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利己主義勇者と良き魔王 【序】  作者: 雪祖櫛好
第四節 終わりの始まり
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ひとつの可能性 【Ⅵ】

人間と魔族は共存できたかもしれないという、可能性の証明。

「あの人たち、結局、なんだったんだろう」

 ソフィが呟いた。それにはスウも同感だった。

 第一に、来るはずだった『ノッシュ夫妻』は?

 もしや、彼らがそうだったというのだろうか。いや、彼らのはずなのだが……わからない。

 そう言うと、ソフィは「そういう意味じゃなくて」とぷんぷん怒った。しかしそれはスウにもわかっていた。

 彼らの目的。彼らが何をするために来たのか。

 それを訊ねたのだろうことはわかっていた。

 だが、それに答えることはできなかった。その答えがわからなかったからではなく、その答えがわかっているからこそ、答えることができなかったのだ。

 簡潔に言えば、自分を殺すため。

 ただ、それだけのことだろう。

 そんなことを、ソフィに言えるはずがない。

 あの青年は、スウを殺すために来た。しかし、殺さなかった。……いや、正確には、そもそも殺すために来たのではなく、殺すかどうかを見極めるために来た、という方が適切か。

 そして彼らはスウを殺さなかった。殺さないという選択をした。

 ……だが、スウが悩んでいるのはそんなことではなかった。それはソフィには言えないことだが、答えが出ている。そんなことに悩む必要などない。

 スウが悩んでいるのは、青年が言ったこと。

『魔王を倒す』。

 それはスウにとっては信じられないことだった。あの魔王を倒すなど、できるはずがないのだ。魔王以外のすべての魔族を倒すことならば可能かもしれない。だが、もしもあの青年が、その通り、魔王以外の全ての魔族を倒し、その魔力を得たとしても……それでも、魔王には敵わないだろう。魔王は、それほどまでに、強い存在なのだ。

 もしも魔王が、人間の国にしばしば存在する暴君であったならば、スウは絶対にここにはいないだろう。そもそも裏切ることなどせず、ただそれに従うだろう。魔王は優しく、王としての素質にも優れている。だが、魔王に限って言えば、おそらく、彼女は暴君であったほうが良かった。『魔王』としての素質は、彼女には、ない。

 彼女は優しすぎた。魔族のことを考え過ぎた。だが、彼女には、そんなものは必要なかった。それにより、魔族は彼女に異常なほどの忠誠心を抱いているが、(現に魔王を裏切っていることになる自分ですら、未だに魔王に対しての忠誠心を完全に拭えないでいるほどに)、本来、そんなものは、必要ないのだ。

 彼女は暴君であるべきだった。なぜなら、暴君である彼女に反抗する者など存在するはずがないからだ。その他の全ての魔族が彼女に反抗したとしても、彼女はそれに勝るからだ。

 しかし、彼女は暴君ではなかった。だから、スウは今ここにいて、魔王から見逃されている。魔王の、深い慈悲のおかげで。

 そう思うほどにまで強い魔王。

 それを、倒す……。

 そんなことは、非現実的なことだった。

 ありえないことだった。

 だが。

「……だが、もしそうなったら」

 もしそうなったら、自分は、どうすれば良いのだろう。

 喜べばいいのか、悲しめばいいのか。

 どちらなのだろうか。

「……スウ?」

 ソフィがスウの方を向いて、首を傾げる。「どうしたの?」

 それを見え、スウははっとする。そして、微笑む。

 そうだ、そんなのは、決まっている。

 えっ、どうして、そんな顔するの。とソフィが戸惑うように言っているが、スウは微笑みを消すことができない。

 選択するまでもない。

 今の自分の主が、誰なのか。

 それを考えれば。

 ……。

 その後、ソフィはスウに微笑みの理由を訊ねたが、スウは答えず、それにソフィが頬を膨らませ、そんなことをしているとソフィの父親が帰ってきて、ソフィをからかい、ソフィが顔を真っ赤にしたりするのだが、それはまた別の話。


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