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利己主義勇者と良き魔王 【序】  作者: 雪祖櫛好
第三節 『開戦』
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第三節 -18- 東

 ――魔法都市・東部。障壁から数百メートル以上離れた場所。

 そこには猛スピードで動く、巨大な魔族がいた。

 三対六本の強靭な脚は地を蹴り、猛スピードで障壁へと向かっている。脚から視線を上げると、それは馬の胴のようだった。そして、そこから人間の上半身のようなものが出ている。上半身が人間。下半身が馬という、半人半馬、つまりはケンタウロスを思わせる姿だったが、脚が六本の時点でわかるように、それはケンタウロスと全く同じではなかった。

 上半身は毛深く、腕は脚と同じように三対六本。筋骨隆々としていて、その手には武器があった。

 真ん中の一対は右手に斧。左手に槍を持っている。上の一対はその両手で弓を構えている。下の一対は武器を持っておらず、だがその両腕にはびっしりと紋様が刻まれていた。

 そして、何よりも驚くべきは、そのスケール。

 その魔族の肉体は、およそ五十メートルもあった。故に、魔族が持つ武器も、それ相応の巨大さということだ。

 そんな魔族が、脚で地を蹴り、障壁へと向かっているのだ。

 数百メートルあった距離も、一瞬で縮まり、もう魔族は障壁に当たろうとしていた。

 そして、魔族は、障壁に、達する。

 すると、魔族は障壁を意にも介さず、そのまま踏破した。

 そのスピードを全く緩めず、ただ、進むだけ。

 それだけで、障壁は、魔族の強靭な脚に踏み砕かれた。

「我が名はトーラ! 第四トーラだ! 魔王様の命により、貴様等を蹂躙する!」

 蹂躙。

 まさにその言葉の通り、トーラは魔法都市を蹂躙した。

 その手に持つ武器を振り回し――ただの一度、斧を振るだけで数十の建造物が地盤ごと断ち切られ、槍を振るうだけで数十の建造物がなぎ倒された。

 しかし、それすら、実際は不要だった。

 トーラがただ駆け回るだけで、都市は壊滅状態になった。

 一歩。

 それは建造物を踏みつぶし、そこにいた人間もまた、容赦なく踏みつぶす。その一歩の衝撃により、その周囲の建造物もまた、崩れる。一歩だけで地が割れ、その亀裂に巻き込まれる人間や建造物もあった。

 魔法都市の人間は魔法でそれに立ち向かおうとする。だが、当てるだけでも一苦労だった。およそ五十メートルの巨体が縦横無尽に駆け回っているのだ。そのスピードは計り知れない。だが、五十メートルもの巨体なのだから、的が大きいのも事実であり、魔法が直撃することもあった。しかし、五十メートルもの巨体を持つ者に、ただの魔法が通用するはずもない。

 彼らは、現在、西部や南部に起こっている惨状を知っていた。それに即急な対処もした。魔法都市は既に要塞と化していた。対魔族の要塞。どのような魔族であっても、関係ない。

 だが、そのような想定の内に存在する魔族は、今、この魔法都市に存在しなかった。

 西部に第六。南部に第五。そして、東部には今、第四が侵入した。

 このような事態を、一体、誰が予想するだろうか。

 人々は逃げまどい、立ち向かい、隠れ――様々な選択があった。だが、彼らの辿る末路は、皆、同じだった。

 トーラの脚に、踏まれる。

 それだけで人々はぺしゃんこになった。

 瞬間的に尋常ではないエネルギーが人間目がけて落下することにより、実際に、人間はぺしゃんこになったのだ。

 紙のようにぺらぺらに。骨折などない。傷などない。完膚なきまでにぺしゃんこに。

 トーラが脚で地を蹴るごとに、人間の紙が製造された。

 そう、それは人間の紙としか形容できないようなものだった。

 それが死骸などではなかった。死体などではなかった。それは、『人間の紙』。人間を紙にしたもの。そうとしか形容できないものだった。

 どのような体勢で潰されたかによって、その紙は変わっていた。しかし、その形状は、ほとんど同じだった。顔から潰されただろうそれは、中心に人間の顔があり、そこから広がるようにして皮や衣服が窺える。手や足は紙に描かれたように見え、紙の横からは血がほとばしっていた。

 無論、身体の一部だけを潰された者もいた。左肩から踏み抜かれただろうそれは、左半身だけが紙になっていた。その残りはどうなったのか。当然だ。身体の左右一方に力を加えられれば、もう一方がそちらに引きずり込まれたようになるだろう。それと同じように、その残った右半分は頭から、その左半身を押しつぶすそれに突っ込み、摩擦で磨り潰された。それだから、左半身だけの紙の上に積もるようにして、粉状になった人間の肉がその紙には添えられていた。

 そんなものを大量に製造し――トーラは何の前触れもなしに、突然、その疾駆を止めた。

 そして、彼は心なしか顔をしかめた。

「……ふむ。やはり、吾輩一人だけであると、蹂躙し尽くすのにも結構な時間がかかるな。だが、栓方ないか。今度は、そのような命であったのだから」

 そう呟き、彼は再びその疾駆を始めた。

 その蹂躙を始めた。


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