埃を舞い散らして近づいていく。

 そして、その時。

 勇者は、ただ、そこを、斬った。

 その二つの、間を。

 地が大きく割れ、同時に、地が揺れる。

 それに驚いたらしい人の群は止まる。そして、何が起こったのかを理解しようとして、敵の仕業ではないかと怯える。

 そこに、勇者が現れた。

 勇者は彼らのちょうど中間地点にいた。

 地が割れた、その亀裂の上に。

 有り体に言えば、彼は宙に浮かんでいた。

《お前らに告げる。戦争は、終わりだ》

 勇者は言った。通信魔法を使ったのだった。故に、その場にいる全ての人間がその言葉を聞いた。

 人間たちは戸惑った。どういうことだ、あいつは何を言っている、敵の魔法か、そんな言葉が飛び交っているのが聞こえた。

 その反応はわかっていた。

 そして、すぐに、なんらかの反対の声が上がることも予想していた。

 それは面倒なので、勇者はさっさと一枚目の切り札を出した。

 全く同時に、二つの王紋を見せたのだった。

《これが証拠だ》

 勇者は言った。その紋章の意味はすべての者が知っていた。王に認められた者にしか与えられないという紋章。それが王紋だった。

それが二つあるということ。それが何を表すかは予想できた。

 しかし、それだけで納得できない者たちも大勢いる。それも予想していた。

 故に勇者は、その場に彼らの国の王を転移させた。

 そして、彼らは、それぞれの言葉で、戦争をやめるように言った。

 それに反抗する者もあった。しかし、その声はすぐに止んだ。

 勇者の存在だった。

 彼が、ただ、魔力を放出した。そして、彼は言ったのだ。

《なら、この俺と、戦うか?》

 その言葉に歯向かうことのできる者などいなかった。人数など関係なく、一瞬で彼我の差を思い知らされたのだった。

 勇者はそれに、もう少し良い方法はなかっただろうか、と思ったのだが、その時の彼にはそれ以上の方法は思いつかなかったのだ。その話術を使えば、数分足らずで納得させることができたが、それは時間がかかりすぎだ。この瞬間にも、他の戦場では、人が死んでいるかもしれないのだ。一分一秒を無駄にはできない。

 ――そうして、その戦争は終わった。

 そのようにして、勇者は同じ方法で多くの戦争を終わらせた。

 ……無論のことながら、勇者やサヤのように魔力親和性が高い人間以外はそのような転移魔法の使い方は不可能であるため、転移させたように見せた王たちは、みな、勇者のつくったフェイクである。

 しかし、それでもなんとかなったし、誰にもそれを気付かれることはなかったので、勇者は、もしかしてこの王たち全然信頼されてないんじゃないのか、と思った。



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