女の戦い 【Ⅰ】
というよりも、サヤの戦い。
今、私は戦っています。
それはきっと、勇者様にはわからない、女の戦い。
その前に、私達がどこにいるのかを話しておいたほうがいいかもしれません。私たちは、今、お城にいます。
私の故郷の国。その首都の、お城です。
勇者様がここに来た理由は、人間同士を団結させること、だったと思います。間違っていたらすみません。でも、そう言っていたはずです。
そろそろ魔王との最終決戦だから、人間の力も借りようと思ってな、とは勇者様の言葉。勇者様が他人の力を借りるなんて……やっぱり魔王はそれほどまでに強いのでしょう。私としては、その『人間』が足手まといにならないか、とても心配ですけれど。
しかし勇者様のことです。そのへんもきちんと考えているでしょう。あの人は強いけれど、頭もとっても良いのです。私なんかじゃ考えつかないようなことを容易に考えたりするのです。だから、私なんかが疑問を持っていては、ダメなのです。……勇者様には、疑問をもつことはいいことだから、それを全て言えと言われていますが。
ま、まあ、それはおいといて、話を戻しましょう。
私はお城にいるのですが、勇者様に自由行動を命じられたのです。そして、私は勇者様の言うとおり、自由行動をしているのですが、このお城が、広いのなんの。
私はすぐに迷いました。
それで私が困っていたところ、む、という声が聞こえました。
貴様、勇者の……。そう言ったのは、何を隠そう、我が領主、シェーラ様だったのです。
私は驚きました。どうしてここに? そう尋ねました。
いや、勇者に連れられて、な。シェーラ様は答えました。それで、どうした? 勇者は一緒じゃないようだが……もしや、迷子か?
うっ。私は思わず、そんな声を出してしまいました。図星だったのです。
それを見て、シェーラ様はふっと微笑みました。その微笑みは美しく、まるで氷の女神様のようでした。氷の女神様なんているのかどうか知りませんが。
……まあ、そんなこんなで、私は今、女の戦場にいるのです。
シェーラ様に連れていかれた先。そこには、たくさんの女性がいました。
勇者様に命を救われた女性ばかりが。
……。
いや、勇者様がそんなことをする人だということはわかっています。あの人は自分を利己主義だなんて言っておきながら、困っている人間を見逃せずにはいられない人ですから。……以前、そう言ったときには、『それが俺にとっての利益だから、俺は利己主義であっているんだよ。困っている人間を見逃すなんて、胸くそ悪い。そして、救ったら、感謝されるし、それはそれで嬉しい。ほら、利己的な思考だろう?』、なんて言われましたが、私からはただの良い人にしか見えません。これは、私がおかしいのでしょうか。
そもそも、大抵の場合、勇者様は人を救っても、感謝されません。逆に恨まれたり、憎まれたりします。なんでもっと早く来てくれなかったの。なんで殺してくれなかったの。死にたかったのに。私だけが生き残りたくなんかなかった。その他色々。そんなことを言われるのがほとんどです。……思い出すとあの頃の私に魔法でばばばーんってしちゃいたくなりますが、私もそうでしたし。
それでも勇者様は、『そんなやつの言葉に俺が胸を痛めるとでも? 確かに、感謝されないぶん、プラスは減るが、それは俺にとってのマイナスではない。そもそも、人が死ぬとこなんて、見るだけでマイナスだ。それを救えた時点で、マイナスはゼロに近くなる。よって、俺のやっていることは結果的には利己的なんだよ』、なんてことを言いますが。
なんだか、勇者様って不思議です。ツンツンしているように見えて、デレデレなような気がします。言動は『お前らなことなんかどうでもいい。俺は自分のためにやっているんだ』みたいな感じですが、行動は他人を救い、困っている人物を見逃せないようなもの。……なんだか、勇者様って、実はとっても可愛い人じゃないのかな、って最近思うようになってきました。勇者様には秘密ですけれど。
そして、勇者様の気遣いはただ救うだけではなく、その後もきちんと世話をするということです。アフターケアも万全というわけです。
つまり、ここにいる女性。勇者様に救われた女性は、勇者様のアフターケアによって、ここにいるのです。勇者様に救われるような人は、ほとんどの場合、その住む場所を失っています。魔族に襲われているところを救うことがほとんどなので、当然といえば当然ですが。
だから、勇者様は、その人たちに、職場と住居を提供するように、王様に交渉をしたりするのです。この国の王様は良い人らしく、勇者様の提案に快く協力してくれたようです。ちなみに快く協力してくれなかった王様は勇者様が武力行使でむりやり従わせます。
そんなことをするのはやっぱり利己主義から外れているというか、これまでのはまだ納得できるにしてもこれはさすがに納得できません。
そう言うと、勇者様は、『俺が救った人間だ。男は兵に、女は後宮に、ってことだ。俺が命を救ったんだから、それくらいの権利はあるだろう。特に、女。これは明らかに利己的な考えだろう』、なんて言ってましたが、これだけ一緒にいる私に全く手を出していない時点で、それもどうだか。……ほんとに、全く手を出さないんです。私、そんなに魅力がないのかなぁ。勇者様に、女として見られてないのかなぁ。……ぐすん。
…………話がずれましたね。とにかく、ここには勇者様が救った女性たちがいるのです。
あんな格好いい勇者様に命を救われて、最初に悪態を吐いてしまったけれど冷静になって考えると感謝の念を覚えるに決まっていて、しかもアフターケアまで万全で、あとは何も望まず、『カラダで払ってくれればいいさ』なんて冗談のように言われ、何の恩返しもできていない女性たち。
……そりゃあ、惚れますよ。勇者様に。たぶん、ゾッコンってやつですよ。私の想いがそれに負けているとは到底思えないですけど、それでも、勇者様に惚れていることは確かだと想います。
なんかそわそわしてるし。私に勇者様の話を訊いてくるし。はやく勇者来てくれないかな、なんて漏らす女性もいるし。
……これでわかったでしょう。
ここは、戦場。
女の、戦場なのですッ!